62 / 66
Chapter.8 過去より今が大切
Act.2
しおりを挟む
次に目覚めた時は、カーテンの隙間からわずかに陽の光が漏れていた。今日は朝から快晴のようだ。
気付くと高遠さんの姿がない。部屋も暖かくなっている。
私はそろそろと起き出した。下着を探して身に着け、服も着る。
隣室に行ってみると、微かにシャワーの音が聴こえてきた。どうやら、高遠さんはお風呂に入っているらしい。
私は少し考えた。時刻は七時半。高遠さんがお風呂に入っている間に、朝ご飯の支度をした方がいいのだろうか。
ただ、人の台所を勝手に使うのは気が引ける。どうしようかとまた悩んだけれど、高遠さんなら、遠慮はいらないから、と言ってくれるだろうと思い直した。
台所へ向かい、冷蔵庫を開けてみる。何となく予想はしていたけれど、中はほぼ空だった。あるのは卵とハム、食パンとマーガリン。本当に最低限な朝食の材料のみだ。
卵はまだ買って間もないらしく、賞味期限はまだ余裕がある。簡単だけど、卵とハムでハムエッグでも作ろう。パンはオーブントースターで焼けばいい。
昨晩、何度も高遠さんに愛されたから、少し怠さを感じる。でも、ダラダラし続けるのもみっともない。
お湯を沸かし、卵を焼いている間に、浴室から高遠さんが出てきた。浴室は台所と繋がっているから、どうしても湯上り姿をダイレクトに見てしまう。
私は一度振り返ったものの、高遠さんの全裸姿に咄嗟に視線を逸らした。
「おはよう、絢」
当の高遠さんは全く気にも留めていない。むしろ、私の反応を面白がっているに違いない。
「――風邪引きますよ。ちゃんと着て下さい……」
「大丈夫だよ。俺は風邪に嫌われてるって前にも言わなかったっけ?」
「――言ってましたけど……。でも、私も恥ずかしいですから……」
「ん? 意識しちゃったの?」
「ばっ、馬鹿言わないで下さい!」
図星を指され、私は思わず声を荒らげてしまった。
「とにかくっ! すぐにご飯出来ますから!」
「はいはい」
私に怯むどころか、笑いを噛み殺している。でも、変に落ち込まれるよりはいいのかな、と思い直した。
◆◇◆◇
全ての支度が終わった頃には、高遠さんはちゃんと服を着て髪も乾かし終えていた。
「簡単なものですけど……」
言いわけする私に、高遠さんは、「充分だよ」と嬉しそうに答える。
「しかし、綺麗な目玉焼きだ。さすが女の子」
「いや、女だからとかは関係ないと思いますけど……」
また、可愛げのないことを言ってしまった。
「そういうトコは素直じゃないな」
高遠さんは小さく溜め息を吐き、それからすぐに、ニヤリと不敵な笑みを私に向けてきた。
「まあでも、ベッドでは可愛い絢を存分に拝めたからそれで良しとしとこうか」
「ばっ、馬鹿っ!」
恥ずかしいことを言ってのける高遠さんに、私は絶句したまま凝視してしまう。全身も火が点いたように熱い。
高遠さんからクツクツと忍び笑いが聴こえてくる。どこまでも余裕な高遠さんがちょっと憎らしい。
「ほら、早く食べないと冷めますよ!」
ムキになる私に、高遠さんはなおもニヤニヤしながら、「はいはい」と頷く。
「じゃ、冷めないうちにいただきます」
高遠さんはご丁寧に両手を合わせ、目玉焼きに箸を入れる。
私も少し遅れて、トーストに齧り付いた。こんがりと焼けたパンにマーガリンがほど良く染み込んでいる。
「絢、今日はどうする?」
トーストをコーヒーで流し込んでから、高遠さんが訊ねてきた。
「これから特に用事がないなら、ちょっとどこか行かないか?」
「いいですけど、どこに行くんですか?」
「絢の行きたい所。バレンタインのお返しもまだだったからね」
高遠さんに言われ、ホワイトデーが過ぎていたことを改めて想い出した。でも、別にお返しが欲しくて先月はチョコレートを渡したわけじゃないから、「それはいいです」と断った。
「バレンタインのは、高遠さんへの日頃の感謝のつもりでしたから」
「ダメだよ」
何となく予想はしていたけれど、高遠さんは渋い表情で私を軽く睨んできた。
「一方的に貰うだけじゃ俺の気が済まない。それに、俺が絢に何かあげたいって思ってるんだ。その辺の気持ちは素直に受け取ってほしいね」
「――でも、悪いですから……」
「悪いとか悪くないとかじゃない。とにかく、欲しいものがあるなら言って?」
ここまで言われてしまうと断る余地がない。特に欲しいものは今はないのだけど。
「――出かけてから考えるのでもいいですか?」
苦し紛れな私の言葉に、高遠さんは、「もちろん」と頷いてくれた。
「それじゃ、食ったらすぐに出ようか?」
高遠さんはそう言うと、食べるペースを少し速めた。
気付くと高遠さんの姿がない。部屋も暖かくなっている。
私はそろそろと起き出した。下着を探して身に着け、服も着る。
隣室に行ってみると、微かにシャワーの音が聴こえてきた。どうやら、高遠さんはお風呂に入っているらしい。
私は少し考えた。時刻は七時半。高遠さんがお風呂に入っている間に、朝ご飯の支度をした方がいいのだろうか。
