桜咲くあの日、僕らは淡い夢を見た

夕凪ヨウ

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3話 突然の告白

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「あら、咲也おかえり。お友達が来てるわよ。」
「え?颯太が?」
「いいえ、女の子よ。桜色の髪をした綺麗な子。」

 小春の言葉を聞いて、咲也は大急ぎで靴を脱ぎ、リビングに駆け込んだ。そこには、お茶を飲むサクラの姿があった。

「あ、咲也くん。お帰りなさい。部活見学に行ってたの?」
「お前何でここにいるんだよ⁉︎つーか住所‥‥どうやって特定した⁉︎」
「特定だなんて、人聞きの悪い。颯太くんが教えてくれなかったから、学校中で聞き回っただけ。もうすっごく大変だった。」

 咲也は頭を抱え、小春に鬼気迫る勢いで言葉をかけた。

「叔母さん!何で入れたんですか⁉︎こいつとは友達でも何でもないですよ!」
「ごめんなさい。でも、女の子の友達が来るなんて初めてだったから嬉しくて。」

 小春は嬉しそうにニコニコしているが、咲也は溜息をついた。

「姉貴はバイトで遅いですよね?」
「ええ。夕食はいらないって。」
「花霞上。家まで送ってやるから帰れ。居座られても迷惑だ。」
「‥‥家も家族も、ここにはないから‥‥」

 サクラの言葉に2人が顔を見合わせていると、叔父の向陽(こうよう)が入って来た。もともと大柄なのでやや威圧感があるが、普段よりも無愛想に見えて、咲也はギョッとした。しかしすぐに我に帰り、サクラの腕を掴む。

「こいつ送り届けて来ます。夕飯は外で食べるのでご心配なく。」
「‥‥もう遅いのだから今日はやめておきなさい。弥生もそろそろ帰ってくる。」
「だけど‥‥叔父さんたちに迷惑です。」
「私たちは構わない。一晩くらい泊めてあげなさい。」
「わ、分かりました。ありがとうございます。」

 向陽が部屋を出ると、小春が、“あの人も、女の子のお友達が来て嬉しいのよ”と言った。咲也は、“友達じゃないです”、と念を押し、話をするためにサクラを自分の部屋に通した。

「叔父さんの許可が出たから一晩は泊めるけど‥‥お前、何しに来たんだ?」
「咲也くんとお姉さんと3人で話がしたかったの。お姉さんはいつ帰ってくる?」
「1、2時間後くらいだな。それより話って何だよ?初日からやけに絡んでくるけど、一体俺の何を知ってる?何の目的で俺に近づく?」
「お姉さんが帰って来たら全部話すよ。」
「‥‥分かった。」

 しばらくして弥生が帰ってくると、咲也は姉に事情を話した。弥生は、

「叔母さんの手伝いが終わったら行くから、少し待ってて。」

と言った。

                      *

 弥生はキッチンの片付けを済ますと、咲也の部屋に3人分のお茶を持って入って来た。

「時間を作っていただいてありがとうございます。急に押しかけて‥‥怒っていますか?」
「まさか。咲也が颯太くん以外のお友達を連れてくることは珍しいから、私としては嬉しいかな。叔父さんたちも喜んでるし。それで‥‥話って?」

 サクラは突然、額が床につくほど深い土下座をした。2人は慌てふためく。

「これから私がお話しすることは、お2人を不快にさせるかもしれません。でも全てお2人を思ってのことなんです。それを理解した上で‥‥私の話を聞いてくれますか?」

 サクラの真剣な表情を見た2人は、顔を見合わせて頷いた。

「そんな覚悟があるなら、私たちもしっかり聞かないとダメだね。咲也もそうでしょ?」
「ああ。話してくれよ。何だかよく分からないけど。」

 2人の言葉に安心したサクラは、顔を上げて深呼吸をした。いつもとは違う真剣な表情で、彼女は話を始めた。

「以前私は、咲也くんにお2人のご両親‥‥菜種梅雨晴子(なたねづゆせいこ)さんと菜種梅雨朝陽(なたねづゆあさひ)さんは亡くなっていないと言いました。ですが、少し言葉を間違えました。正しくは‥‥“魂は死んでいない”‥‥もっと簡単に言うならば“成仏していない”のです。ご両親はまだこちら側に未練があり、魂が彷徨っている。魂の願いを叶えなければ、成仏はできません。ご両親とお2人は、会わなければなりません。私はそのために咲也くんと颯太くんに近づきました。」

 サクラの口から出る言葉は2人を混乱させた。こらえきれずに弥生が手を上げて質問する。

「あなたは一体何者?私たちはどうやったら父さんたちに会えるの?」
「私はこの世とあの世を繋ぐ橋だとでも思ってください。お会いする方法ですが‥‥死者とはどこででも会えるわけではありません。」
「そりゃそうだろう。生者の俺たちと、死者の親父とお袋が、一体どこで会うっていうんだよ?」

 咲也の言葉に、サクラは口をつぐんだ。咲也が苛立ちながら立ち上がる。

「そもそも生者と死者が会うなんて、都合のいい話があるのか?言いたいことは分かったけど、実現できないなら全て無に帰すだけだ。」
「私は、それを実現させるためにここに来たの。叔父さんと叔母さんの協力を得る必要もあるから‥‥話をさせてくれないかな?」
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