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Chapter.7 愛され続けて
Act.1
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高遠さんに初めて抱かれてから一カ月近くが経過した。それから高遠さんとは逢う機会はあったものの、お互いに忙しくて、夜に一緒にご飯を食べるぐらいしか出来なかった。
三月は年度末だ。社会人である高遠さんは特に多忙で、朝早くから夜遅くまで、酷い時はこの間逢った時のように、家に持ち込みで仕事をしているらしい。
学生の私には高遠さんの手助けは出来ない。いや、社会人であったとしても、高遠さんと私ではあまりにも違い過ぎる。高遠さんは中間管理職だと言っていたから、私が想像するよりも遥かに大変な思いをしているのだ、きっと。
私は自分から連絡をすることをあえて遠慮していたのだけど、三月も下旬に差しかかろうかという時、高遠さんから夜遅くに電話が入った。
『ごめんね、こんな時間に。――寝てた……?』
躊躇いがちに訊ねてくる高遠さんに、私は、「いえ」と答えた。
「まだ起きてました。さっきまでお風呂に入ってましたから」
『えっ! じゃあ、髪を乾かさないとじゃない?』
「大丈夫ですよ。ちょうど髪も乾かし終わったトコです」
『そっか。それなら良かった』
高遠さんから安堵の声が聴こえてくる。
『元気にしてた』
「元気です。高遠さんは? 風邪とか引いてません?」
『お陰さまで。昔から風邪には嫌われているようだから』
「そうなんですか?」
『うん。全く相手にされなかったわけじゃないけど、そんなに酷くなったことはないな』
「相手にされない方がいいですよね?」
『だね』
そんな他愛ない会話が続く。久しぶりだからか、お互いに電話は得意な方ではないはずなのによく喋る。
『絢』
少し沈黙してから、高遠さんがおもむろに口を開いた。
『今月、連休取れそうな日はある?』
連休、と聴いて、私の中で緊張が駆け抜けた。思い過ごしかもしれない。でも、高遠さんの部屋で抱かれたあと、『泊まりにおいで』と言われたから、もしかしたらもしかするかもしれない。
ただ、今から連休の希望はどうだろう。学校は落ち着いてきたからともかく、バイトは厳しいかもしれない。
逢いたい気持ちはある。でも、他の人にシフトを代わってもらうようにお願い出来るほど、私は要領が決して良くない。
「ちょっと分からないですね……。平日ならばあったような気はしますけど……」
そう答えることしか出来なかった。誘ってくれたことに対する申しわけなさと、高遠さんに逢える機会を逃してしまう淋しさに、私の心は一気に沈んだ。
『そっか、そうだよね。急じゃ無理があるよね』
落ち込んだことを察してくれたのか、高遠さんが優しく声をかけてくる。高遠さんの方がガッカリしているに違いないのに。
「――すみません……」
器用に立ち回れない自分に腹が立って、泣きそうになりながら謝罪した。
そんな私に、高遠さんはなおも、『いいから』とむしろ励ましてくれる。
『俺のせいでバイトをクビになったりしたら、それこそ絢に顔向け出来なくなる。俺は真面目にバイトしてる絢に一目惚れしたんだから。年甲斐もなくね』
最後の方は自嘲するような言い回しだった。
でも、私は高遠さんの言葉が素直に嬉しかった。誰かに評価されたくてバイトに励んでいるわけじゃないけれど、高遠さんが私のバイトしている姿を見て好きになってくれたと改めて知り、高遠さんのためにも頑張ろうと思えた。
「また、都合のいい日があったら……」
私は口元を綻ばせながら告げた。
高遠さんは少し間を置き、『ありがとう』と返してくれる。
『じゃあ、また懲りずに声をかけるよ。絢もいつでも連絡して? 俺に遠慮は不要だから。いつも言ってるだろ?』
本当に全てを見透かされている。付き合いの日数も長くなってきたから、私の本質もよく分かっているのだろう。
『俺もまた連絡する。でも、疲れてる時は無理しないこと。いいな?』
「分かりました。高遠さんも無理しないで頑張って下さい」
『ありがとう。絢に心配かけるわけにはいかないからね。無理はしないよ、絶対』
電話の向こうの高遠さんの声ひとつひとつが、私の心にじんわりと温かく広がってゆく。きっと、高遠さんも私のように微笑んでくれているに違いない。
『それじゃあ、またね』
「はい、おやすみなさい」
『おやすみ』
携帯から耳を放し、私はゆっくりと通話を切る。少し淋しさはあったけれど、高遠さんの声を聴けたことでホッとした。
