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Chapter.5 嫌いにならないで
Act.2-01
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午後八時、休講だった私は午後二時からバイトに来ていた。その分、学校がある日よりも早く上がることが出来た。
「平日に黒川ちゃんと一緒に早く上がれるなんてねえ」
隣でエプロンを外しながら、里衣さんが笑顔で言う。里衣さんもまた午後から休講だったとのことで、午後四時から出勤して同じ時間に上がった。
「ねえ黒川ちゃん」
エプロンを畳み、バッグを肩にかけてから、里衣さんが、「これから時間ある?」と訊ねてきた。
「時間、ですか……?」
当然、私は怪訝に思う。何だろうと首を傾げていると、里衣さんがおもむろに口を開いた。
「もし良かったら、これから一緒にご飯食べようよ。まだ時間も早いし。友達も一緒なんだけど、別に気兼ねするような相手じゃないから」
「はあ……」
私は曖昧に返事することしか出来なかった。ご飯に誘ってくれたのは素直に嬉しい。でも、私の知らない友達も一緒というのがどうしても解せない。
「もしかして、先約があったりする?」
「いえ、ないですけど……」
「じゃあ決まり! 黒川ちゃんもまだ大丈夫でしょ? ほら、早速行こ!」
断ろうとしていたのに押しきられてしまった。里衣さんは落ち着いているようでいて、時に急に強引さを見せるから、そういう点はちょっと苦手だった。
ただ、はっきりしなかった私も悪い。そう思い直し、仕方なしに着いて行くことにした。
◆◇◆◇
書店を出て、私と里衣さんは一緒に飲み屋街へと足を運んだ。ご飯となるとその辺だろうと予想はしていたからさほど驚きはしなかった。
「多分、友達も来てるはずだから」
そう言いながら、チェーン店の飲み屋に入る。そこは以前、無理矢理合コンに連れて来られた揚げ句、嫌な思いをした店だった。でも、そんなのは過去の話だし、あの男と関わることはないと思っていた。
とはいえ、心のどこかでは憂鬱さが増していた。あいつに鉢合わせしないようにと強く祈り、私は里衣さんのあとを着いて行く。
「いらっしゃいませ!」
店に入るなり、私達の前に従業員が威勢良く駆け付けて来た。
「予約の野嶋ですけど」
「野嶋さまですねっ? あちらでお待ちでございます!」
そう私達に告げてから、「ご予約のお客さま、二名様入りまーす!」と声を上げる。
里衣さんは相変わらずスタスタと従業員に続く。
私はまるっきり状況が掴めないでいるから、やはり黙って着いて行くしかなかった。
「こちらです!」
案内されたのは、四人掛けの小さな個室だった。
「お待たせ」
開けられた襖から里衣さんは先客に挨拶する。
私は入るのを躊躇っていたのだけど、里衣さんに、「ほら入って!」と背中を押され、ゆっくりと足を踏み入れる。
私が奥側に座ってから、里衣さんも並んで座る。きっちりと仕切られた空間だから、席を外す時は里衣さんに声をかけないと身動きが取れない。
「平日に黒川ちゃんと一緒に早く上がれるなんてねえ」
隣でエプロンを外しながら、里衣さんが笑顔で言う。里衣さんもまた午後から休講だったとのことで、午後四時から出勤して同じ時間に上がった。
「ねえ黒川ちゃん」
エプロンを畳み、バッグを肩にかけてから、里衣さんが、「これから時間ある?」と訊ねてきた。
「時間、ですか……?」
当然、私は怪訝に思う。何だろうと首を傾げていると、里衣さんがおもむろに口を開いた。
「もし良かったら、これから一緒にご飯食べようよ。まだ時間も早いし。友達も一緒なんだけど、別に気兼ねするような相手じゃないから」
「はあ……」
私は曖昧に返事することしか出来なかった。ご飯に誘ってくれたのは素直に嬉しい。でも、私の知らない友達も一緒というのがどうしても解せない。
「もしかして、先約があったりする?」
「いえ、ないですけど……」
「じゃあ決まり! 黒川ちゃんもまだ大丈夫でしょ? ほら、早速行こ!」
断ろうとしていたのに押しきられてしまった。里衣さんは落ち着いているようでいて、時に急に強引さを見せるから、そういう点はちょっと苦手だった。
ただ、はっきりしなかった私も悪い。そう思い直し、仕方なしに着いて行くことにした。
◆◇◆◇
書店を出て、私と里衣さんは一緒に飲み屋街へと足を運んだ。ご飯となるとその辺だろうと予想はしていたからさほど驚きはしなかった。
「多分、友達も来てるはずだから」
そう言いながら、チェーン店の飲み屋に入る。そこは以前、無理矢理合コンに連れて来られた揚げ句、嫌な思いをした店だった。でも、そんなのは過去の話だし、あの男と関わることはないと思っていた。
とはいえ、心のどこかでは憂鬱さが増していた。あいつに鉢合わせしないようにと強く祈り、私は里衣さんのあとを着いて行く。
「いらっしゃいませ!」
店に入るなり、私達の前に従業員が威勢良く駆け付けて来た。
「予約の野嶋ですけど」
「野嶋さまですねっ? あちらでお待ちでございます!」
そう私達に告げてから、「ご予約のお客さま、二名様入りまーす!」と声を上げる。
里衣さんは相変わらずスタスタと従業員に続く。
私はまるっきり状況が掴めないでいるから、やはり黙って着いて行くしかなかった。
「こちらです!」
案内されたのは、四人掛けの小さな個室だった。
「お待たせ」
開けられた襖から里衣さんは先客に挨拶する。
私は入るのを躊躇っていたのだけど、里衣さんに、「ほら入って!」と背中を押され、ゆっくりと足を踏み入れる。
私が奥側に座ってから、里衣さんも並んで座る。きっちりと仕切られた空間だから、席を外す時は里衣さんに声をかけないと身動きが取れない。
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