181 / 230
Case180.真紅に染まる遊園地②
しおりを挟む
「これは・・・!」
爆発したジェットコースターの周囲は地獄絵図だった。火傷を抑えて呻き声をあげる人や、柱に押し潰されて脱出しようともがく人、泣き叫ぶ子供たち。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「は・・はい。あなたは・・・?」
「警察です。もう少しで消防と救急車が来ますから、辛抱してください。」
玲央は動ける人たちを非難させ、子供たちにその後を追わせた。だが、既に命を落としている人もおり、焦げ臭い匂いが充満していた。
「た・・助けてくれ!柱に足が挟まって・・・‼︎」
玲央は柱を持ち上げようとしたが、びくともしなかった。ジェットコースター全体が乗っかっており、玲央1人の力ではとても不可能なのだ。
「兄貴!」
「龍!」
「消防と救急車が到着した。後はそっちに任せろ。俺たちは爆弾処理班の仕事が終わるまで待機しなきゃならない。」
「・・・分かった。」
※
「何の前触れもなく爆発したってことか?」
「はい。もしかしたら何かしらの音があったのかもしれませんが、賑わっていたので聞こえないと思います。」
「怪しい人間を見たりはしなかったのか?」
「人が多いので、逆に目立たないかと。ただ玲央さん、何か仰っていましたよね。視線を感じたとか・・・。」
「ああ、そういえば言ったね。」
玲央は濡れたタオルで汚れを拭きながら頷いた。
「でも一瞬だったかな。鋭い視線を感じた気がして、振り向いたら消えたって感じ。」
「ストーカーとかじゃないの?」
「まさか。そんなことがあったらさすがに気がつくよ。」
「だがそうなると、犯人の可能性が高いんだがな。」
龍の言葉に、海里は同意を示した。すると、爆弾処理班の1人が頭を下げながら入って来て言った。
「他に爆弾はありませんでした。先程の爆弾は小型ですが威力が強い物でして、出火が酷かったのもそれが原因かと。」
「爆弾はどこに仕掛けてあったの?」
「ジェットコースターの裏です。よく見れば分かりますが、スピードもありますし、人が見るような場所ではありませんから。」
「・・・そうか。もう現場に近づいても?」
「はい。」
海里も立ち上がろうとしたが、龍が押し留めた。
「今日はやめとけ。爆発物はきちんと点検したが、後から仕掛けられたら元も子もない。」
「同意見だね。江本君、悪いけど小夜を送ってくれない?」
「分かりました。じゃあ2人とも、行きましょうか。」
真衣と小夜が頷き立ち上がった時、遊園地の入り口に一台のパトカーが止まった。
「アサヒかな?」
「いや、あいつは今日仕事が溜まっていて現場に赴かないって・・・。」
パトカーの扉が開き、1人の男が現れた。すると、その男を見た途端、玲央と龍は顔色を変えた。
「根岸警視監⁉︎」
ふくよかな体型をし、黒い口髭を生やした男が2人を見た。根岸と呼ばれた男は微笑を浮かべ、2人に近づいてくる。
「大事だな。」
「なぜ・・警視監ともあろう方がこんな所に・・・・?」
「見張り、かな。」
玲央は眉を顰めた。
「どういうことですか?私たちの仕事に不備があったなら謝罪しますが。」
「いやいや。君たちの見張りではないよ。私は・・・・」
根岸の視線が海里の方へ泳いだ。龍はすかさず口を開く。
「今回は帰らせますよ。爆発物が仕掛けられている場所に残して、怪我でもしたら洒落にならない。何より家族と一緒にいます。巻き込めない。」
「いやいや。そんな“もったいない”ことはしないでくれ。私は、小説探偵の実力が本物かどうかを確かめたいのだから。」
鼻につく言い方だった。龍は眉を顰めて言う。
「・・・・つまり、江本に謎を解いてもらいたい、と?」
「そういうことだ。加えて、良い“客人”もいるし、何なら一緒に解いてもらおうか。」
海里は思わず小夜を見た。根岸は頷く。
「お断りします。私は探偵ではない・・謎を解くのが仕事ではありませんから。」
「後のことを気にしているなら、心配無用。他言はしない。」
「そういうわけではなく・・・私は謎を解きたいとは思っていません。」
「しかし大勢の命が奪われたのは事実。一般人1人を危険に晒して、自分だけ安全地に逃げる覚悟がおありかな?」
小夜は唇を噛み締めた。玲央は彼女の前に立つ。
「無理いじりはしないでください。今の彼女は財閥の娘ではなく、ただの一般人です。」
