Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.1 告白は突然に

Act.3-04

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 多分、高遠さんは全てお見通しだと思う。けれど、特に深く追求してくることもなく、ただニコニコしながら私を見つめる。
 改めて、さっきのしつこい男子と比べてしまう。高遠さんとは比較のしようもないのだけど、さり気なく私の気持ちを汲み取ってくれる。もしかしたら、十以上も年上の男性は同世代と違って余裕のようなものがあるのだろうか。それとも、ニ十歳そこそこの女は、高遠さんにとってはまだ、〈女〉にはほど遠いと思われているのか。
 高遠さんは、あまり愛想のない私にも優しく接してくれる。それはやはり、相手が子供だから仕方ないと諦められているからなのかもしれない。そう考えたら、不満というか、どこか淋しさを感じた。
「――私、可愛げがないですよね……?」
 つい、口から出てしまった。
 高遠さんは怪訝そうな面持ちで、「どうして?」と訊ねてくる。
「君のこと、可愛げがないなんて全然思ってないけど?」
「――でも、とっても親切にしてもらってるのに、恩を仇で返してしまってるような……」
「恩を仇で? それこそ全く思ってないよ。てか、どうしてそう思うの?」
 私はほとんど冷めてしまったコーヒーを一口喉に流し込み、おもむろに口を開いた。
「私、男の人にあまり興味がないんです。むしろ、嫌いに限りなく近いかもしれません。いつも馬鹿ばっかりしてるイメージがあるから。もちろん、そうゆう人ばかりじゃないかも、とは思うんです。でも……」
 私はあえて高遠さんから視線を逸らした。食べかけのパフェと私のコーヒーの残りを凝視して、高遠さんの反応を待つ。
「――君は、俺に誘われて迷惑だった?」
 しばらくの沈黙のあと、高遠さんが穏やかな口調で訊いてくる。
 私は相変わらず視線を落としたまま、首を横に振る。
「迷惑だなんて思ってません。むしろ、さっきのこともあるから感謝してるぐらいです。なのに、全然楽しそうに出来ないのが……」
「緊張してるからじゃないの?」
「――それもあります。でも……」
「やっぱり怖いんだね?」
「――多分……」
 はっきり言ってしまっては高遠さんを傷付けてしまうような気がして、曖昧な言い方をしてしまう。でも、やっぱり高遠さんはちゃんと察していると思う。
「――ごめんね」
 予想だにしない高遠さんからの謝罪に、私は弾かれたように顔を上げた。
 先ほどとは打って変わり、淋しそうに笑みを浮かべる高遠さんと目が合う。
 心の奥がチクリと痛みを伴った。傷付けないようにと思った言動が、かえって高遠さんの傷を抉ってしまった。
 それでも高遠さんは優しかった。「ごめんね」とまた重ねて謝ってくる。
「君の気持ちも考えずに強引にここまで連れて来てしまったからね。俺も結局、さっきの彼と同じだ。――君を少しでも引き留めたい、って確かに思ったから……」
 高遠さんの言葉に、胸の鼓動が高鳴る。まさかと思いたい。だって、高遠さんから見たら、私はまだまだ子供なはず。
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