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1st side*Natsume
Act.1
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彼女は俺をからかってる――
水島萌恵に突然声をかけられ、告白された時、夏目毅弘は即座に思った。
萌恵はその頃、まだ十九歳。前年に高校を卒業したばかりだった。
対して夏目は四十路。肩書も〈主任〉という、年齢的に考えて出世コースからは完全に外れた存在だった。
特別美男でもなく、突出した才能もない。下手すると親子ほど年の離れた萌恵が自分に好意を寄せている。しかも、好意を寄せられたきっかけも全然分からない。だから、萌恵の告白に疑念を抱いたとしても無理はなかった。
だが、さすがに面と向かって「俺を馬鹿にしてるの?」などとは言えなかった。それは萌恵の気持ちを配慮して、というよりも、夏目自身が女性に対し、元々気を大きく持てない性格だからだった。
代わりに、夏目は慎重に萌恵に告げた。「君は俺より一回り以上も若いんだ。もっと手近にいい男がいるだろ?」と。
その夏目に対し、萌恵は真っ直ぐな視線を注ぎながら返してきた。
「私はチャラい同世代の男子より、夏目さんのように真面目な男性がいいんです」
確かに萌恵の言う通り、夏目は〈真面目〉を絵に描いたような男だ。ただ、真面目過ぎるがゆえに要領が悪い。出世がなかなか出来ない原因のひとつもそこにあった。
だが、萌恵は夏目の不器用なところも良いと言ってきた。何もかもをひっくるめて好きなのだと。
夏目は少し考え、まずは当り障りのない関係で付き合うことを決めた。からかわれているとは思いつつ、それでも告白されたのは素直に嬉しかった。
◆◇◆◇
それから、夏目と萌恵は休日にちょくちょく逢うようになった。もちろん、〈当り障りのない関係〉だから、日中に映画を観て、そのあとに食事というのがいつもの行動パターンだった。そして、あまり遅くならないうちに、夏目が車で萌恵の自宅まで送った。
◆◇◆◇
この曖昧な関係は三カ月ほど続いた。その間、萌恵は特に不平を漏らすことはなかった。むしろ、夏目と一緒にいることがつまらなくなっていたかもしれない。
萌恵はまだ若く、夏目にはもったいないほど可愛い。同世代は興味がないと言ってはいたが、やはり、夏目のようないわゆるオヤジよりも若くて見た目も良い男に心変わりしても不思議ではない。
本音を言えば、萌恵に逢う毎に萌恵への想いが募っていた。萌恵を自分だけのものにしてしまいたい、と思いつつ、同時に、見限られたら静かに身を引く覚悟でもいた。
萌恵にはまだ未来がある。そんな若い彼女を縛り付けてしまうことに、少なからず恐怖を覚えた。
水島萌恵に突然声をかけられ、告白された時、夏目毅弘は即座に思った。
萌恵はその頃、まだ十九歳。前年に高校を卒業したばかりだった。
対して夏目は四十路。肩書も〈主任〉という、年齢的に考えて出世コースからは完全に外れた存在だった。
特別美男でもなく、突出した才能もない。下手すると親子ほど年の離れた萌恵が自分に好意を寄せている。しかも、好意を寄せられたきっかけも全然分からない。だから、萌恵の告白に疑念を抱いたとしても無理はなかった。
だが、さすがに面と向かって「俺を馬鹿にしてるの?」などとは言えなかった。それは萌恵の気持ちを配慮して、というよりも、夏目自身が女性に対し、元々気を大きく持てない性格だからだった。
代わりに、夏目は慎重に萌恵に告げた。「君は俺より一回り以上も若いんだ。もっと手近にいい男がいるだろ?」と。
その夏目に対し、萌恵は真っ直ぐな視線を注ぎながら返してきた。
「私はチャラい同世代の男子より、夏目さんのように真面目な男性がいいんです」
確かに萌恵の言う通り、夏目は〈真面目〉を絵に描いたような男だ。ただ、真面目過ぎるがゆえに要領が悪い。出世がなかなか出来ない原因のひとつもそこにあった。
だが、萌恵は夏目の不器用なところも良いと言ってきた。何もかもをひっくるめて好きなのだと。
夏目は少し考え、まずは当り障りのない関係で付き合うことを決めた。からかわれているとは思いつつ、それでも告白されたのは素直に嬉しかった。
◆◇◆◇
それから、夏目と萌恵は休日にちょくちょく逢うようになった。もちろん、〈当り障りのない関係〉だから、日中に映画を観て、そのあとに食事というのがいつもの行動パターンだった。そして、あまり遅くならないうちに、夏目が車で萌恵の自宅まで送った。
◆◇◆◇
この曖昧な関係は三カ月ほど続いた。その間、萌恵は特に不平を漏らすことはなかった。むしろ、夏目と一緒にいることがつまらなくなっていたかもしれない。
萌恵はまだ若く、夏目にはもったいないほど可愛い。同世代は興味がないと言ってはいたが、やはり、夏目のようないわゆるオヤジよりも若くて見た目も良い男に心変わりしても不思議ではない。
本音を言えば、萌恵に逢う毎に萌恵への想いが募っていた。萌恵を自分だけのものにしてしまいたい、と思いつつ、同時に、見限られたら静かに身を引く覚悟でもいた。
萌恵にはまだ未来がある。そんな若い彼女を縛り付けてしまうことに、少なからず恐怖を覚えた。
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