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Case184.真紅に染まる遊園地⑥
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「江本⁉︎逃げろと言っただろ!」
「そうですね。でも、逃げたくありません。」
龍は深い溜息をついた。当たりを見回すが、茂木の姿はない。
「あの男は自ら命を絶とうとするだろう。俺たちはそれを止める。」
「下手したら重傷を負うよ。それでも、来るんだね?」
「行きます。」
迷いなく答えた海里に対し、2人は苦笑いを浮かべた。
「・・・君は意外に頑固だもんね。さあ、行こう!」
※
警視庁。
「西園寺警部、これ・・・。」
「ん?それって茂木賢一郎のスマートフォンのデータ?」
「はい。何者かとメールでやり取りした記録があるんですが、これは・・・・」
言い淀む同僚に不信感を覚え、アサヒはパソコンの画面を覗き込んだ。彼女はメールを見た瞬間、青ざめる。
「・・・嘘でしょ?こんなことって・・・・!」
「どうしますか?」
「伊吹を呼んで来て。これは徹底的に調べないとダメよ。」
※
「あの後、茂木さんはどこに?」
「さあな。足音は聞こえたが、方向までは分からなかった。煙のせいで視界が悪いし、無謀に進んで煙を吸い込めば命に関わる。程々にしないと危険だ。」
「そうですよね・・・。」
「それより、お前天宮に爆弾の解除託したのか?」
「手っ取り早い方法が分からなかったんです。彼女なら何とかなるかと・・・。」
2人は思わず失笑した。海里の類い稀な頭脳は、無茶苦茶なことも思いつくらしい。
「あ・・・!」
「どうしたの?江本君。」
「あの塔・・時計台の上、誰か立ってませんか?」
2人は時計台を凝視した。そこには、茂木が立っている。
「行こう!時間がない!」
3人は炎の海へ飛び込んだ。煙でわずかに見える、茂木の姿を追いながら。
その頃、小夜は海里のスマートフォンを使って隠しファイルを開いていた。
(削除するべきかしら。でも、捜査に使うだろうし・・・。それに、削除したデータは簡単にネット上から消えない。となれば・・・・)
「上書きするしかない。」
小夜は義則から借りたパソコンにデータを移し、隠しファイルを弄り始めた。
「何をされるんですか?」
「ファイルを上書きします。“爆弾を解除する”というプログラムを組み込ませて爆発を止める。削除できない以上、それが最善です。」
「なるほど。でもその爆弾、どこに仕掛けられてるんですか?爆弾処理班を向かわせたいんですが。」
義則の質問に、小夜は眉を顰めた。キーボードを叩き、地図を出す。
「いつかは分からないけれど、近くの住宅街にも仕掛けられています。時間は残り30分。どうにかして解除してみせますが、先に民間人の避難をお願いします。成功するとは限らないし、失敗すれば信じられないほどの死傷者が出る。」
義則は頷き、刑事たちと駆け出した。小夜は画面に向き直り、息を吐く。
(幼い頃から父に叩き込まれたから、知識はある。ただ、ここまでの物を扱った経験はない。どうなるかなんて私にも分からない。
でも今、知っているだけでは意味がないわ。知識を使わなければ。絶対に、爆発を止めないと!)
