Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.4 触れて、側にいて

Act.3-03

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 高遠さんのキスは長かった。触れるだけで終わるかと思っていたのに、しだいに深さが増してゆく。
 幸せを通り越して、頭の中がぼんやりとしてきた。この感覚は何なのだろう。
「ふ……んん……っ……」
 息苦しさを覚え、逃れようとするも、高遠さんがそれを許してくれない。
 全身が熱を帯びてくる。下肢が疼き、何かが変わってしまいそうな言いようのない恐怖を感じた。
 気付けば涙が頬を伝った。何故かは分からないけれど、勝手に出てきた。
 そこでようやく、高遠さんの唇が離れた。
「やっぱり、嫌だった?」
 そう問う高遠さんの声は切なげだった。
 私は涙で頬を濡らしたまま、「違うんです」とかぶりを振った。
「勝手に涙が出てきて……。でも、全然嫌とかじゃないんです。よく分かんないけど……」
「ほんとに、嫌じゃないの?」
「――本気で嫌だったら、もっと激しく抵抗してます。脛を蹴るとか」
 高遠さんの目が見開いた。そのままポカンとしていたけれど、すぐにクツクツと小さく笑った。
「なるほど。脚は無防備な状態だもんな。けど、蹴るとかなかなか過激だな、君は」
「――一度実践済みですから。高遠さんに初めて逢った時に……」
「初めて逢った時? ああ、あれか……」
 とたんに、高遠さんの眉間に皺が寄った。
「あの時は危なかったな。俺があの場にいなかったらどうなっていたか……」
「――私も、そう思います……」
 自分から口にしてしまったとはいえ、心の底から嫌なことを想い出してしまった。でも、あの時のことがなければ、高遠さんとこうしていることはなかった。
「結果オーライ、ってことかな?」
 私と同じことを考えてくれていたらしい。高遠さんは穏やかな笑みを浮かべ、指先で頬を触って涙の痕を拭ってくれた。
「さて、そろそろ食おうか?」
 高遠さんはそう言いながら、いつの間にかコタツの上に置いていたトートバッグを指差した。
「実は君の筑前煮が楽しみで、朝メシを抜いてたんだよ」
「えっ、そこまで……?」
 大袈裟だな、とあからさまに呆れてしまった。でも、楽しみにしてくれていたのは素直に嬉しい。
「温めますか?」
 まるでコンビニ店員のような訊き方をしてしまったと自分で気付いてしまった。
 でも、高遠さんは全く気にしなかったようで、普通に、「そうだな」と返してきた。
「レンジも鍋もあるから好きに使っていいよ。って、俺がやった方がいいか?」
「いいですよ、私やります。あ、出来れば取り皿があればいいですけど……」
「それぐらいは用意しよう。適当なのになるけど、いい?」
「もちろんです」
 私はニッコリと頷き、トートバッグを持って台所へ向かった。
 筑前煮を詰めてきたタッパーは電子レンジ対応になっている。私はさっきのお言葉に甘え、蓋を軽く開けた状態で容器ごとレンジに入れてタイマーをセットした。
 その間、高遠さんは小さな食器棚からお皿を出してくれた。ひとりで過ごすことが多かったのか、食器は一通りあるものの、本当に一人分ずつしかない。
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