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Chapter.3 分かっているつもり
Act.3-05
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どうあっても、私を高遠さんの住まいに連れて行きたいらしい。でも、親のことまで気にかけてくれているから、高遠さんの言う通り、私が嫌がることはしないとは思う。というか、思いたい。
「何が食べたいですか?」
私がそう訊ねると、高遠さんの表情がとたんに明るくなった。
「ほんとに、作ってくれるの?」
「はい。食べたいものがあれば。でも、出来ないものもありますから……」
「何が得意?」
「友達に評判いいのは筑前煮ですけど……」
「じゃあ筑前煮」
あっさりと即答してきた。
「――筑前煮でいいんですか……?」
「いいよ。筑前煮は嫌いじゃない」
何となく、無理矢理言わせてしまった感じがして後味が悪い。
「いや、他のでもいいんですよ?」
そう促してみるも、高遠さんは筑前煮を譲ろうとしない。
「じゃあ、筑前煮にします」
私が言うと、高遠さんは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。あ、材料費は俺が出すから。いや、一緒に買い物に行った方がいいか?」
「いえ、そこまでは……。家で前日に仕込みますから」
「なら、かかった費用をあとで教えて? ちゃんと払う」
「ですから、別にそこまでは……」
「ダメだよ」
私の言葉を高遠さんは少し怒ったように途中で遮ってきた。
「俺は作ってもらう立場なんだ。それ以前に君は学生だ。年上の社会人の俺が金を払うのは当然のことなんだから、ちゃんと費用を申請すること。分かったね?」
ここまで強く言われてしまうと、「はい」としか答えようがない。
「分かりました。じゃあ、あとでお願いします」
私の言葉に、高遠さんは、「素直で結構」と頷いてきた。
「それじゃあ、いつにするか早速決めようか? 善は急げ、ってね」
やっぱり、酔いが回っているらしい。さらにテンションが上がっている高遠さんを前に、大丈夫かな、と少し心配になってくる。
でも、変に絡んだりはしてこないからまだだいぶマシではある。
不意に、合コンの時の男子のことが頭に浮かぶ。心の底から気持ち悪いと思った。もしもここにいるのがあいつで、今の高遠さん同様、自分の住まいに来るように誘われたとしたら――
急に悪寒に襲われた。想像するのもおぞましい。
――高遠さんならば大丈夫なはず、きっと……
高遠さんとあの男子を比べること自体が間違いなのに、比べてしまう自分もどうかしている。私はあの男子のことを頭から消し去り、高遠さんの声に耳を傾けた。
【Chapter.3-End】
「何が食べたいですか?」
私がそう訊ねると、高遠さんの表情がとたんに明るくなった。
「ほんとに、作ってくれるの?」
「はい。食べたいものがあれば。でも、出来ないものもありますから……」
「何が得意?」
「友達に評判いいのは筑前煮ですけど……」
「じゃあ筑前煮」
あっさりと即答してきた。
「――筑前煮でいいんですか……?」
「いいよ。筑前煮は嫌いじゃない」
何となく、無理矢理言わせてしまった感じがして後味が悪い。
「いや、他のでもいいんですよ?」
そう促してみるも、高遠さんは筑前煮を譲ろうとしない。
「じゃあ、筑前煮にします」
私が言うと、高遠さんは嬉しそうに頷いた。
「ありがとう。あ、材料費は俺が出すから。いや、一緒に買い物に行った方がいいか?」
「いえ、そこまでは……。家で前日に仕込みますから」
「なら、かかった費用をあとで教えて? ちゃんと払う」
「ですから、別にそこまでは……」
「ダメだよ」
私の言葉を高遠さんは少し怒ったように途中で遮ってきた。
「俺は作ってもらう立場なんだ。それ以前に君は学生だ。年上の社会人の俺が金を払うのは当然のことなんだから、ちゃんと費用を申請すること。分かったね?」
ここまで強く言われてしまうと、「はい」としか答えようがない。
「分かりました。じゃあ、あとでお願いします」
私の言葉に、高遠さんは、「素直で結構」と頷いてきた。
「それじゃあ、いつにするか早速決めようか? 善は急げ、ってね」
やっぱり、酔いが回っているらしい。さらにテンションが上がっている高遠さんを前に、大丈夫かな、と少し心配になってくる。
でも、変に絡んだりはしてこないからまだだいぶマシではある。
不意に、合コンの時の男子のことが頭に浮かぶ。心の底から気持ち悪いと思った。もしもここにいるのがあいつで、今の高遠さん同様、自分の住まいに来るように誘われたとしたら――
急に悪寒に襲われた。想像するのもおぞましい。
――高遠さんならば大丈夫なはず、きっと……
高遠さんとあの男子を比べること自体が間違いなのに、比べてしまう自分もどうかしている。私はあの男子のことを頭から消し去り、高遠さんの声に耳を傾けた。
【Chapter.3-End】
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