※
「茂木さん!」
時計台の中に入った海里たちは、鞄から手榴弾を出している茂木を見つけた。彼はハッと顔を上げ、歯軋りをする。
「なぜここへ・・・。とっとと消えろ。死にたくないだろう。」
「ええ。ただ、あなたに死なれるのも困ります。罪を犯しておきながら、罰も受けずに死ぬなど許されませんよ。」
「・・・警察のような口ぶりだな。」
茂木は疲れた顔をしていた。海里は続ける。
「遊園地で亡くなられた妹さんは、復讐を望んだのですか?」
「何だと?」
「昨夜、家に帰って調べさせてもらいました。12年前、この遊園地で茂木瑠衣という当時20歳の女性がジェットコースターから落下し、死亡していた。しかし事件は公にされず、器具の不具合が認められないどころか、本人の不注意として片付けられた・・・。あなたが遊園地の責任者になったのは、妹さんの命を奪ったこの場所を、破壊するためだったんですね?壊して、死んで、事件を公にする・・・そんなところですか?」
茂木はわずかに頷いた。龍が言葉を引き継ぐ。
「動機は分かった。だが今回の事件、いくつか分からないことがある。いくらあんたに爆発物を作る知識があっても、手に入れることは難しいはず。闇サイトは展開できるが、警察が入念に管理しているはずなんだ。一般人のあんたが辿り着くことはまず不可能。」
「それは・・・。」
「加えて、その手榴弾。それ、アメリカで作られる物だろう。押収品で見たことがある。外国製の武器なんて、闇サイトでも売っているとは思えない。一体、どうやって手に入れた?」
龍の質問に、茂木は言い淀んだ。海里は覚悟を決めたかのように茂木に近づく。
「行きましょう、茂木さん。あなたのしたことは許されませんが、過去の事件を暴くことはできるはずです。そうですよね?」
「そうだね。記録を辿れば何とかなるよ。当時を知っている人間に聞き込みをして、資料と照らし合わせて・・・って時間はかかるけど、必ず公にしてみせる。父さんもそう言ったことは許さない人だし、上から睨まれるなんて小さなこと気にしないしね。」
海里は茂木の腕を掴んだ。優しく、温かい手の感触が茂木の腕に伝わる。
「お2人を信じてください。やると宣言したことは、必ずやり遂げてくれます。だから、行きましょう。」
茂木は一瞬希望に満ちた顔をしたが、すぐに視線を伏せた。
「無理だ。私は、既に10数個の爆弾を遊園地および周辺の家に仕掛けた。あと15分で爆発する。」
「その解除も現在取り掛かっています。成功させてくれると信じているんです。だから戻って確かめましょう。」
「解除・・・?あの女性がか?できるわけがない。あれは入念に作り上げたものだ。」
「その入念さを上回る知識と頭脳が、あの人にはあると思っています。だから大丈夫です。さあ。」
(信じても、良いのだろうか。あの時、妹のために動かなかった警察を憎んだ。でもこの男は、ただ信じろと言う。もう1度だけ・・・賭けてみようか。)
茂木はゆっくりと立ち上がった。玲央が手錠をかけ、龍が手榴弾を受け取る。そしてなぜか、手榴弾を受け取った龍の顔は険しかった。
「どうしたの?」
「後で話す。とにかく出るぞ。時間がない。」
4人は時計台の外へ出ると、一目散に小夜たちがいる方向へ駆け出した。
「終わった・・・。」
小夜は安堵の溜息をついた。隣にいる義則も胸を撫で下ろす。
「成功されたんですね?」
「ええ。ただ危険は残っていますから、早めに処理をお願いします。プログラムの書き換えはアサヒさんにお伝えして頂けたら。」
「至急、行います!」
義則が踵を返すと、海里たちが到着した。
「どうですか?」
「成功したわ。“爆弾解除”のプログラムを作って、ファイルに保存した。自動的に爆弾は解除されて、もう安心。」
「ありがとう、小夜。無茶をさせたね。」
「確かに無茶ね。でも文句は江本さんに言うわ。」
海里たちは苦笑した。その後、爆弾処理班に連絡が行き、全ての爆弾が回収された。茂木は全ての罪を認め、大人しく警視庁へ向かった。
「妹さんが・・・そう。でも、同情はできないわね。キリがないわ。」