「そうとも。しかしだからこそ、自分の家族が苦しめて来た一般人に協力することが必要ではないか?」
その言葉に海里はムッとし、龍は根岸を睨み、玲央は反射的に口を開いた。
「・・いい加減に・・・!」
「いいのよ、玲央。」
小夜は玲央の肩を掴み、弱々しい笑みを浮かべた。
「江本さんがいる以上、時間はかからないし、私が頭を使う必要はほとんどないわ。それに、危険な目に遭うのは慣れてるから大丈夫。」
「そんなこと・・・!俺は・・・‼︎」
“君を危険な目に遭わせたくない”。その言葉を、玲央はすんでのところで飲み込んだ。深い溜息をつき、分かった、と彼は呟く。
根岸はそれを聞き、満足げに笑った。
「分かってくれて嬉しいよ。私は車から見ているから、気にせず調査をしてくれ給え。」
※
「すみません、小夜さん。巻き込むような形になってしまって・・・。」
「気にしないで。どの道、あの人は捜査に私を加えようとしていたもの。どう足掻いても無駄だったわ。」
「そうですね・・・。でも、東堂さん。あの人・・何なんですか?私だけでなく、小夜さんのことまで嫌っていますよね?」
龍はパトカーを一瞥し、軽い息を吐いた。
「根岸信真警視監は、昔から俺と兄貴が嫌いなのさ。警視総監の息子だから優遇されてるなんていう、面倒な噂を信じているからな。」
「実際は違うんですね?」
「ああ。逆に俺たちに厳しいくらいだ。第一、組織の長たる人間が肉親の情で優遇なんてしていいわけないし、親父はそんな馬鹿なことはしない。寧ろややこしい事件を押し付けて来るくらいだ。」
「そうそう。でも噂を否定するのが面倒臭くて放置してたんだ。こんなことになるとは思わなかったけどね。」
玲央は首をすくめた。海里は苦笑する。
「さっき言った通り、私はほとんど何もしないわ。テロリスト以外の面倒とは関わりたくないの。」
「そうですね。ただ、小説探偵の名と共に素顔も広まっていますから仕方ないのかもしれません。かと言って、警察の方に目の敵にされるのは厄介です。気に入らないにしても、あんな露骨に言わなくてもいいじゃないですか。」
「全くよ。」
2人の気のあった愚痴に玲央と龍は笑ってしまった。
しかし、この事件がそう簡単には終わらないことを、口には出さずとも、心の内で彼らは密かに理解していた。
爆発したジェットコースターの周囲は地獄絵図だった。火傷を抑えて呻き声をあげる人や、柱に押し潰されて脱出しようともがく人、泣き叫ぶ子供たち。
「大丈夫ですか?立てますか?」
「は・・はい。あなたは・・・?」
「警察です。もう少しで消防と救急車が来ますから、辛抱してください。」
玲央は動ける人たちを非難させ、子供たちにその後を追わせた。だが、既に命を落としている人もおり、焦げ臭い匂いが充満していた。
「た・・助けてくれ!柱に足が挟まって・・・‼︎」
玲央は柱を持ち上げようとしたが、びくともしなかった。ジェットコースター全体が乗っかっており、玲央1人の力ではとても不可能なのだ。
「兄貴!」
「龍!」
「消防と救急車が到着した。後はそっちに任せろ。俺たちは爆弾処理班の仕事が終わるまで待機しなきゃならない。」
「・・・分かった。」
※
「何の前触れもなく爆発したってことか?」
「はい。もしかしたら何かしらの音があったのかもしれませんが、賑わっていたので聞こえないと思います。」
「怪しい人間を見たりはしなかったのか?」
「人が多いので、逆に目立たないかと。ただ玲央さん、何か仰っていましたよね。視線を感じたとか・・・。」
「ああ、そういえば言ったね。」
玲央は濡れたタオルで汚れを拭きながら頷いた。
「でも一瞬だったかな。鋭い視線を感じた気がして、振り向いたら消えたって感じ。」
「ストーカーとかじゃないの?」
「まさか。そんなことがあったらさすがに気がつくよ。」
「だがそうなると、犯人の可能性が高いんだがな。」
龍の言葉に、海里は同意を示した。すると、爆弾処理班の1人が頭を下げながら入って来て言った。
「他に爆弾はありませんでした。先程の爆弾は小型ですが威力が強い物でして、出火が酷かったのもそれが原因かと。」
「爆弾はどこに仕掛けてあったの?」
「ジェットコースターの裏です。よく見れば分かりますが、スピードもありますし、人が見るような場所ではありませんから。」
「・・・そうか。もう現場に近づいても?」
「はい。」
海里も立ち上がろうとしたが、龍が押し留めた。
「今日はやめとけ。爆発物はきちんと点検したが、後から仕掛けられたら元も子もない。」
