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Chapter.8 過去より今が大切
Act.5
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休日ということもあり、広いはずの店内も人でごった返していた。
高遠さんはずっと私の手を繋いでくれている。強く握っていないと、あっという間にはぐれてしまいそうだ。
何となく歩いていると、宝飾品の店が目に留まった。そこは学生の私には敷居が高いから、いつも素通りしてしまう。
「あそこ、寄ってみる?」
高遠さんの声に、私はハッと我に返る。無意識に宝飾店を凝視してしまっていたらしい。
「あ、いえ……」
濁そうとしたものの、高遠さんは、「気になるんだろ?」となおも訊いてくる。
「別に無理に買うこともないんだし。行ってみよう」
結局、高遠さんに引かれるように宝飾店へと足を向けた。
ガラスケースに納められている宝飾品はどれも綺麗だ。指輪にネックレス、イヤリングやピアスと、見ているだけで目の保養になる。ただ、やはりお値段は決して可愛くない。バイトをしていても、とても気軽に買える代物ではない。
「気になるのとかある?」
値段を見て心の中で溜め息を吐く私に、高遠さんが訊ねてきた。
「欲しいのがあるなら遠慮なく言っていいから」
「――いや、さすがにここでは……」
「どうして?」
「えっと、お値段がですね……」
「お値段?」
高遠さんはガラスケースの中をまじまじと見て、「ああ」と小さく頷いた。
「大丈夫だよ。数万程度なら買える」
「ダメですよ!」
あまりに軽く言われ、わたしもつい、強い口調になってしまった。
「チョコのお返しに何万もするものなんて悪いです。それにお金の無駄遣いです」
「ん? さっき絢は言わなかった? 俺の選んだものでもいい、って」
「そ、それは……」
「じゃあいいだろ? 絢に似合いそうなアクセサリーがあったからそれにするよ」
返す言葉が見付からなかった。確かに、お返しを高遠さんに委ねたのは本当のことだ。でも、やっぱり金額的にも悪い。
「出来る限り安いのにして下さい」
これぐらいはと思い、必死で懇願した。
高遠さんは私をチラリと一瞥し、「俺のセンスに口出さないで」とサラリと返されてしまった。
私が固唾を飲んで見守る中、高遠さんは店員さんを呼び、「それを」とガラスケースの中のネックレスを指差した。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員さんが高遠さんに差し出したのは、ハート形のピンクトルマリンがあしらわれたネックレスだった。
「これをプレゼント用にしてもらえますか?」
「かしこまりました。ありがとうございます」
目の前に相手がいるのに、わざわざプレゼント用にというのも変な気がしたけれど、それも高遠さんなりの気遣いなのかもしれない。それ以前に、私はわがままを言える立場じゃない。
しばらくすると、店員さんはネックレスの箱が入った小さな紙袋を持って来た。
「おまたせいたしました」
高遠さんはクレジットカードで会計を済ませ、紙袋を受け取った。そのまま私に渡されるのかと思ったのだけど、高遠さんは店を出てからも紙袋を持ったままだった。
「あとで渡すよ」
高遠さんはにこやかに私に告げてきた。
「よし、まだ時間があるし、少し見て回る?」
「はい。良かったら服とかバッグも見たいです」
「あ、もしかして服とかの方が良かった?」
不安げに訊ねてきた高遠さんに、私は慌てて、「違います!」と強く否定した。
「欲しいってわけじゃないんです! ただ、見てみたいな、ぐらいな気持ちで。高遠さんに選んで買ってもらったネックレス、凄く嬉しいです」
「――無理してない?」
「してません」
「ほんとに?」
「ほんとです」
モール内で押し問答を繰り返す私と高遠さん。傍から見たら、喧嘩をしているように映っていたかもしれない。
高遠さんも状況に気付いたらしい。「ダメだな」とばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「これじゃあ子供の喧嘩だ。俺が大人にならなきゃいけないのに……」
「――いえ、それを言ったら私もです……」
「絢はそのままでいいんだよ」
「ダメです。もっと、高遠さんに釣り合うような女にならないと……」
あえて本音を口にした。年齢差はどうあっても縮められない。けれど、精神的になら自分しだいで成長を遂げられると思う。ただ一緒にいて大切にされることは嬉しいけれど、やはり、高遠さんと対等に並んで歩きたいと思うのは当然のことだ。
「焦らなくていいから」
そう言って、高遠さんは手を強く握る。