「ああ。どんな理由があろうと、犯罪の一言で片付けられてしまうから。」
事後処理を終え、海里たちがそれぞれの帰路に着こうとしたその時、玲央の元へ伊吹から電話がかかってきた。
「どうしたの?事件は解決したよ。」
『表向きはそうですね。玲央、そちらに根岸警視監はいらっしゃいますか?』
「ん?ああ、朝からいるよ。なぜか機嫌悪いけど。」
『そうですか。では、根岸警視監に伝えてください。“警視総監がお呼びですから、警視庁へ戻って来てください”、と。江本さんと天宮さんは後日事件の報告をしてもらいますから、今日は帰って頂いて構いません。あなたたちは警視監に同行してください。』
玲央は怪訝な顔をした。警視総監が警視監を呼び出すことに、なぜ自分たちが関係するのだろうかと不思議に思ったのだ。
「悪いけど、どうして急に?」
玲央の質問に伊吹は声を顰めた。
『・・・今回の事件、根岸警視監が関わっています。加えて、私たちが追っているテロリストと繋がっている可能性も浮上してきました。』
「なっ・・・⁉︎」
『とにかく来てください。本当なら大問題ですから。』
「そうですね。でも、逃げたくありません。」
龍は深い溜息をついた。当たりを見回すが、茂木の姿はない。
「あの男は自ら命を絶とうとするだろう。俺たちはそれを止める。」
「下手したら重傷を負うよ。それでも、来るんだね?」
「行きます。」
迷いなく答えた海里に対し、2人は苦笑いを浮かべた。
「・・・君は意外に頑固だもんね。さあ、行こう!」
※
警視庁。
「西園寺警部、これ・・・。」
「ん?それって茂木賢一郎のスマートフォンのデータ?」
「はい。何者かとメールでやり取りした記録があるんですが、これは・・・・」
言い淀む同僚に不信感を覚え、アサヒはパソコンの画面を覗き込んだ。彼女はメールを見た瞬間、青ざめる。
「・・・嘘でしょ?こんなことって・・・・!」
「どうしますか?」
「伊吹を呼んで来て。これは徹底的に調べないとダメよ。」
※
「あの後、茂木さんはどこに?」
「さあな。足音は聞こえたが、方向までは分からなかった。煙のせいで視界が悪いし、無謀に進んで煙を吸い込めば命に関わる。程々にしないと危険だ。」
「そうですよね・・・。」
「それより、お前天宮に爆弾の解除託したのか?」
「手っ取り早い方法が分からなかったんです。彼女なら何とかなるかと・・・。」
2人は思わず失笑した。海里の類い稀な頭脳は、無茶苦茶なことも思いつくらしい。
「あ・・・!」
「どうしたの?江本君。」
「あの塔・・時計台の上、誰か立ってませんか?」
2人は時計台を凝視した。そこには、茂木が立っている。
「行こう!時間がない!」
3人は炎の海へ飛び込んだ。煙でわずかに見える、茂木の姿を追いながら。
その頃、小夜は海里のスマートフォンを使って隠しファイルを開いていた。
(削除するべきかしら。でも、捜査に使うだろうし・・・。それに、削除したデータは簡単にネット上から消えない。となれば・・・・)
「上書きするしかない。」
小夜は義則から借りたパソコンにデータを移し、隠しファイルを弄り始めた。
「何をされるんですか?」
「ファイルを上書きします。“爆弾を解除する”というプログラムを組み込ませて爆発を止める。削除できない以上、それが最善です。」
「なるほど。でもその爆弾、どこに仕掛けられてるんですか?爆弾処理班を向かわせたいんですが。」
義則の質問に、小夜は眉を顰めた。キーボードを叩き、地図を出す。
「いつかは分からないけれど、近くの住宅街にも仕掛けられています。時間は残り30分。どうにかして解除してみせますが、先に民間人の避難をお願いします。成功するとは限らないし、失敗すれば信じられないほどの死傷者が出る。」
義則は頷き、刑事たちと駆け出した。小夜は画面に向き直り、息を吐く。
(幼い頃から父に叩き込まれたから、知識はある。ただ、ここまでの物を扱った経験はない。どうなるかなんて私にも分からない。
でも今、知っているだけでは意味がないわ。知識を使わなければ。絶対に、爆発を止めないと!)