ただ、人の台所を勝手に使うのは気が引ける。どうしようかとまた悩んだけれど、高遠さんなら、遠慮はいらないから、と言ってくれるだろうと思い直した。
台所へ向かい、冷蔵庫を開けてみる。何となく予想はしていたけれど、中はほぼ空だった。あるのは卵とハム、食パンとマーガリン。本当に最低限な朝食の材料のみだ。
卵はまだ買って間もないらしく、賞味期限はまだ余裕がある。簡単だけど、卵とハムでハムエッグでも作ろう。パンはオーブントースターで焼けばいい。
昨晩、何度も高遠さんに愛されたから、少し怠さを感じる。でも、ダラダラし続けるのもみっともない。
お湯を沸かし、卵を焼いている間に、浴室から高遠さんが出てきた。浴室は台所と繋がっているから、どうしても湯上り姿をダイレクトに見てしまう。
私は一度振り返ったものの、高遠さんの全裸姿に咄嗟に視線を逸らした。
「おはよう、絢」
当の高遠さんは全く気にも留めていない。むしろ、私の反応を面白がっているに違いない。
「――風邪引きますよ。ちゃんと着て下さい……」
「大丈夫だよ。俺は風邪に嫌われてるって前にも言わなかったっけ?」
「――言ってましたけど……。でも、私も恥ずかしいですから……」
「ん? 意識しちゃったの?」
「ばっ、馬鹿言わないで下さい!」
図星を指され、私は思わず声を荒らげてしまった。
「とにかくっ! すぐにご飯出来ますから!」
「はいはい」
私に怯むどころか、笑いを噛み殺している。でも、変に落ち込まれるよりはいいのかな、と思い直した。
◆◇◆◇
全ての支度が終わった頃には、高遠さんはちゃんと服を着て髪も乾かし終えていた。
「簡単なものですけど……」
言いわけする私に、高遠さんは、「充分だよ」と嬉しそうに答える。
「しかし、綺麗な目玉焼きだ。さすが女の子」
「いや、女だからとかは関係ないと思いますけど……」
また、可愛げのないことを言ってしまった。
「そういうトコは素直じゃないな」
高遠さんは小さく溜め息を吐き、それからすぐに、ニヤリと不敵な笑みを私に向けてきた。
「まあでも、ベッドでは可愛い絢を存分に拝めたからそれで良しとしとこうか」
「ばっ、馬鹿っ!」
恥ずかしいことを言ってのける高遠さんに、私は絶句したまま凝視してしまう。全身も火が点いたように熱い。
高遠さんからクツクツと忍び笑いが聴こえてくる。どこまでも余裕な高遠さんがちょっと憎らしい。
「ほら、早く食べないと冷めますよ!」
ムキになる私に、高遠さんはなおもニヤニヤしながら、「はいはい」と頷く。
「じゃ、冷めないうちにいただきます」
高遠さんはご丁寧に両手を合わせ、目玉焼きに箸を入れる。
私も少し遅れて、トーストに齧り付いた。こんがりと焼けたパンにマーガリンがほど良く染み込んでいる。
「絢、今日はどうする?」
トーストをコーヒーで流し込んでから、高遠さんが訊ねてきた。
「これから特に用事がないなら、ちょっとどこか行かないか?」
「いいですけど、どこに行くんですか?」
「絢の行きたい所。バレンタインのお返しもまだだったからね」
高遠さんに言われ、ホワイトデーが過ぎていたことを改めて想い出した。でも、別にお返しが欲しくて先月はチョコレートを渡したわけじゃないから、「それはいいです」と断った。
「バレンタインのは、高遠さんへの日頃の感謝のつもりでしたから」
「ダメだよ」
何となく予想はしていたけれど、高遠さんは渋い表情で私を軽く睨んできた。
「一方的に貰うだけじゃ俺の気が済まない。それに、俺が絢に何かあげたいって思ってるんだ。その辺の気持ちは素直に受け取ってほしいね」
「――でも、悪いですから……」
「悪いとか悪くないとかじゃない。とにかく、欲しいものがあるなら言って?」
ここまで言われてしまうと断る余地がない。特に欲しいものは今はないのだけど。
「――出かけてから考えるのでもいいですか?」
苦し紛れな私の言葉に、高遠さんは、「もちろん」と頷いてくれた。
「それじゃ、食ったらすぐに出ようか?」
高遠さんはそう言うと、食べるペースを少し速めた。
0
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~
ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。
2021/3/10
しおりを挟んでくださっている皆様へ。
こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。
しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗)
楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。
申しわけありません。
新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。
修正していないのと、若かりし頃の作品のため、
甘めに見てくださいm(__)m
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる