147 / 230
Case146.小さな手の向かう先⑤
しおりを挟む
「ここだ。日英ホテルの前にあるタワーマンションの405号室。監視カメラの映像と合わせて、渋谷一紀・瑠璃の姿が確認できた。」
海里は龍から出されたカメラの映像を確認し、頷いた。時計はまだ朝の10時である。
「20時までホテルとマンションの周囲を見張る。兄貴、頼めるか?」
「了解。江本君、もう謎は解けた?」
「はい。思わぬ話が聞けましたから。」
「それは良かった。じゃあそんな江本君にプレゼント。」
玲央はそう言い、大きな茶色い封筒を渡した。海里はそれを受け取り、中の紙束を出す。
「なぜ信義さんが警察を恨むのか・・・。その理由がある。」
「これは・・・!」
海里は驚いた。玲央は笑って踵を返す。
「じゃあまた夜にね。」
※
日英ホテル。405号室。
「瑠璃ちゃん・・・わたし、いつ家に帰れるの?」
「今日の夜には帰れるよ、紗凪ちゃん。だからもう少しだけ待って。」
瑠璃の言葉に、紗凪は不満そうな顔をした。
「どうして一紀さんはわたしを誘拐したの?こうかく、が原因?」
「・・・・私にも、分からないよ。とにかく、夜までいてね。」
瑠璃が立ち上がると、紗凪は自分の腕にかけられた縄を見た。少し緩くなっており、踠けば外れると直感する。
(お兄ちゃん・・・お父さん・・お母さん・・・。待ってて!絶対に逃げ出して見せるから!)
※
「日英ホテルは、2年前に完成した都内で1番新しいホテルだ。中世ヨーロッパ風の建築が特徴で、子供は大いに喜ぶらしい。」
「中も似たような?」
「ああ。ほら。」
龍に見せられた写真には、確かに王宮のような豪華さがあった。海里は感嘆の息を吐く。
「すごいですね。お金かかっているんじゃないですか?」
「目が眩むような金額だったよ。で、このホテルの建設を依頼したのが坂藤信義なんだ。」
「えっ?では・・なぜ信義さんは何も言わなかったのでしょう。普通、分かるのでは?」
「まあ一理あるが、自分が関わった場所に犯人がいるとは思わないだろ。」
「それもそうかもしれませんね。」
海里と龍はホテル近くのレストランに入って食事をしていた。といっても、それは表向きの理由であり、本当は張り込みであった。
「お前に付き合わせるのも変な話なんだがな。」
「構いませんよ。ずっと坂藤家にいるのも迷惑ですし、家に帰ってもやる事がないので。」
「家・・・。お前、家どこなんだ?妹と一緒に暮らしてるのか?」
「はい。家は警視庁からさほど離れてませんよ?徒歩で30分もかかりませんし。」
その言葉で、龍は大体の住所を特定できた。
「いや、ちょっと待て。まさかお前、富裕層が割と多いって言われるあのビルに住んでるのか?」
「はい。あ、家賃もちゃんと払ってますよ。小説家としてありがたいことに本は売れていますから。」
龍は盛大に溜息をついた。海里は首を傾げる。
「お前、よくアサヒや天宮の家に驚いたな・・・。」
「あまり自覚がないので・・・。高すぎると義父に言ったこともあるんですけどね、きちんとした所に住んだ方がいいと言われまして。」
「なんかお前ってズレてるんだよな。」
海里は苦笑いを浮かべた。その途端、龍のスマートフォンが鳴る。
『渋谷瑠璃が家から出た。追ってくれ。』
「分かった。」
2人はレストランを出ると、瑠璃の視界に入らないように彼女をつけた。彼女は鞄などは持っておらず、身1つでどこかへ向かっていた。
「家に帰るんでしょうか?」
「いや・・・会社の重役の娘が、迎えも無しに1人で帰るとは思えない。個人的な理由での外出だろう。」
やがて、瑠璃は神社に入った。2人は鳥居を見て目を丸くする。
「月山神社って・・・圭介さんの?」
「見つかったら厄介だな。裏に回るぞ。」
瑠璃は神社の中に入ると、境内の裏手へ走った。木陰にいる人物に手を振り、駆け寄る。
「来てくれてありがとう。」
「上手く抜け出せたんだね。紗凪は無事なの?」
「うん。必ず無事に返すよ・・・快斗君。」
(快斗さん⁉︎なぜここに・・・いやそれよりも、なぜ瑠璃さんと一緒に?彼は紗凪さんの交友関係を知らなかったはず・・・!)
「紗凪に罪はない。」
「知ってるよ。でも、そうしなきゃならなかったんだ。」
「・・・・父さんは悪くない。悪いのは“あの女”だろ。」
海里と龍は首を傾げた。
「そんな言い方ないじゃない。快斗君にとっては大切な人だったんだから!」
「大切なんかじゃない!“あの女”は最低だ!」
「快斗君‼︎」
茂みが動く音がした。快斗と瑠璃が驚いて振り向くと、そこには1人の巫女がいた。
「あら、どうしたの?迷った?」
「しっ・・失礼しました!」
2人は逃げるように神社を後にした。海里と龍は2人の後ろ姿を見送り、歩き始めた。
「どう思いますか?あの2人・・・。」
「知り合いだったことは確かだろう。加えて、あの2人は坂藤紗凪が誘拐された理由を知っている。兄の快斗も、犯人を渋谷一紀だと理解している・・・。一体、どういうことなんだ?」
「・・・・この事件、まだ裏がありそうですね。鍵を握っているあの2人から、話を聞ければいいのですが・・・。」
「難しいな。あの2人が知り合いということは、恐らく両親は知らない。いきなりそんな謎を解き始めたところで、意味が分からないと一蹴される。」
そう言いながら、龍はスマートフォンを取り出した。例の如く、アサヒにかけているのだ。
『丁度電話しようと思ってたのよ。声紋が一致して、通話の主は渋谷一紀で間違いないわ。』
「・・・・そうか。」
『また何かあった?』
電話越しの暗い声に何かを感じ取ったのか、アサヒは尋ねた。龍は頷く。
「ああ。あの2人・・坂藤快斗と渋谷瑠璃は知り合いだ。快斗は犯人を知っていて、坂藤紗凪が誘拐された理由を知っているかもしれない。」
『はあ?何それ。』
呆れ口調のアサヒに、龍は冷静に答えた。
「俺も分からない。夜までにできるか?」
『拒否権ないでしょ。』
龍は首をすくめた。電話の向こうでアサヒの溜息が聞こえる。
『やればいいんでしょ。間に合わなくても文句なしね。』
「悪いな、頼む。」
その後、海里と龍は待ち合わせ場所へ向かい、玲央と共に20時まで待機をした。
「何かあれば取り押さえますから、取り敢えず行って下さい。後からついて行きます。」
信義は一紀がいる405号室へ入った。
そしてその直後、悲鳴が聞こえた。
「信義さん⁉︎」
部屋に入った海里たちは、目の前の光景に愕然とした。
部屋の中には、尻餅をつく信義と、血を流して倒れる一紀がいたのだ。
海里は龍から出されたカメラの映像を確認し、頷いた。時計はまだ朝の10時である。
「20時までホテルとマンションの周囲を見張る。兄貴、頼めるか?」
「了解。江本君、もう謎は解けた?」
「はい。思わぬ話が聞けましたから。」
「それは良かった。じゃあそんな江本君にプレゼント。」
玲央はそう言い、大きな茶色い封筒を渡した。海里はそれを受け取り、中の紙束を出す。
「なぜ信義さんが警察を恨むのか・・・。その理由がある。」
「これは・・・!」
海里は驚いた。玲央は笑って踵を返す。
「じゃあまた夜にね。」
※
日英ホテル。405号室。
「瑠璃ちゃん・・・わたし、いつ家に帰れるの?」
「今日の夜には帰れるよ、紗凪ちゃん。だからもう少しだけ待って。」
瑠璃の言葉に、紗凪は不満そうな顔をした。
「どうして一紀さんはわたしを誘拐したの?こうかく、が原因?」
「・・・・私にも、分からないよ。とにかく、夜までいてね。」
瑠璃が立ち上がると、紗凪は自分の腕にかけられた縄を見た。少し緩くなっており、踠けば外れると直感する。
(お兄ちゃん・・・お父さん・・お母さん・・・。待ってて!絶対に逃げ出して見せるから!)
※
「日英ホテルは、2年前に完成した都内で1番新しいホテルだ。中世ヨーロッパ風の建築が特徴で、子供は大いに喜ぶらしい。」
「中も似たような?」
「ああ。ほら。」
龍に見せられた写真には、確かに王宮のような豪華さがあった。海里は感嘆の息を吐く。
「すごいですね。お金かかっているんじゃないですか?」
「目が眩むような金額だったよ。で、このホテルの建設を依頼したのが坂藤信義なんだ。」
「えっ?では・・なぜ信義さんは何も言わなかったのでしょう。普通、分かるのでは?」
「まあ一理あるが、自分が関わった場所に犯人がいるとは思わないだろ。」
「それもそうかもしれませんね。」
海里と龍はホテル近くのレストランに入って食事をしていた。といっても、それは表向きの理由であり、本当は張り込みであった。
「お前に付き合わせるのも変な話なんだがな。」
「構いませんよ。ずっと坂藤家にいるのも迷惑ですし、家に帰ってもやる事がないので。」
「家・・・。お前、家どこなんだ?妹と一緒に暮らしてるのか?」
「はい。家は警視庁からさほど離れてませんよ?徒歩で30分もかかりませんし。」
その言葉で、龍は大体の住所を特定できた。
「いや、ちょっと待て。まさかお前、富裕層が割と多いって言われるあのビルに住んでるのか?」
「はい。あ、家賃もちゃんと払ってますよ。小説家としてありがたいことに本は売れていますから。」
龍は盛大に溜息をついた。海里は首を傾げる。
「お前、よくアサヒや天宮の家に驚いたな・・・。」
「あまり自覚がないので・・・。高すぎると義父に言ったこともあるんですけどね、きちんとした所に住んだ方がいいと言われまして。」
「なんかお前ってズレてるんだよな。」
海里は苦笑いを浮かべた。その途端、龍のスマートフォンが鳴る。
『渋谷瑠璃が家から出た。追ってくれ。』
「分かった。」
2人はレストランを出ると、瑠璃の視界に入らないように彼女をつけた。彼女は鞄などは持っておらず、身1つでどこかへ向かっていた。
「家に帰るんでしょうか?」
「いや・・・会社の重役の娘が、迎えも無しに1人で帰るとは思えない。個人的な理由での外出だろう。」
やがて、瑠璃は神社に入った。2人は鳥居を見て目を丸くする。
「月山神社って・・・圭介さんの?」
「見つかったら厄介だな。裏に回るぞ。」
瑠璃は神社の中に入ると、境内の裏手へ走った。木陰にいる人物に手を振り、駆け寄る。
「来てくれてありがとう。」
「上手く抜け出せたんだね。紗凪は無事なの?」
「うん。必ず無事に返すよ・・・快斗君。」
(快斗さん⁉︎なぜここに・・・いやそれよりも、なぜ瑠璃さんと一緒に?彼は紗凪さんの交友関係を知らなかったはず・・・!)
「紗凪に罪はない。」
「知ってるよ。でも、そうしなきゃならなかったんだ。」
「・・・・父さんは悪くない。悪いのは“あの女”だろ。」
海里と龍は首を傾げた。
「そんな言い方ないじゃない。快斗君にとっては大切な人だったんだから!」
「大切なんかじゃない!“あの女”は最低だ!」
「快斗君‼︎」
茂みが動く音がした。快斗と瑠璃が驚いて振り向くと、そこには1人の巫女がいた。
「あら、どうしたの?迷った?」
「しっ・・失礼しました!」
2人は逃げるように神社を後にした。海里と龍は2人の後ろ姿を見送り、歩き始めた。
「どう思いますか?あの2人・・・。」
「知り合いだったことは確かだろう。加えて、あの2人は坂藤紗凪が誘拐された理由を知っている。兄の快斗も、犯人を渋谷一紀だと理解している・・・。一体、どういうことなんだ?」
「・・・・この事件、まだ裏がありそうですね。鍵を握っているあの2人から、話を聞ければいいのですが・・・。」
「難しいな。あの2人が知り合いということは、恐らく両親は知らない。いきなりそんな謎を解き始めたところで、意味が分からないと一蹴される。」
そう言いながら、龍はスマートフォンを取り出した。例の如く、アサヒにかけているのだ。
『丁度電話しようと思ってたのよ。声紋が一致して、通話の主は渋谷一紀で間違いないわ。』
「・・・・そうか。」
『また何かあった?』
電話越しの暗い声に何かを感じ取ったのか、アサヒは尋ねた。龍は頷く。
「ああ。あの2人・・坂藤快斗と渋谷瑠璃は知り合いだ。快斗は犯人を知っていて、坂藤紗凪が誘拐された理由を知っているかもしれない。」
『はあ?何それ。』
呆れ口調のアサヒに、龍は冷静に答えた。
「俺も分からない。夜までにできるか?」
『拒否権ないでしょ。』
龍は首をすくめた。電話の向こうでアサヒの溜息が聞こえる。
『やればいいんでしょ。間に合わなくても文句なしね。』
「悪いな、頼む。」
その後、海里と龍は待ち合わせ場所へ向かい、玲央と共に20時まで待機をした。
「何かあれば取り押さえますから、取り敢えず行って下さい。後からついて行きます。」
信義は一紀がいる405号室へ入った。
そしてその直後、悲鳴が聞こえた。
「信義さん⁉︎」
部屋に入った海里たちは、目の前の光景に愕然とした。
部屋の中には、尻餅をつく信義と、血を流して倒れる一紀がいたのだ。
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
6人の容疑者
ぷりん
ミステリー
ある古本屋で、一冊の本が盗まれたという噂を耳にした大学生の楠木涼。
その本屋は普段から客が寄り付かずたまに客が来ても当たり前に何も買わずに帰っていくという。
本の値段も安く、盗む価値のないものばかりなはずなのに、何故盗まれたのか。
不思議に思った涼は、その本屋に行ってみようと思い、大学の帰り実際にその本屋に立ち寄ってみることにしたが・・・。
盗まれた一冊の本から始まるミステリーです。
良ければ読んでみてください。
長編になる予定です。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる