Blissful Kiss

雪原歌乃

文字の大きさ
上 下
37 / 67
Chapter.5 嫌いにならないで 

Act.2-02

しおりを挟む
「あんた、結構飲んだのね……」
 呆れながら言う里衣さんに対し、相手は、「何も飲み食いしねえで一時間も待ってられっかよ」と返してくる。
「お前確か、七時過ぎには上がれるとか言ってなかった?」
「あれ、そんなこと言ったっけ?」
「言った。俺は確かにこの耳でしっかり聴いた!」
「あっそ。ごめんごめん、時間間違えて伝えちゃったんだね」
 呑気にカラカラと笑う里衣さん。そこは笑うところではないのでは、と他人事ながら心配になった。
 そして、相手の声を聴いて改めて気付いた。どうやら、里衣さんの言う〈友達〉とは男子のようだ。はっきりと顔を見たわけじゃないし、そもそも興味がなかったからどうでもいいと思っていたのだけど。
「あ、そうそう」
 里衣さんは笑うのをやめた。
「時間は間違えちゃったけど、ほら、ちゃんと連れて来てあげたよ。ウチの可愛い後輩バイトちゃん」
 心なしか、〈ウチの可愛い後輩バイトちゃん〉という言い回しに含みを感じた。確かに里衣さんにしてみたら私は後輩バイトに当たるから間違ってはいないのだけど、何となく不愉快な気分になった。
 ただ、不愉快な気分にさせられるのはこれだけではなかった。
「久しぶり」
 相手から出たのは、初めまして、ではなかった。一瞬、里衣さんに対して言ったのだと思ったのだけど、そんなわけはないとすぐに気付いた。
 私は恐る恐る顔を上げる。元々、まじまじと人の顔を見る方ではないから、ちゃんと見ても想い出せるとは思えない。
 でも、相手の顔を確認したとたん、私の全身は一気に硬直した。
 忘れたはずだった。いや、あれだけインパクトを残されたから忘れようにも忘れられない、嫌な意味で。
「憶えてるよな、俺のこと?」
 相手の問いに、私は何も反応出来なかった。ただ、私の表情がみるみる険しくなってゆく自覚だけはあった。
 私は相手から視線を外し、代わりに里衣さんを一瞥する。
 里衣さんは私と目が合うなり、「実は」と少し気まずそうに続けた。
「黒川ちゃんとどうしても逢いたいってこいつが言うからね。この間、合コンした時にすっごく気に入った、って。あ、ちなみにこいつと私は幼なじみなのよ。だから、まあ……」
 私から冷ややかなオーラを感じ取ったのか、フェードアウトしてゆく。ご飯に誘ってきた時は強引だったのに、私の反応で悪いことをしてしまったと今さらながら気付いてしまったのかもしれない。
 一方、相手は悪びれた様子が全くない。むしろ、里衣さんと違い、ニヤニヤしながら舐め回すような視線を向けてくる。
「――懲りたんじゃないんですか……?」
 嫌悪感を包み隠さず、私はようやく声を絞り出した。
 相手は、「あれは酷かったな」とわざとらしく肩を竦めて見せる。
「せっかく送り届けてやろうと思ったのに、いきなり蹴りを食らわしてくるんだもんな。けど、そうゆうのも俺は嫌いじゃねえ。ちょっと気が強い方が付き合うにはおもしれえ」
 ――こいつやっぱ馬鹿なの?
 私は心の底から思った。
 気持ち悪い。そして何より、頼まれたとはいえ、こいつと逢わせようとした里衣さんのことも軽蔑してしまった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる

ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。 幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。 幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。 関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

ドSな彼からの溺愛は蜜の味

鳴宮鶉子
恋愛
ドSな彼からの溺愛は蜜の味

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

練習なのに、とろけてしまいました

あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。 「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく ※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※

処理中です...