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Chapter.1 告白は突然に
Act.2-02
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「おい、急に人を蹴って逃げるなんて卑怯だろうがっ?」
先ほどとは打って変わり、異常なまでに声を荒らげている。
あまりの豹変ぶりに、さすがにゾッとしてしまった。
「卑怯? 彼女が何かしたのかい?」
ぶつかった相手が、抑揚のない口調で男子Aに訊ねる。あまりにびっくりして気付かずにいたけれど、よくよく見たら男性だった。
男子Aの視線が私から男性へと移った。そして、睨みを利かせながら、「あんた誰だよ?」と訊き返してくる。
男性は睨まれても全く動じず、表情を全く変えていない。
「誰だって訊いてんだよ? 人の質問にはちゃんと答えろや」
「せっかちだな。今答えようとしてたのに」
「だから早く言え!」
イライラしている男子Aを前に、男性は小さく溜め息を吐いてから答えた。
「俺は彼女の親戚だけど?」
はい? と危うく突っ込みそうになった。私は思わず、男性の顔をまじまじと見つめる。親戚を全て把握しているわけではないけれど、少なくとも、この男性と私は初対面だ。
ただ、ここは合わせておいた方が良いと咄嗟に思った。今は男子Aを追い払うのが先だ。
「何があったか知らないが、人の大事な親戚の子を追い駆け回すのは感心しないな。ほら、こんなに怯えてるじゃないか?」
男性は二の腕から手を離し、今度は私の肩を抱き寄せる。あまりに自然な行為に、私もほとんど無意識に身を預けていた。
「とにかく、彼女にこれ以上ちょっかいを出すのはやめてくれないか?」
「は? ちょっかいなんか出してねえし。てかあんた、ほんとに親戚?」
男子Aが疑うのも無理はない。いきなり出てきて、親戚だから、と宣言されてもすんなりと信じられるわけがないだろう。
でも、男性は全く怯む様子がない。それどころか、「ほんとだ」としれっと返す。
「とにかくもう行ってくれ。彼女は身体も弱いんだ。これ以上追い詰めるような真似はするんじゃない。いいね?」
やんわりとした口調だったけれど、凄みを含んでいる。
さすがに男子Aも観念したらしい。チッ、と負け惜しみのように舌打ちを残し、私達から背を向けて立ち去った。
男子Aの姿が見えなくなったとたん、私はその場にへたり込んだ。緊張の糸が一気に解け、力尽きてしまった。
「大丈夫?」
男性も私の前に膝を折る。そして、「すまなかったね」と謝罪してきた。
「つい、下手な芝居を打ってしまった。気を悪くしただろう?」
「あ、いえ」
私は首を横に振った。
「かえって助かりました。ほんとにしつこかったので……。あのまま走ってても、結局捕まって終わりだったと思います……」
そこまで言うと、両腕で自らを抱き締め、ブルリと震えた。なりゆきでも何でも、男性が助けてくれたことには変わりないし、感謝している気持ちは本物だった。
「ほんとに、なんて感謝したらいいか……」
「そんなのは気にしなくていい」
男性はそう言うと、ふわりと優しい笑みを見せた。先ほどまでの能面のような無表情からは全く想像が付かない。
「とにかく無事で何より。怖かっただろ?」
「――はい、ちょっと……」
「だろうね」
男性はさらにニッコリと微笑み、私の手を取って立たせてくれた。
「さて、もうちょっと落ち着いてから帰ろうか? ちょうど近くに喫茶店があるし、そこで休もう」
何故か、この男性相手だと断ろうという気持ちにはならなかった。危機感がなさ過ぎると自分でも思いつつ、でも、助けてもらった手前、少しだけでもお付き合いさせてもらおうと思った。
先ほどとは打って変わり、異常なまでに声を荒らげている。
あまりの豹変ぶりに、さすがにゾッとしてしまった。
「卑怯? 彼女が何かしたのかい?」
ぶつかった相手が、抑揚のない口調で男子Aに訊ねる。あまりにびっくりして気付かずにいたけれど、よくよく見たら男性だった。
男子Aの視線が私から男性へと移った。そして、睨みを利かせながら、「あんた誰だよ?」と訊き返してくる。
男性は睨まれても全く動じず、表情を全く変えていない。
「誰だって訊いてんだよ? 人の質問にはちゃんと答えろや」
「せっかちだな。今答えようとしてたのに」
「だから早く言え!」
イライラしている男子Aを前に、男性は小さく溜め息を吐いてから答えた。
「俺は彼女の親戚だけど?」
はい? と危うく突っ込みそうになった。私は思わず、男性の顔をまじまじと見つめる。親戚を全て把握しているわけではないけれど、少なくとも、この男性と私は初対面だ。
ただ、ここは合わせておいた方が良いと咄嗟に思った。今は男子Aを追い払うのが先だ。
「何があったか知らないが、人の大事な親戚の子を追い駆け回すのは感心しないな。ほら、こんなに怯えてるじゃないか?」
男性は二の腕から手を離し、今度は私の肩を抱き寄せる。あまりに自然な行為に、私もほとんど無意識に身を預けていた。
「とにかく、彼女にこれ以上ちょっかいを出すのはやめてくれないか?」
「は? ちょっかいなんか出してねえし。てかあんた、ほんとに親戚?」
男子Aが疑うのも無理はない。いきなり出てきて、親戚だから、と宣言されてもすんなりと信じられるわけがないだろう。
でも、男性は全く怯む様子がない。それどころか、「ほんとだ」としれっと返す。
「とにかくもう行ってくれ。彼女は身体も弱いんだ。これ以上追い詰めるような真似はするんじゃない。いいね?」
やんわりとした口調だったけれど、凄みを含んでいる。
さすがに男子Aも観念したらしい。チッ、と負け惜しみのように舌打ちを残し、私達から背を向けて立ち去った。
男子Aの姿が見えなくなったとたん、私はその場にへたり込んだ。緊張の糸が一気に解け、力尽きてしまった。
「大丈夫?」
男性も私の前に膝を折る。そして、「すまなかったね」と謝罪してきた。
「つい、下手な芝居を打ってしまった。気を悪くしただろう?」
「あ、いえ」
私は首を横に振った。
「かえって助かりました。ほんとにしつこかったので……。あのまま走ってても、結局捕まって終わりだったと思います……」
そこまで言うと、両腕で自らを抱き締め、ブルリと震えた。なりゆきでも何でも、男性が助けてくれたことには変わりないし、感謝している気持ちは本物だった。
「ほんとに、なんて感謝したらいいか……」
「そんなのは気にしなくていい」
男性はそう言うと、ふわりと優しい笑みを見せた。先ほどまでの能面のような無表情からは全く想像が付かない。
「とにかく無事で何より。怖かっただろ?」
「――はい、ちょっと……」
「だろうね」
男性はさらにニッコリと微笑み、私の手を取って立たせてくれた。
「さて、もうちょっと落ち着いてから帰ろうか? ちょうど近くに喫茶店があるし、そこで休もう」
何故か、この男性相手だと断ろうという気持ちにはならなかった。危機感がなさ過ぎると自分でも思いつつ、でも、助けてもらった手前、少しだけでもお付き合いさせてもらおうと思った。
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