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1話 桜色の髪の転校生
しおりを挟む「‥‥今日から高校生か‥‥親父とお袋にも見てもらいたかったな。」
「咲也!叔母さんたち待ってるから早く来て!」
「へーい、姉貴。」
これは、2人の少年と不思議な少女が紡いだ、せつない物語。
2日後。
「おはようございます。ホームルームを行います。起立!」
菜種梅雨咲也(なたねづゆさくや)は面倒くさそうに立ち上がり、礼をして座った。窓側の一番後ろの席である咲也は、いつもグランドを眺めて過ごしていた。そんな咲也を見かねた担任が、呆れた表情で彼に声をかけた。
「菜種梅雨くん。外ばかり見ないで話を聞きなさい。」
「聞いてますから、気にしないでください。」
「じゃあ私が何を言ったか言えますか?」
咲也は黙った。教室の隅々から笑い声が聞こえる。咲也は聞こえない程度の舌打ちをした。担任は溜息をついて、呆れ口調で説明した。
「今日から、1年1組に新しい仲間が増えます。どうぞ入って。」
教室に入って来たのは、鳶色の目、桜色の長髪の少女だった。
「初めまして。今日から霞ヶ丘高校の生徒になる花霞上(はなかすみがみ)サクラです。よろしくお願いします。」
“美少女”のサクラの声を聞いて、歓声が上がった。咲也は教壇を一瞥しただけで、何の反応も示さなかった。
「みんな仲良くしてあげてね。」
担任に紹介されたサクラは、深々とお辞儀をした。男子も女子も、サクラに釘付けだった。
「菜種梅雨くんの隣が空いているから、花霞上さんはそこに座ってもらいますね。」
「はあ⁉︎何でっ‥‥!」
咲也は意味が分からないという顔をして立ち上がった。
「菜種梅雨くん、よろしくね。」
「うっ‥‥お、おう。」
顔を覗き込み、にっこりと笑うサクラに、咲也はたじろいだ。授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
*
昼休み、咲也の隣には、金色の髪に緑色の瞳、銀縁めがねの男子生徒がいた。
「転校生の子と隣の席?それが災難なの?」
「俺にとっちゃ災難だよ。」
咲也は幼馴染みの春風颯太(はるかぜそうた)と昼食を摂りながら話していた。イギリス人と日本人のハーフである颯太は、学年トップの頭脳を持つ。優しく思いやりがあり、咲也の数少ない理解者だった。
「僕のクラスにまで噂になってるよ。“美少女が来た”ってね。」
「ふーん。俺としては授業中に妙に話しかけて来やがるし、迷惑だぜ。」
「他のクラスメイトが嫉妬するからやめなよ。まあ確かにちょっとミステリアスな雰囲気はあるけど、僕も異性として興味があるわけじゃないかな。」
颯太の言葉に咲也は苦笑した。颯太は心優しい性格だが、たまに毒を吐く。本人は自覚がないらしいが。
“美少女”の話題を終わりにして、颯太がたずねた。
「弥生さんとは入学式以来、家でもあまり会話してないの?」
「話しかけにくいんだよ。姉貴は叔父さんと叔母さんの家で暮らすようになってから、人が変わったように無口になったからな。」
「病弱だけど、昔は明るい人だったもんね。」
「叔父さん叔母さんに気を遣って、家の手伝いばかりやってるよ。」
「それって、君が肩身の狭い思いをしないで済むためでもあるよね。感謝してるんだろ?」
咲也は颯太から視線を逸らし、窓の外を見た。颯太は、素直じゃないねと言いながら笑った。
昼食を終えると、咲也はトイレに行くと言って教室を出た。すると、クラスメイトと話をしているサクラを見かけた。そばを通り過ぎようとすると、サクラが咲也の袖を掴んだ。
「少し話さない?数分で済ますから。」
「‥‥は、話って何だよ?」
「あなたのご両親の話。」
「は?」
咲也はひどく怪訝な顔をした。サクラは何も言わず、綺麗な顔に微笑を浮かべた。
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