桜咲くあの日、僕らは淡い夢を見た

夕凪ヨウ

文字の大きさ
上 下
1 / 16

1話 桜色の髪の転校生

しおりを挟む

「‥‥今日から高校生か‥‥親父とお袋にも見てもらいたかったな。」
「咲也!叔母さんたち待ってるから早く来て!」
「へーい、姉貴。」

 これは、2人の少年と不思議な少女が紡いだ、せつない物語。


 2日後。

「おはようございます。ホームルームを行います。起立!」

 菜種梅雨咲也(なたねづゆさくや)は面倒くさそうに立ち上がり、礼をして座った。窓側の一番後ろの席である咲也は、いつもグランドを眺めて過ごしていた。そんな咲也を見かねた担任が、呆れた表情で彼に声をかけた。

「菜種梅雨くん。外ばかり見ないで話を聞きなさい。」
「聞いてますから、気にしないでください。」
「じゃあ私が何を言ったか言えますか?」

 咲也は黙った。教室の隅々から笑い声が聞こえる。咲也は聞こえない程度の舌打ちをした。担任は溜息をついて、呆れ口調で説明した。

「今日から、1年1組に新しい仲間が増えます。どうぞ入って。」 

 教室に入って来たのは、鳶色の目、桜色の長髪の少女だった。

「初めまして。今日から霞ヶ丘高校の生徒になる花霞上(はなかすみがみ)サクラです。よろしくお願いします。」

 “美少女”のサクラの声を聞いて、歓声が上がった。咲也は教壇を一瞥しただけで、何の反応も示さなかった。
                    
「みんな仲良くしてあげてね。」

 担任に紹介されたサクラは、深々とお辞儀をした。男子も女子も、サクラに釘付けだった。

「菜種梅雨くんの隣が空いているから、花霞上さんはそこに座ってもらいますね。」
「はあ⁉︎何でっ‥‥!」

 咲也は意味が分からないという顔をして立ち上がった。

「菜種梅雨くん、よろしくね。」
「うっ‥‥お、おう。」

 顔を覗き込み、にっこりと笑うサクラに、咲也はたじろいだ。授業の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

                     *

 昼休み、咲也の隣には、金色の髪に緑色の瞳、銀縁めがねの男子生徒がいた。

「転校生の子と隣の席?それが災難なの?」
「俺にとっちゃ災難だよ。」

 咲也は幼馴染みの春風颯太(はるかぜそうた)と昼食を摂りながら話していた。イギリス人と日本人のハーフである颯太は、学年トップの頭脳を持つ。優しく思いやりがあり、咲也の数少ない理解者だった。

「僕のクラスにまで噂になってるよ。“美少女が来た”ってね。」
「ふーん。俺としては授業中に妙に話しかけて来やがるし、迷惑だぜ。」
「他のクラスメイトが嫉妬するからやめなよ。まあ確かにちょっとミステリアスな雰囲気はあるけど、僕も異性として興味があるわけじゃないかな。」

 颯太の言葉に咲也は苦笑した。颯太は心優しい性格だが、たまに毒を吐く。本人は自覚がないらしいが。
 “美少女”の話題を終わりにして、颯太がたずねた。

「弥生さんとは入学式以来、家でもあまり会話してないの?」
「話しかけにくいんだよ。姉貴は叔父さんと叔母さんの家で暮らすようになってから、人が変わったように無口になったからな。」
「病弱だけど、昔は明るい人だったもんね。」
「叔父さん叔母さんに気を遣って、家の手伝いばかりやってるよ。」
「それって、君が肩身の狭い思いをしないで済むためでもあるよね。感謝してるんだろ?」

 咲也は颯太から視線を逸らし、窓の外を見た。颯太は、素直じゃないねと言いながら笑った。

 昼食を終えると、咲也はトイレに行くと言って教室を出た。すると、クラスメイトと話をしているサクラを見かけた。そばを通り過ぎようとすると、サクラが咲也の袖を掴んだ。

「少し話さない?数分で済ますから。」
「‥‥は、話って何だよ?」
「あなたのご両親の話。」
「は?」

 咲也はひどく怪訝な顔をした。サクラは何も言わず、綺麗な顔に微笑を浮かべた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

蝶の羽ばたき

蒼キるり
ライト文芸
美羽は中学で出会った冬真ともうじき結婚する。あの頃の自分は結婚なんて考えてもいなかったのに、と思いながら美羽はまだ膨らんでいないお腹の中にある奇跡を噛み締める。そして昔のことを思い出していく──

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち

ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。 クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。 それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。 そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決! その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

処理中です...