Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.3 分かっているつもり

Act.3-02

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「まずは乾杯しようか?」
 高遠さんに言われ、私は半ば慌ててコップを持つ。
「それじゃ、お疲れさま」
「お疲れさまでした」
 互いのコップがぶつかると、カチン、と乾いた音が鳴る。
 高遠さんはそのままグイと一気にコップの中身を呷り、私はゆっくりと喉に流し込む。
 あっという間に空になった高遠さんのコップに二杯目を注ごうと、私はすぐに瓶に手を伸ばした。
「ありがとう」
 私の行動を察し、高遠さんは口元に弧を描いて私からの酌を受ける。ただ、さっきの店員さんと違い、あまり注ぎ慣れていないから、泡だけが異様なまでに多くなってしまった。
 それでも、高遠さんは嬉しそうにそれを飲んでくれる。
「黒川さんのような可愛い子にお酌してもらえるなんて、俺は幸せ者だね」
 とてつもない殺し文句まで言ってくるものだから、私は全身に火が点いたように熱くなるのを感じた。
「――やめて下さい、恥ずかしい……」
 恨めしげに睨むも、高遠さんはキョトンとしている。
「どうして?」
「私のこと、可愛いとか、そうゆうの……」
「ああ、セクハラ発言だったね?」
「いえ、セクハラだとかは思ってませんけど……」
「じゃあ、別に言っても問題ないんじゃない? 君が可愛いのはほんとのことなんだし」
「――別に可愛くないですもん、私……」
「そういうトコは素直じゃないんだなあ……」
 高遠さんは二杯目もあっという間に飲み干してしまった。
「君は可愛いって自覚をちょっとは持った方がいいよ? もちろん、自意識過剰過ぎるのもどうかと思うけどね。でも、君は無防備過ぎる。だから変なのに狙われてしまうんだよ? まあ、俺も君を狙っていた側だから強く言えないトコもあるにはあるけど……」
 そこまで言うと、空になったコップに手酌でビールを注ぐ。私がやろうとしたけれど、時すでに遅しだった。
 高遠さんが三杯目を飲んでいるところへ、頼んでいた料理が運ばれてきた。刺身にトマトサラダに、お勧めのブリ大根。取り皿と箸もそれぞれの前に置かれた。
「ごゆっくりどうぞ」
 またお決まりの挨拶をし、戻ってゆく若い店員さん。その背中を見送ってから、高遠さんは、「食おうか?」と促してきた。
 私が頷くと、テーブル横に供えられている醤油を取ってくれた。そして、私と高遠さんの小皿に注ぎ、早速刺身に箸を伸ばした。先に手を付けたのは、定番のマグロの赤身だった。
 私もどれにしようか悩んだ。でも、マグロもだけど、それ以上にツブ貝が気になってしまい、ツブ貝から手を付けることにした。
 わさびと醤油をツブ貝に付け、口に運ぶと、ツンとしたわさびの辛みのあとにコリコリと良い歯応えを感じた。魚も良いけれど、貝類もとても美味しい。
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