桜咲くあの日、僕らは淡い夢を見た

夕凪ヨウ

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エピローグ 約束

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「本当にあった‥‥夢だったけど‥‥夢じゃなかったんだ。」

 咲也が事故でこの世を去ってから、4年の月日が経っていた。颯太は、満開のシカバネザクラの丘に来ていた。満月が輝いている。

「咲也、聞こえてる?僕もう高校2年生になるよ。あの時の僕たちに、やっと追いついたんだよ。」

 桜の木に向かって、颯太は告げた。しかし、返事が返って来るわけもなく、苦笑して肩をすくめた。
 その時だった。懐かしい声が聞こえてきた。

(颯太。)
「‥‥咲也?」
(ああ。俺だ。姿は見せられないけど、俺はお前が見えてるよ。)
「咲也‥‥本当に、君なの?」
(おう。)

 懐かしい声に、涙がこぼれそうになった。咲也たちが花びらのように消えてしまったあの時と変わらぬ、咲也の声。姿が見えなくても、颯太は嬉しかった。

「咲也、向陽おじさんと小春おばさんの間に子供ができたんだって。知ってる?」
(そうなのか。ずっと欲しくてもできなかったのにな。)
「女の子でね、名前は‥‥‥“さくら”。咲也の“咲”に、“良い”っていう字。びっくりだよね。」
(不思議なこともあるもんだな。)
「本当に。初めて聞いた時、すごく驚いちゃった。」

 その後は、夢のように時間が過ぎた。颯太はあれからの中学時代と高校に入学してからの学校生活を語り、新しい友人、将来のことを語った。しばらく経った後、咲也がぽつりと呟く。

(来てくれて、ありがとな。でも、きっともう会えない。)
「‥‥何となく、そんな気はしてたよ。この木に何かあるんだね。」
(サクラが‥‥あいつが、昨日でこの木を離れたからだ。)
「え、どうして?」
(この木のせいで人が死にすぎたからだと言ってる。)
「なるほど、彼女らしいね。」
(あいつがいるから、俺はこうしてお前に会えた。でもあいつがいなくなって、この木の妖力がだんだん衰えたら、特別な場所ではなくなる。だから‥‥‥。)

 そこで言葉が途切れた。咲也が何かを言おうとすると、颯太は先回りして口を開いた。

「大丈夫だよ。僕はもう、大丈夫。君がいなくなってどうしていいかわからなかったけど、ここまで生きてきた。今日までたくさんの出会いと別れがあった。それでも、生きてきた。そして、これからも生き続ける。君の元に行く、その時まで。」

 その言葉には、強い意志があった。4年前、友の死から逃げた時とは違う、前を向いて生きるという、強い意志が。

(颯太、強くなったな。)
「君が約束してくれたからだよ。“ずっと見守っている”って。」

 4年前の、約束。颯太はこの4年間、一度たりともその約束を忘れたことはなかった。

(そっか‥‥そうだな。俺は、お前に約束した。絶対に、見守るよ。何があっても。)
「ありがとう、咲也。じゃあ‥‥“またね”。」
(ああ‥‥“またな”!)

 その言葉を最後に、声は途切れた。
 
 颯太は息を吐きながらゆっくりと桜の木に背を向け、歩き始めた。

 満開のシカバネザクラが、たくましくなった颯太の後ろ姿を見守っていた。
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みんなの感想(8件)

アメコ
2021.05.31 アメコ
ネタバレ含む
解除
アメコ
2021.05.29 アメコ

読ませていただき大変素晴らしい作品だと思いました。あまりにも切なくて泣きそうになる場面もあるが、続きがすごく気になります。
 これからも頑張ってください👍🎶♪

解除
ドラ息子
2021.05.08 ドラ息子

最終章前辺りから、涙が止まらなくなりながら最後まで読ませて頂きました。

親が子を思う気持ち。

子が親を慕う気持ち。

亡くなった方がもっと生きたかったと思う気持ち。

生きてる方が亡くなった方へ思う気持ち。

あの世からは手に取る位に丸見えなんでしよう。

でも、この世からあの世は全くわからない世界。

この世とあの世の行き来。

現実の世界ではなかなか難しい事。

現在生きてる自分には、全く霊感等は無いんですが正直、この小説のような事って実際にあっても不思議ではないと思っています。いや、どちらかというとあるんだろうなと思っている所があるから、余計に最後の辺りから涙が止まらなくなってしまったのかなと。

解除

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