結局、私は高遠さんの優しさに甘えてしまう。もし、この人を失ってしまったら私はどうなるのか。隣にいながら不意に不安に駆られた。
高遠さんはずっと私の手を繋いでくれている。強く握っていないと、あっという間にはぐれてしまいそうだ。
何となく歩いていると、宝飾品の店が目に留まった。そこは学生の私には敷居が高いから、いつも素通りしてしまう。
「あそこ、寄ってみる?」
高遠さんの声に、私はハッと我に返る。無意識に宝飾店を凝視してしまっていたらしい。
「あ、いえ……」
濁そうとしたものの、高遠さんは、「気になるんだろ?」となおも訊いてくる。
「別に無理に買うこともないんだし。行ってみよう」
結局、高遠さんに引かれるように宝飾店へと足を向けた。
ガラスケースに納められている宝飾品はどれも綺麗だ。指輪にネックレス、イヤリングやピアスと、見ているだけで目の保養になる。ただ、やはりお値段は決して可愛くない。バイトをしていても、とても気軽に買える代物ではない。
「気になるのとかある?」
値段を見て心の中で溜め息を吐く私に、高遠さんが訊ねてきた。
「欲しいのがあるなら遠慮なく言っていいから」
「――いや、さすがにここでは……」
「どうして?」
「えっと、お値段がですね……」
「お値段?」
高遠さんはガラスケースの中をまじまじと見て、「ああ」と小さく頷いた。
「大丈夫だよ。数万程度なら買える」
「ダメですよ!」
あまりに軽く言われ、わたしもつい、強い口調になってしまった。
「チョコのお返しに何万もするものなんて悪いです。それにお金の無駄遣いです」
「ん? さっき絢は言わなかった? 俺の選んだものでもいい、って」
「そ、それは……」
「じゃあいいだろ? 絢に似合いそうなアクセサリーがあったからそれにするよ」
返す言葉が見付からなかった。確かに、お返しを高遠さんに委ねたのは本当のことだ。でも、やっぱり金額的にも悪い。
「出来る限り安いのにして下さい」
これぐらいはと思い、必死で懇願した。
高遠さんは私をチラリと一瞥し、「俺のセンスに口出さないで」とサラリと返されてしまった。
私が固唾を飲んで見守る中、高遠さんは店員さんを呼び、「それを」とガラスケースの中のネックレスを指差した。
「こちらでよろしいでしょうか?」
店員さんが高遠さんに差し出したのは、ハート形のピンクトルマリンがあしらわれたネックレスだった。
「これをプレゼント用にしてもらえますか?」
「かしこまりました。ありがとうございます」
目の前に相手がいるのに、わざわざプレゼント用にというのも変な気がしたけれど、それも高遠さんなりの気遣いなのかもしれない。それ以前に、私はわがままを言える立場じゃない。
しばらくすると、店員さんはネックレスの箱が入った小さな紙袋を持って来た。
「おまたせいたしました」
高遠さんはクレジットカードで会計を済ませ、紙袋を受け取った。そのまま私に渡されるのかと思ったのだけど、高遠さんは店を出てからも紙袋を持ったままだった。
「あとで渡すよ」
高遠さんはにこやかに私に告げてきた。
「よし、まだ時間があるし、少し見て回る?」
「はい。良かったら服とかバッグも見たいです」
「あ、もしかして服とかの方が良かった?」
不安げに訊ねてきた高遠さんに、私は慌てて、「違います!」と強く否定した。
「欲しいってわけじゃないんです! ただ、見てみたいな、ぐらいな気持ちで。高遠さんに選んで買ってもらったネックレス、凄く嬉しいです」
「――無理してない?」
「してません」
「ほんとに?」
「ほんとです」
モール内で押し問答を繰り返す私と高遠さん。傍から見たら、喧嘩をしているように映っていたかもしれない。
高遠さんも状況に気付いたらしい。「ダメだな」とばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「これじゃあ子供の喧嘩だ。俺が大人にならなきゃいけないのに……」
「――いえ、それを言ったら私もです……」
「絢はそのままでいいんだよ」
「ダメです。もっと、高遠さんに釣り合うような女にならないと……」
あえて本音を口にした。年齢差はどうあっても縮められない。けれど、精神的になら自分しだいで成長を遂げられると思う。ただ一緒にいて大切にされることは嬉しいけれど、やはり、高遠さんと対等に並んで歩きたいと思うのは当然のことだ。
「焦らなくていいから」
そう言って、高遠さんは手を強く握る。
結局、私は高遠さんの優しさに甘えてしまう。もし、この人を失ってしまったら私はどうなるのか。隣にいながら不意に不安に駆られた。
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