私は携帯をヘッドボードに置いて、そのままベッドの上にうつ伏せた。
トクトクと鼓動が鳴っている。好きな人がいるという幸せを噛み締めながら、私は瞼を閉じた。
三月は年度末だ。社会人である高遠さんは特に多忙で、朝早くから夜遅くまで、酷い時はこの間逢った時のように、家に持ち込みで仕事をしているらしい。
学生の私には高遠さんの手助けは出来ない。いや、社会人であったとしても、高遠さんと私ではあまりにも違い過ぎる。高遠さんは中間管理職だと言っていたから、私が想像するよりも遥かに大変な思いをしているのだ、きっと。
私は自分から連絡をすることをあえて遠慮していたのだけど、三月も下旬に差しかかろうかという時、高遠さんから夜遅くに電話が入った。
『ごめんね、こんな時間に。――寝てた……?』
躊躇いがちに訊ねてくる高遠さんに、私は、「いえ」と答えた。
「まだ起きてました。さっきまでお風呂に入ってましたから」
『えっ! じゃあ、髪を乾かさないとじゃない?』
「大丈夫ですよ。ちょうど髪も乾かし終わったトコです」
『そっか。それなら良かった』
高遠さんから安堵の声が聴こえてくる。
『元気にしてた』
「元気です。高遠さんは? 風邪とか引いてません?」
『お陰さまで。昔から風邪には嫌われているようだから』
「そうなんですか?」
『うん。全く相手にされなかったわけじゃないけど、そんなに酷くなったことはないな』
「相手にされない方がいいですよね?」
『だね』
そんな他愛ない会話が続く。久しぶりだからか、お互いに電話は得意な方ではないはずなのによく喋る。
『絢』
少し沈黙してから、高遠さんがおもむろに口を開いた。
『今月、連休取れそうな日はある?』
連休、と聴いて、私の中で緊張が駆け抜けた。思い過ごしかもしれない。でも、高遠さんの部屋で抱かれたあと、『泊まりにおいで』と言われたから、もしかしたらもしかするかもしれない。
ただ、今から連休の希望はどうだろう。学校は落ち着いてきたからともかく、バイトは厳しいかもしれない。
逢いたい気持ちはある。でも、他の人にシフトを代わってもらうようにお願い出来るほど、私は要領が決して良くない。
「ちょっと分からないですね……。平日ならばあったような気はしますけど……」
そう答えることしか出来なかった。誘ってくれたことに対する申しわけなさと、高遠さんに逢える機会を逃してしまう淋しさに、私の心は一気に沈んだ。
『そっか、そうだよね。急じゃ無理があるよね』
落ち込んだことを察してくれたのか、高遠さんが優しく声をかけてくる。高遠さんの方がガッカリしているに違いないのに。
「――すみません……」
器用に立ち回れない自分に腹が立って、泣きそうになりながら謝罪した。
そんな私に、高遠さんはなおも、『いいから』とむしろ励ましてくれる。
『俺のせいでバイトをクビになったりしたら、それこそ絢に顔向け出来なくなる。俺は真面目にバイトしてる絢に一目惚れしたんだから。年甲斐もなくね』
最後の方は自嘲するような言い回しだった。
でも、私は高遠さんの言葉が素直に嬉しかった。誰かに評価されたくてバイトに励んでいるわけじゃないけれど、高遠さんが私のバイトしている姿を見て好きになってくれたと改めて知り、高遠さんのためにも頑張ろうと思えた。
「また、都合のいい日があったら……」
私は口元を綻ばせながら告げた。
高遠さんは少し間を置き、『ありがとう』と返してくれる。
『じゃあ、また懲りずに声をかけるよ。絢もいつでも連絡して? 俺に遠慮は不要だから。いつも言ってるだろ?』
本当に全てを見透かされている。付き合いの日数も長くなってきたから、私の本質もよく分かっているのだろう。
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『ありがとう。絢に心配かけるわけにはいかないからね。無理はしないよ、絶対』
電話の向こうの高遠さんの声ひとつひとつが、私の心にじんわりと温かく広がってゆく。きっと、高遠さんも私のように微笑んでくれているに違いない。
『それじゃあ、またね』
「はい、おやすみなさい」
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携帯から耳を放し、私はゆっくりと通話を切る。少し淋しさはあったけれど、高遠さんの声を聴けたことでホッとした。
私は携帯をヘッドボードに置いて、そのままベッドの上にうつ伏せた。
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