「同意見だね。江本君、悪いけど小夜を送ってくれない?」
「分かりました。じゃあ2人とも、行きましょうか。」
真衣と小夜が頷き立ち上がった時、遊園地の入り口に一台のパトカーが止まった。
「アサヒかな?」
「いや、あいつは今日仕事が溜まっていて現場に赴かないって・・・。」
パトカーの扉が開き、1人の男が現れた。すると、その男を見た途端、玲央と龍は顔色を変えた。
「根岸警視監⁉︎」
ふくよかな体型をし、黒い口髭を生やした男が2人を見た。根岸と呼ばれた男は微笑を浮かべ、2人に近づいてくる。
「大事だな。」
「なぜ・・警視監ともあろう方がこんな所に・・・・?」
「見張り、かな。」
玲央は眉を顰めた。
「どういうことですか?私たちの仕事に不備があったなら謝罪しますが。」
「いやいや。君たちの見張りではないよ。私は・・・・」
根岸の視線が海里の方へ泳いだ。龍はすかさず口を開く。
「今回は帰らせますよ。爆発物が仕掛けられている場所に残して、怪我でもしたら洒落にならない。何より家族と一緒にいます。巻き込めない。」
「いやいや。そんな“もったいない”ことはしないでくれ。私は、小説探偵の実力が本物かどうかを確かめたいのだから。」
鼻につく言い方だった。龍は眉を顰めて言う。
「・・・・つまり、江本に謎を解いてもらいたい、と?」
「そういうことだ。加えて、良い“客人”もいるし、何なら一緒に解いてもらおうか。」
海里は思わず小夜を見た。根岸は頷く。
「お断りします。私は探偵ではない・・謎を解くのが仕事ではありませんから。」
「後のことを気にしているなら、心配無用。他言はしない。」
「そういうわけではなく・・・私は謎を解きたいとは思っていません。」
「しかし大勢の命が奪われたのは事実。一般人1人を危険に晒して、自分だけ安全地に逃げる覚悟がおありかな?」
小夜は唇を噛み締めた。玲央は彼女の前に立つ。
「無理いじりはしないでください。今の彼女は財閥の娘ではなく、ただの一般人です。」
「そうとも。しかしだからこそ、自分の家族が苦しめて来た一般人に協力することが必要ではないか?」
その言葉に海里はムッとし、龍は根岸を睨み、玲央は反射的に口を開いた。
「・・いい加減に・・・!」
「いいのよ、玲央。」
小夜は玲央の肩を掴み、弱々しい笑みを浮かべた。
「江本さんがいる以上、時間はかからないし、私が頭を使う必要はほとんどないわ。それに、危険な目に遭うのは慣れてるから大丈夫。」
「そんなこと・・・!俺は・・・‼︎」
“君を危険な目に遭わせたくない”。その言葉を、玲央はすんでのところで飲み込んだ。深い溜息をつき、分かった、と彼は呟く。
根岸はそれを聞き、満足げに笑った。
「分かってくれて嬉しいよ。私は車から見ているから、気にせず調査をしてくれ給え。」
※
「すみません、小夜さん。巻き込むような形になってしまって・・・。」
「気にしないで。どの道、あの人は捜査に私を加えようとしていたもの。どう足掻いても無駄だったわ。」
「そうですね・・・。でも、東堂さん。あの人・・何なんですか?私だけでなく、小夜さんのことまで嫌っていますよね?」
龍はパトカーを一瞥し、軽い息を吐いた。
「根岸信真警視監は、昔から俺と兄貴が嫌いなのさ。警視総監の息子だから優遇されてるなんていう、面倒な噂を信じているからな。」
「実際は違うんですね?」
「ああ。逆に俺たちに厳しいくらいだ。第一、組織の長たる人間が肉親の情で優遇なんてしていいわけないし、親父はそんな馬鹿なことはしない。寧ろややこしい事件を押し付けて来るくらいだ。」
「そうそう。でも噂を否定するのが面倒臭くて放置してたんだ。こんなことになるとは思わなかったけどね。」
玲央は首をすくめた。海里は苦笑する。
「さっき言った通り、私はほとんど何もしないわ。テロリスト以外の面倒とは関わりたくないの。」
「そうですね。ただ、小説探偵の名と共に素顔も広まっていますから仕方ないのかもしれません。かと言って、警察の方に目の敵にされるのは厄介です。気に入らないにしても、あんな露骨に言わなくてもいいじゃないですか。」
「全くよ。」
2人の気のあった愚痴に玲央と龍は笑ってしまった。
しかし、この事件がそう簡単には終わらないことを、口には出さずとも、心の内で彼らは密かに理解していた。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる