Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.2 もっと知りたい

Act.1-03

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「ああ、そろそろ時間か……」
 私から自分の腕時計に視線を移してから、七緒がポツリと言う。
「バイト、遅刻しちゃ拙いね」
「ああ、うん」
 私は残ったカフェラテを一気に呷る。アイス、とまではいかなくても、だいぶ温度が冷めていた。
「七緒はバイト休みだったよね?」
 コートに袖を通しながら訊ねる。
「うん、なんか休みになってる」
他人事ひとごとみたいな言い方だね……」
「だって希望して取った休みじゃないし」
「もしかして働きたかった?」
「まあねえ、どうせ帰ったって暇だし。とりあえず、課題でもやっとく」
「いや、課題はやらないとダメでしょ……」
「だね」
 私よりも素早くカップとグラスの載ったトレイを持ち上げた七緒は、サッサと返却口へとそれを持って行く。
「ごめん、片付けさせちゃって……」
 店を出てから七緒に謝ると、七緒は、「別に」と返してくる。
「こっちは使ったものを返すだけでいいんだし。それに、私よりちっちゃい絢に持たせちゃう方が気が引ける」
「――何気に引っかかる言い方をされてるんだけど……」
「気のせいでしょ」
 私の言わんとしていることを明らかに察している。七緒は珍しく、ケラケラと愉快そうに声を出して笑った。
 バイトの時間までまだ少し余裕があったので、私は七緒と改札まで向かった。
「いつも逢ってるんだから、わざわざ見送りしてくれなくったって」
 そう言いつつも、七緒は嬉しそうにニコニコしてくれている。
「それじゃ、バイト頑張って」
「ありがと。気を付けて帰って」
「はいよ。絢こそ遅くなるんだから気を付けなよ?」
「分かった」
 七緒は定期券を自動改札に入れて通り過ぎて行く。一度振り返り、軽く手を振ってくれたので、私も同じように返した。
 七緒の姿が完全に見えなくなってから、私は今度こそバイト先の書店へ向かった。一度外へ出なくてはならないのが憂鬱だけど、それだけのためにサボるわけにもいかない。そもそも、バイトをサボるという選択肢は私にはないのだけど。
 ふと、壁際に寄って足を止める。そして、おもむろにバッグから携帯電話を取り出す。
 もしかしたら、なんて期待していた。だけど、着信を知らせるランプは点灯していなかった。開いてみても、特に変わった知らせは出ていなかった。
「柔軟性、か……」
 また、七緒にコーヒーショップで言われた言葉を反芻する。
 高遠さんは悪い人ではない。でも、好きかどうかと言われたら、それはまた別の話。とはいえ、いつまでも宙ぶらりんにしておくのも相手に失礼な気がする。
「もうちょっとだけ……」
 私はひとりごち、携帯をバッグにしまい直す。
 とりあえずはバイトのことを考えよう。そう自分に言い聞かせ、再び歩き出した。
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