Blissful Kiss

雪原歌乃

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Chapter.1 告白は突然に

Act.1

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 私は何故、こんな所にいるのだろう。時々不意に我に返り、そんな疑問が頭を過ぎる。
 確かに、男っ気のない私のためにと、友人の石田七緒いしだななお坂下佳奈子さかしたかなこが連れてきてくれた合コンだったけれど、そもそも私はそこまでして彼氏が欲しいとは思っていないし、それ以前に異性への興味は今はそれほどない。
 ただ、お酒はわりと好きな方だから、周りの会話には適当に相槌を打ちつつひたすら飲み続けていた。
「へえっ! 君って見た目に似合わず酒強いんだなあ!」
 褒めているつもりなのか、それとも貶しているのか、男子の中のひとり――男子A――が私に声をかけてくる。
 私はそんな彼に対し、軽く頷きながら、それでもビールの入ったグラスから口を離さなかった。
 確実に、つまらない女だと思われている。でも、そう思われても全く構わない。むしろ、興味を持たれても困る。
 そんな私とは対照的に、七緒と佳奈子は男子相手によく喋る。いや、七緒は私よりは愛想を振り撒いている程度で、佳奈子の方がむしろ楽しそうだ。結局のところ、私のため、というよりも佳奈子が楽しみたいがための合コンだというのは間違いない。
「で、君達は彼氏とかいないの?」
 男子の中で一番まともそうな人――男子B――が、やんわりとした口調で訊ねてきた。
「そ。全員今はフリー」
 男子の問いに真っ先に答えたのは、佳奈子だった。
「私は半年ぐらいかな? 七緒も確かそれぐらいだよね?」
「そうね」
 やはり、七緒はニコニコしながら頷く。
「佳奈子も私も色々あったしね」
「ふうん……。まあ、詳しい事情は訊かないでおこう」
 男子Bは気を遣っているような口振りだけど、七緒と佳奈子の過去の恋愛事情に興味がないのは誰もが分かったと思う。確かに、変に勘繰られても面倒だし気持ち悪い。
「じゃあ、そっちの彼女は?」
 ふたりと違い、蚊帳の外に追いやられていたのではないかと思っていた私は、急に振られてさすがに面食らった。グラスに口を付けた状態で、そのまま止まってしまった。
「おっ、俺めっちゃ気になる!」
 私の飲みっぷりに茶々を入れてきた男子Aが、急に私に向かって身を乗り出してきた。
 目元がピクピクと痙攣する。自分でも、相当険しい表情をしている自覚があった。
 なのに、男子Aは全く動じない。それどころか、「なあなあ、どうなんだよ?」となおもしつこく訊いてくる。
「――ずっと……」
 仕方なく、ポツリと口を開いた。
「へ? 何だって?」
 男子Aは怪訝そうに重ねて訊ねる。
 また言うのが面倒臭い。そう思っていた私に、「ずっといないのよ」と七緒が助け舟を出してくれた。多分、私の表情を見て察してくれたのだろう。
「この子ね、全くそういうのがないのよ。機会がなかったわけじゃないと思うんだけど、その気がはなっからないというか……」
「マジかっ?」
 男子Aがジロジロと私に視線を投げかけてくる。そして、急にニヤリと口元を歪めた。
「へええ。っつうことは、君って処女?」
 男子Aの発言に、場の空気が一瞬にして凍り付いた。

 ――こいつ、馬鹿……?

 全員がそう思っただろう。
 そして、言われた当の私に至っては、我慢していたものが音を立ててプツリと切れた。
 もう無理。この場に一秒だっていたくない!
「ごめん私帰る」
 務めて冷静に言い、けれども荒々しくコートとバッグを掴んでその場から離れた。飲み代を前もって払っていたのが幸いだった。
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