※
「茂木さん!」
時計台の中に入った海里たちは、鞄から手榴弾を出している茂木を見つけた。彼はハッと顔を上げ、歯軋りをする。
「なぜここへ・・・。とっとと消えろ。死にたくないだろう。」
「ええ。ただ、あなたに死なれるのも困ります。罪を犯しておきながら、罰も受けずに死ぬなど許されませんよ。」
「・・・警察のような口ぶりだな。」
茂木は疲れた顔をしていた。海里は続ける。
「遊園地で亡くなられた妹さんは、復讐を望んだのですか?」
「何だと?」
「昨夜、家に帰って調べさせてもらいました。12年前、この遊園地で茂木瑠衣という当時20歳の女性がジェットコースターから落下し、死亡していた。しかし事件は公にされず、器具の不具合が認められないどころか、本人の不注意として片付けられた・・・。あなたが遊園地の責任者になったのは、妹さんの命を奪ったこの場所を、破壊するためだったんですね?壊して、死んで、事件を公にする・・・そんなところですか?」
茂木はわずかに頷いた。龍が言葉を引き継ぐ。
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「それは・・・。」
「加えて、その手榴弾。それ、アメリカで作られる物だろう。押収品で見たことがある。外国製の武器なんて、闇サイトでも売っているとは思えない。一体、どうやって手に入れた?」
龍の質問に、茂木は言い淀んだ。海里は覚悟を決めたかのように茂木に近づく。
「行きましょう、茂木さん。あなたのしたことは許されませんが、過去の事件を暴くことはできるはずです。そうですよね?」
「そうだね。記録を辿れば何とかなるよ。当時を知っている人間に聞き込みをして、資料と照らし合わせて・・・って時間はかかるけど、必ず公にしてみせる。父さんもそう言ったことは許さない人だし、上から睨まれるなんて小さなこと気にしないしね。」
海里は茂木の腕を掴んだ。優しく、温かい手の感触が茂木の腕に伝わる。
「お2人を信じてください。やると宣言したことは、必ずやり遂げてくれます。だから、行きましょう。」
茂木は一瞬希望に満ちた顔をしたが、すぐに視線を伏せた。
「無理だ。私は、既に10数個の爆弾を遊園地および周辺の家に仕掛けた。あと15分で爆発する。」
「その解除も現在取り掛かっています。成功させてくれると信じているんです。だから戻って確かめましょう。」
「解除・・・?あの女性がか?できるわけがない。あれは入念に作り上げたものだ。」
「その入念さを上回る知識と頭脳が、あの人にはあると思っています。だから大丈夫です。さあ。」
(信じても、良いのだろうか。あの時、妹のために動かなかった警察を憎んだ。でもこの男は、ただ信じろと言う。もう1度だけ・・・賭けてみようか。)
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「どうしたの?」
「後で話す。とにかく出るぞ。時間がない。」
4人は時計台の外へ出ると、一目散に小夜たちがいる方向へ駆け出した。
「終わった・・・。」
小夜は安堵の溜息をついた。隣にいる義則も胸を撫で下ろす。
「成功されたんですね?」
「ええ。ただ危険は残っていますから、早めに処理をお願いします。プログラムの書き換えはアサヒさんにお伝えして頂けたら。」
「至急、行います!」
義則が踵を返すと、海里たちが到着した。
「どうですか?」
「成功したわ。“爆弾解除”のプログラムを作って、ファイルに保存した。自動的に爆弾は解除されて、もう安心。」
「ありがとう、小夜。無茶をさせたね。」
「確かに無茶ね。でも文句は江本さんに言うわ。」
海里たちは苦笑した。その後、爆弾処理班に連絡が行き、全ての爆弾が回収された。茂木は全ての罪を認め、大人しく警視庁へ向かった。
「妹さんが・・・そう。でも、同情はできないわね。キリがないわ。」
「ああ。どんな理由があろうと、犯罪の一言で片付けられてしまうから。」
事後処理を終え、海里たちがそれぞれの帰路に着こうとしたその時、玲央の元へ伊吹から電話がかかってきた。
「どうしたの?事件は解決したよ。」
『表向きはそうですね。玲央、そちらに根岸警視監はいらっしゃいますか?』
「ん?ああ、朝からいるよ。なぜか機嫌悪いけど。」
『そうですか。では、根岸警視監に伝えてください。“警視総監がお呼びですから、警視庁へ戻って来てください”、と。江本さんと天宮さんは後日事件の報告をしてもらいますから、今日は帰って頂いて構いません。あなたたちは警視監に同行してください。』
玲央は怪訝な顔をした。警視総監が警視監を呼び出すことに、なぜ自分たちが関係するのだろうかと不思議に思ったのだ。
「悪いけど、どうして急に?」
玲央の質問に伊吹は声を顰めた。
『・・・今回の事件、根岸警視監が関わっています。加えて、私たちが追っているテロリストと繋がっている可能性も浮上してきました。』
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