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Chapter.5 嫌いにならないで
Act.2-02
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「あんた、結構飲んだのね……」
呆れながら言う里衣さんに対し、相手は、「何も飲み食いしねえで一時間も待ってられっかよ」と返してくる。
「お前確か、七時過ぎには上がれるとか言ってなかった?」
「あれ、そんなこと言ったっけ?」
「言った。俺は確かにこの耳でしっかり聴いた!」
「あっそ。ごめんごめん、時間間違えて伝えちゃったんだね」
呑気にカラカラと笑う里衣さん。そこは笑うところではないのでは、と他人事ながら心配になった。
そして、相手の声を聴いて改めて気付いた。どうやら、里衣さんの言う〈友達〉とは男子のようだ。はっきりと顔を見たわけじゃないし、そもそも興味がなかったからどうでもいいと思っていたのだけど。
「あ、そうそう」
里衣さんは笑うのをやめた。
「時間は間違えちゃったけど、ほら、ちゃんと連れて来てあげたよ。ウチの可愛い後輩バイトちゃん」
心なしか、〈ウチの可愛い後輩バイトちゃん〉という言い回しに含みを感じた。確かに里衣さんにしてみたら私は後輩バイトに当たるから間違ってはいないのだけど、何となく不愉快な気分になった。
ただ、不愉快な気分にさせられるのはこれだけではなかった。
「久しぶり」
相手から出たのは、初めまして、ではなかった。一瞬、里衣さんに対して言ったのだと思ったのだけど、そんなわけはないとすぐに気付いた。
私は恐る恐る顔を上げる。元々、まじまじと人の顔を見る方ではないから、ちゃんと見ても想い出せるとは思えない。
でも、相手の顔を確認したとたん、私の全身は一気に硬直した。
忘れたはずだった。いや、あれだけインパクトを残されたから忘れようにも忘れられない、嫌な意味で。
「憶えてるよな、俺のこと?」
相手の問いに、私は何も反応出来なかった。ただ、私の表情がみるみる険しくなってゆく自覚だけはあった。
私は相手から視線を外し、代わりに里衣さんを一瞥する。
里衣さんは私と目が合うなり、「実は」と少し気まずそうに続けた。
「黒川ちゃんとどうしても逢いたいってこいつが言うからね。この間、合コンした時にすっごく気に入った、って。あ、ちなみにこいつと私は幼なじみなのよ。だから、まあ……」
私から冷ややかなオーラを感じ取ったのか、フェードアウトしてゆく。ご飯に誘ってきた時は強引だったのに、私の反応で悪いことをしてしまったと今さらながら気付いてしまったのかもしれない。
一方、相手は悪びれた様子が全くない。むしろ、里衣さんと違い、ニヤニヤしながら舐め回すような視線を向けてくる。
「――懲りたんじゃないんですか……?」
嫌悪感を包み隠さず、私はようやく声を絞り出した。
相手は、「あれは酷かったな」とわざとらしく肩を竦めて見せる。
「せっかく送り届けてやろうと思ったのに、いきなり蹴りを食らわしてくるんだもんな。けど、そうゆうのも俺は嫌いじゃねえ。ちょっと気が強い方が付き合うにはおもしれえ」
――こいつやっぱ馬鹿なの?
私は心の底から思った。
気持ち悪い。そして何より、頼まれたとはいえ、こいつと逢わせようとした里衣さんのことも軽蔑してしまった。
呆れながら言う里衣さんに対し、相手は、「何も飲み食いしねえで一時間も待ってられっかよ」と返してくる。
「お前確か、七時過ぎには上がれるとか言ってなかった?」
「あれ、そんなこと言ったっけ?」
「言った。俺は確かにこの耳でしっかり聴いた!」
「あっそ。ごめんごめん、時間間違えて伝えちゃったんだね」
呑気にカラカラと笑う里衣さん。そこは笑うところではないのでは、と他人事ながら心配になった。
そして、相手の声を聴いて改めて気付いた。どうやら、里衣さんの言う〈友達〉とは男子のようだ。はっきりと顔を見たわけじゃないし、そもそも興味がなかったからどうでもいいと思っていたのだけど。
「あ、そうそう」
里衣さんは笑うのをやめた。
「時間は間違えちゃったけど、ほら、ちゃんと連れて来てあげたよ。ウチの可愛い後輩バイトちゃん」
心なしか、〈ウチの可愛い後輩バイトちゃん〉という言い回しに含みを感じた。確かに里衣さんにしてみたら私は後輩バイトに当たるから間違ってはいないのだけど、何となく不愉快な気分になった。
ただ、不愉快な気分にさせられるのはこれだけではなかった。
「久しぶり」
相手から出たのは、初めまして、ではなかった。一瞬、里衣さんに対して言ったのだと思ったのだけど、そんなわけはないとすぐに気付いた。
私は恐る恐る顔を上げる。元々、まじまじと人の顔を見る方ではないから、ちゃんと見ても想い出せるとは思えない。
でも、相手の顔を確認したとたん、私の全身は一気に硬直した。
忘れたはずだった。いや、あれだけインパクトを残されたから忘れようにも忘れられない、嫌な意味で。
「憶えてるよな、俺のこと?」
相手の問いに、私は何も反応出来なかった。ただ、私の表情がみるみる険しくなってゆく自覚だけはあった。
私は相手から視線を外し、代わりに里衣さんを一瞥する。
里衣さんは私と目が合うなり、「実は」と少し気まずそうに続けた。
「黒川ちゃんとどうしても逢いたいってこいつが言うからね。この間、合コンした時にすっごく気に入った、って。あ、ちなみにこいつと私は幼なじみなのよ。だから、まあ……」
私から冷ややかなオーラを感じ取ったのか、フェードアウトしてゆく。ご飯に誘ってきた時は強引だったのに、私の反応で悪いことをしてしまったと今さらながら気付いてしまったのかもしれない。
一方、相手は悪びれた様子が全くない。むしろ、里衣さんと違い、ニヤニヤしながら舐め回すような視線を向けてくる。
「――懲りたんじゃないんですか……?」
嫌悪感を包み隠さず、私はようやく声を絞り出した。
相手は、「あれは酷かったな」とわざとらしく肩を竦めて見せる。
「せっかく送り届けてやろうと思ったのに、いきなり蹴りを食らわしてくるんだもんな。けど、そうゆうのも俺は嫌いじゃねえ。ちょっと気が強い方が付き合うにはおもしれえ」
――こいつやっぱ馬鹿なの?
私は心の底から思った。
気持ち悪い。そして何より、頼まれたとはいえ、こいつと逢わせようとした里衣さんのことも軽蔑してしまった。
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