11 / 67
Chapter.2 もっと知りたい
Act.1-03
しおりを挟む
「ああ、そろそろ時間か……」
私から自分の腕時計に視線を移してから、七緒がポツリと言う。
「バイト、遅刻しちゃ拙いね」
「ああ、うん」
私は残ったカフェラテを一気に呷る。アイス、とまではいかなくても、だいぶ温度が冷めていた。
「七緒はバイト休みだったよね?」
コートに袖を通しながら訊ねる。
「うん、なんか休みになってる」
「他人事みたいな言い方だね……」
「だって希望して取った休みじゃないし」
「もしかして働きたかった?」
「まあねえ、どうせ帰ったって暇だし。とりあえず、課題でもやっとく」
「いや、課題はやらないとダメでしょ……」
「だね」
私よりも素早くカップとグラスの載ったトレイを持ち上げた七緒は、サッサと返却口へとそれを持って行く。
「ごめん、片付けさせちゃって……」
店を出てから七緒に謝ると、七緒は、「別に」と返してくる。
「こっちは使ったものを返すだけでいいんだし。それに、私よりちっちゃい絢に持たせちゃう方が気が引ける」
「――何気に引っかかる言い方をされてるんだけど……」
「気のせいでしょ」
私の言わんとしていることを明らかに察している。七緒は珍しく、ケラケラと愉快そうに声を出して笑った。
バイトの時間までまだ少し余裕があったので、私は七緒と改札まで向かった。
「いつも逢ってるんだから、わざわざ見送りしてくれなくったって」
そう言いつつも、七緒は嬉しそうにニコニコしてくれている。
「それじゃ、バイト頑張って」
「ありがと。気を付けて帰って」
「はいよ。絢こそ遅くなるんだから気を付けなよ?」
「分かった」
七緒は定期券を自動改札に入れて通り過ぎて行く。一度振り返り、軽く手を振ってくれたので、私も同じように返した。
七緒の姿が完全に見えなくなってから、私は今度こそバイト先の書店へ向かった。一度外へ出なくてはならないのが憂鬱だけど、それだけのためにサボるわけにもいかない。そもそも、バイトをサボるという選択肢は私にはないのだけど。
ふと、壁際に寄って足を止める。そして、おもむろにバッグから携帯電話を取り出す。
もしかしたら、なんて期待していた。だけど、着信を知らせるランプは点灯していなかった。開いてみても、特に変わった知らせは出ていなかった。
「柔軟性、か……」
また、七緒にコーヒーショップで言われた言葉を反芻する。
高遠さんは悪い人ではない。でも、好きかどうかと言われたら、それはまた別の話。とはいえ、いつまでも宙ぶらりんにしておくのも相手に失礼な気がする。
「もうちょっとだけ……」
私はひとりごち、携帯をバッグにしまい直す。
とりあえずはバイトのことを考えよう。そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。
私から自分の腕時計に視線を移してから、七緒がポツリと言う。
「バイト、遅刻しちゃ拙いね」
「ああ、うん」
私は残ったカフェラテを一気に呷る。アイス、とまではいかなくても、だいぶ温度が冷めていた。
「七緒はバイト休みだったよね?」
コートに袖を通しながら訊ねる。
「うん、なんか休みになってる」
「他人事みたいな言い方だね……」
「だって希望して取った休みじゃないし」
「もしかして働きたかった?」
「まあねえ、どうせ帰ったって暇だし。とりあえず、課題でもやっとく」
「いや、課題はやらないとダメでしょ……」
「だね」
私よりも素早くカップとグラスの載ったトレイを持ち上げた七緒は、サッサと返却口へとそれを持って行く。
「ごめん、片付けさせちゃって……」
店を出てから七緒に謝ると、七緒は、「別に」と返してくる。
「こっちは使ったものを返すだけでいいんだし。それに、私よりちっちゃい絢に持たせちゃう方が気が引ける」
「――何気に引っかかる言い方をされてるんだけど……」
「気のせいでしょ」
私の言わんとしていることを明らかに察している。七緒は珍しく、ケラケラと愉快そうに声を出して笑った。
バイトの時間までまだ少し余裕があったので、私は七緒と改札まで向かった。
「いつも逢ってるんだから、わざわざ見送りしてくれなくったって」
そう言いつつも、七緒は嬉しそうにニコニコしてくれている。
「それじゃ、バイト頑張って」
「ありがと。気を付けて帰って」
「はいよ。絢こそ遅くなるんだから気を付けなよ?」
「分かった」
七緒は定期券を自動改札に入れて通り過ぎて行く。一度振り返り、軽く手を振ってくれたので、私も同じように返した。
七緒の姿が完全に見えなくなってから、私は今度こそバイト先の書店へ向かった。一度外へ出なくてはならないのが憂鬱だけど、それだけのためにサボるわけにもいかない。そもそも、バイトをサボるという選択肢は私にはないのだけど。
ふと、壁際に寄って足を止める。そして、おもむろにバッグから携帯電話を取り出す。
もしかしたら、なんて期待していた。だけど、着信を知らせるランプは点灯していなかった。開いてみても、特に変わった知らせは出ていなかった。
「柔軟性、か……」
また、七緒にコーヒーショップで言われた言葉を反芻する。
高遠さんは悪い人ではない。でも、好きかどうかと言われたら、それはまた別の話。とはいえ、いつまでも宙ぶらりんにしておくのも相手に失礼な気がする。
「もうちょっとだけ……」
私はひとりごち、携帯をバッグにしまい直す。
とりあえずはバイトのことを考えよう。そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。
0
お気に入りに追加
353
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。
海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。
ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。
「案外、本当に君以外いないかも」
「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」
「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」
そのドクターの甘さは手加減を知らない。
【登場人物】
末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。
恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる?
田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い?
【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。


淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。

練習なのに、とろけてしまいました
あさぎ
恋愛
ちょっとオタクな吉住瞳子(よしずみとうこ)は漫画やゲームが大好き。ある日、漫画動画を創作している友人から意外なお願いをされ引き受けると、なぜか会社のイケメン上司・小野田主任が現れびっくり。友人のお願いにうまく応えることができない瞳子を主任が手ずから教えこんでいく。
「だんだんいやらしくなってきたな」「お前の声、すごくそそられる……」主任の手が止まらない。まさかこんな練習になるなんて。瞳子はどこまでも甘く淫らにとかされていく
※※※〈本編12話+番外編1話〉※※※
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる