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7話 あいつはどこだ、進路はどうする
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花見をした翌日、担任の口から出たのは驚くべき言葉だった。
「花霞上さんは、お家の事情で別の学校に転校しました。“短い間でしたがありがとう”と本人からの伝言です。」
クラス中がざわついた。サクラを惜しむ声が多く聞こえる中、咲也は椅子から立ち上がり、担任に尋ねた。
「別の学校ってどこですか⁉︎どうして急に転校なんて‥‥!」
「それは個人情報だから教えられません。菜種梅雨くんは花霞上さんと仲が良かったから、聞いていると思っていたけど‥‥知らなかったんですね。まあ、ご家庭の事情に口出しするわけにはいきませんから。」
咲也は唖然とした。あの日、颯太と2人でサクラを夜まで探したが、どこに住んでいるのかも分からない彼女を探すあてなどなく、諦めたのだ。
「ちょっとした悪ふざけだと思ってたのに‥‥本当にいなくなっちまうなんて思わなかったぜ。」
「咲也、やっぱり寂しいんだね。」
「ちげえよ!むしろ、うるさい奴が居なくなってホッとしてる!」
「本当にそう思ってるの?」
「‥‥ああ。」
妙な間があったと言われるのが面倒なので、咲也はとっさに話題を変えた。颯太も咲也を気遣ってか、それ以上何も言わず、彼の話に笑顔を浮かべた。
*
家に帰ると、いつも通り叔母の小春が出迎えた。元気のない咲也を見兼ねて、弥生が声をかける。
「サクラちゃんのこと、気になるの?」
「まあちょっとだけ‥‥花見の時に突然居なくなったと思ったら、転校したって聞かされたし‥‥全てが唐突すぎて、頭が追いつかないんだよ。」
「そうだよね。私も驚いてる。サクラちゃんと過ごした時間が、今では夢のように感じるもの。」
弥生は、今夢から覚めたといった表情で、そう呟いた。遠くを見る目は、母・晴子とよく似ていた。
「‥‥叔父さんがね、咲也に将来の夢があるなら聞いてやってくれないかって。私は望んで就職するから、咲也も望む将来があるならそこに進めばいいって。」
咲也は考えた。幼い頃は何も考えず、アレをしたい、コレになりたいと口走っていたが、今は何も考えていなかったのだ。
「少し考えさせてくれ。将来何がしたいのか、何になりたいのか‥‥まだ分からねえんだ。ごめん‥‥姉貴。」
「焦らなくていいよ。叔父さんもいつでもいいって言ってたし。」
「そっか。ところで姉貴って、就職するために何か勉強するのか?高卒でもちゃんと仕事させてくれる所とかってあんの?」
「その辺りは叔父さん、叔母さんと話し合って大方決まってる。咲也は気にしないで。」
弥生が部屋を出ていくと、咲也は深い溜息をついた。彼の勉強机には2枚の写真が立てかけてあり、1枚は家族写真、もう1枚は、先日の花見で撮ってもらった、3人の写真である。
サクラ‥‥どこ行ったんだよ。俺は‥‥まだお前に聞きたいことがあったんだ。それに‥‥あの言葉は一体どういう意味なんだよ。満開の桜‥‥?こないだの桜は何だっていうんだ?あれ以上に咲いてる桜なんてどこにあんだよ。逃したら見られない?意味分かんねえ‥‥
いつしか、心の中で咲也は彼女のことを「サクラ」と呼んでいた。ぼんやりと考えていたその時、部屋がノックされた。
「咲也。」
「叔父さん‥‥今日は早いですね。何か用ですか?」
向陽は、無言で一枚の写真を咲也に渡した。それは以前アルバムを見た時に、咲也が心惹かれた桜の木の下での写真だった。
「その桜が咲いていた場所が気になるんだろう?場所が分かったから、これも渡しておく。シカバネザクラというらしい。ちょっと不気味な名前だが‥‥」
向陽が渡したのは、写真までの位置を記した地図だった。咲也は顔を上げて驚く。
「私と小春も行きたいところだが、仕事が忙しい時期だからな。付き合ってやれないんだ。弥生は行けるかどうか分からんが、颯太くんは誘ってみたらどうだ?そこにお前の探していた“何か”があるのなら、だが。」
「ありがとうございます!夏休みくらいに颯太と‥‥」
咲也はそこまで言いかけると、ハッとして口を閉じた。サクラの言葉が頭をよぎったのだ。
「来年の春に行ってもいいですか?桜が咲いている時期に。」
「‥‥構わないが、車で2、3時間かかる所だぞ?新学年になるのに、そんな暇があるかどうか‥‥」
「どうにかして作ります。姉貴も必ず連れて行きます。」
「なるほど‥‥分かった。弥生も行くなら、きちんと話し合うんだぞ。」
向陽が部屋を出ると、咲也は急いでスマホを取り出し、颯太に電話をかけた。
『来年の春?まあ、今の所は何もないから大丈夫だよ。ていうか、弥生さんと2人じゃダメなの?』
「お前にも来て欲しいんだよ。あの時、サクラが花見に姉貴じゃなくてお前を誘ったことも気にかかるし。きっとサクラにとって、お前も特別な“何か”なんだ。」
『少し無理がある推理だけど‥‥分かった。一緒に行こう。』
その夜、咲也は弥生を部屋に呼んで全てを話した。弥生は少し考えた後、にっこり笑ってこう言った。
「分かった。2人のために来年の春までに運転免許取るから、みんなで行こう。」
「ありがとう、姉貴!」
