Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.1 告白は突然に

Act.3-01

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 男性が連れて来てくれた喫茶店は、街中のビルの二階にあった。人がようやくすれ違えるほどの階段を昇ると、踊り場のすぐの所で入り口が目に飛び込む。
 男性は慣れた様子でドアを押す。すると、カランカラン、と小さなベルが鳴り、そこでマスターらしき初老の男性が私達が入ってきたことに気付いた。
 店内はガラガラだった。カウンターとテーブル席があったけれど、男性は一番奥のテーブル席まで足を向け、それぞれコートを脱ぐ。そして、私が椅子に座ったのを見届けてから自らも腰を下ろした。
 初めて入ったけれど、レトロな雰囲気が漂っている。普段はチェーンのコーヒーショップしか入らないから、こういう古き良き感じの店はかえって新鮮だった。
「はい」
 男性が私にメニューブックを向けてくる。コーヒーはもちろん、軽食からパフェのようなデザートもあって、ついつい目移りしてしまう。
 中でもやっぱり、パフェは魅力的だ。ファミリーレストランにもパフェはあるけれど、意外となかなか注文することがない。結局、写真を見て満足してしまうのがいつものパターンだ。
「甘いものは好き?」
 男性の問いに私はゆっくりと頷く。
「そうか、よしよし」
 男性は何を思ったのか、ひとりで満足げに何度も首を縦に動かし、それからマスターを呼んだ。
「コーヒーふたつ。それとミックスサンドひとつ。あと、フルーツパフェひとつ」
 淡々と注文を伝える男性。まさか、私がパフェのページに目が釘付けになっていたことに気付いていたのか。
 マスターは一度カウンターに戻ると、水の入ったグラスをふたつ持って来た。それからまたカウンターへ向かい、ひとりで作業を始めた。
「あの……」
 私はおずおずと男性に訊ねた。
「パフェ、食べられるんですか……?」
 私の問いに、男性は一瞬目を見開き、それからすぐ、「あはは」と声を出して笑った。
「俺は食わないよ。甘いものは食べれなくはないけど、パフェはね。あ、もしかして、勝手に頼んで怒ってる?」
「あ、いえ。そんなことないです。大好きです!」
 必死になって強調すると、男性は、「良かった」と胸を撫で下ろす。
「ほんとごめんね。パフェ食いたいのかな、って勝手に思ってしまって、ついつい君の意見も聴かずに注文してしまった。あ、コーヒーもだったね。嫌いだったら申しわけない……」
「大丈夫です。コーヒーも飲めます」
「ほんとに?」
「はい」
「そっか」
 男性は相変わらず柔らかな笑みを湛えている。
 改めて、この男性はいったい何者なのだろう。きちんとスーツを着ているから社会人なのは間違いないと思うけれど、年齢がはっきりしない。二十代後半か、三十代始めぐらいか。
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