たくさんの謎を解き明かす手がかりは、この写真とサクラの言葉。未知の旅への扉が、開きかけていた。
「花霞上さんは、お家の事情で別の学校に転校しました。“短い間でしたがありがとう”と本人からの伝言です。」
クラス中がざわついた。サクラを惜しむ声が多く聞こえる中、咲也は椅子から立ち上がり、担任に尋ねた。
「別の学校ってどこですか⁉︎どうして急に転校なんて‥‥!」
「それは個人情報だから教えられません。菜種梅雨くんは花霞上さんと仲が良かったから、聞いていると思っていたけど‥‥知らなかったんですね。まあ、ご家庭の事情に口出しするわけにはいきませんから。」
咲也は唖然とした。あの日、颯太と2人でサクラを夜まで探したが、どこに住んでいるのかも分からない彼女を探すあてなどなく、諦めたのだ。
「ちょっとした悪ふざけだと思ってたのに‥‥本当にいなくなっちまうなんて思わなかったぜ。」
「咲也、やっぱり寂しいんだね。」
「ちげえよ!むしろ、うるさい奴が居なくなってホッとしてる!」
「本当にそう思ってるの?」
「‥‥ああ。」
妙な間があったと言われるのが面倒なので、咲也はとっさに話題を変えた。颯太も咲也を気遣ってか、それ以上何も言わず、彼の話に笑顔を浮かべた。
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家に帰ると、いつも通り叔母の小春が出迎えた。元気のない咲也を見兼ねて、弥生が声をかける。
「サクラちゃんのこと、気になるの?」
「まあちょっとだけ‥‥花見の時に突然居なくなったと思ったら、転校したって聞かされたし‥‥全てが唐突すぎて、頭が追いつかないんだよ。」
「そうだよね。私も驚いてる。サクラちゃんと過ごした時間が、今では夢のように感じるもの。」
弥生は、今夢から覚めたといった表情で、そう呟いた。遠くを見る目は、母・晴子とよく似ていた。
「‥‥叔父さんがね、咲也に将来の夢があるなら聞いてやってくれないかって。私は望んで就職するから、咲也も望む将来があるならそこに進めばいいって。」
咲也は考えた。幼い頃は何も考えず、アレをしたい、コレになりたいと口走っていたが、今は何も考えていなかったのだ。
「少し考えさせてくれ。将来何がしたいのか、何になりたいのか‥‥まだ分からねえんだ。ごめん‥‥姉貴。」
「焦らなくていいよ。叔父さんもいつでもいいって言ってたし。」
「そっか。ところで姉貴って、就職するために何か勉強するのか?高卒でもちゃんと仕事させてくれる所とかってあんの?」
「その辺りは叔父さん、叔母さんと話し合って大方決まってる。咲也は気にしないで。」
弥生が部屋を出ていくと、咲也は深い溜息をついた。彼の勉強机には2枚の写真が立てかけてあり、1枚は家族写真、もう1枚は、先日の花見で撮ってもらった、3人の写真である。
サクラ‥‥どこ行ったんだよ。俺は‥‥まだお前に聞きたいことがあったんだ。それに‥‥あの言葉は一体どういう意味なんだよ。満開の桜‥‥?こないだの桜は何だっていうんだ?あれ以上に咲いてる桜なんてどこにあんだよ。逃したら見られない?意味分かんねえ‥‥
いつしか、心の中で咲也は彼女のことを「サクラ」と呼んでいた。ぼんやりと考えていたその時、部屋がノックされた。
「咲也。」
「叔父さん‥‥今日は早いですね。何か用ですか?」
向陽は、無言で一枚の写真を咲也に渡した。それは以前アルバムを見た時に、咲也が心惹かれた桜の木の下での写真だった。
「その桜が咲いていた場所が気になるんだろう?場所が分かったから、これも渡しておく。シカバネザクラというらしい。ちょっと不気味な名前だが‥‥」
向陽が渡したのは、写真までの位置を記した地図だった。咲也は顔を上げて驚く。
「私と小春も行きたいところだが、仕事が忙しい時期だからな。付き合ってやれないんだ。弥生は行けるかどうか分からんが、颯太くんは誘ってみたらどうだ?そこにお前の探していた“何か”があるのなら、だが。」
「ありがとうございます!夏休みくらいに颯太と‥‥」
咲也はそこまで言いかけると、ハッとして口を閉じた。サクラの言葉が頭をよぎったのだ。
「来年の春に行ってもいいですか?桜が咲いている時期に。」
「‥‥構わないが、車で2、3時間かかる所だぞ?新学年になるのに、そんな暇があるかどうか‥‥」
「どうにかして作ります。姉貴も必ず連れて行きます。」
「なるほど‥‥分かった。弥生も行くなら、きちんと話し合うんだぞ。」
向陽が部屋を出ると、咲也は急いでスマホを取り出し、颯太に電話をかけた。
『来年の春?まあ、今の所は何もないから大丈夫だよ。ていうか、弥生さんと2人じゃダメなの?』
「お前にも来て欲しいんだよ。あの時、サクラが花見に姉貴じゃなくてお前を誘ったことも気にかかるし。きっとサクラにとって、お前も特別な“何か”なんだ。」
『少し無理がある推理だけど‥‥分かった。一緒に行こう。』
その夜、咲也は弥生を部屋に呼んで全てを話した。弥生は少し考えた後、にっこり笑ってこう言った。
「分かった。2人のために来年の春までに運転免許取るから、みんなで行こう。」
「ありがとう、姉貴!」
たくさんの謎を解き明かす手がかりは、この写真とサクラの言葉。未知の旅への扉が、開きかけていた。
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