小説探偵

夕凪ヨウ

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Case140.進学校に潜む影④

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「どこから見ますか?」
「取り敢えず職員室に行きます。過去のデータがあるかもしれませんので。無許可で見て大丈夫ですかね?」

 大和の質問に、龍は軽く溜息をついた。大丈夫じゃないと言ってもやるのだろう。見かけによらず、行動力があるらしい。

「調査の都合上だとでも報告します。」
「どうも。」

 海里たちは2階へ上がり、廊下の1番奥にある職員室に入った。中はガラスを始めとして資料や用具が散乱している。

「取り敢えず1度片付けよう。このままじゃ無理だ。」
「そうですね・・・。」
                    
            ※

 その頃、圭介とアサヒは警視庁に戻っていた。

「意外とすんなり入れるんだな。」
「一応協力者だからね。感心してないでさっさと来て。」

 アサヒは資料室の扉を開け、いじめの資料を引っ張り出した。その隣にある棚を指差しながら、彼女は言う。

「片っ端から出して。目を通すのは私がやるわ。」
「え?いや俺も・・・・」
「あなたこういう作業得意じゃないんでしょ?無駄な時間はかけたくないわ。」
「へーい。」

 圭介は渋々頷き、棚にある資料を机に置いた。アサヒは置かれた資料をパラパラとめくり、読み終わっては隣の机に積み重ねている。

「あった。これだわ。俊逸高校のいじめ問題の資料。」

 アサヒは資料を凝視した。ぶつぶつ何かを呟きながら資料を読み、紙面に指を滑らした。

「ねえ。さっきあそこにいた竹刀持った教師、名前分かる?」
「確か・・松井だったと思うぜ。松井佑樹。」
「・・・・なるほど。だからか。」
「何が?」

 アサヒは圭介の質問に答えず、資料を渡した。圭介はそれを受け取り、資料に目を通す。やがて、彼はハッとしたように目を見開いた。

「マジかよ・・・。」
「まあ、納得のいく話ね。幸い被害者の実名出てるし、取り敢えずそこに書いてある住所に行きましょうか。」
「いなかったらどうするんだよ?」
「親類縁者を当たればいい。それが警察の捜査よ。さあ、片付けて行きましょう。」
                    
            ※

「はあ・・・やっと終わった。」

 海里たちは職員室の物を一旦片付け終わり、息をついた。龍が自販機で買っていた缶コーヒーを3人に渡し、全員で休憩に入る。
 すると、大和が出席簿を取り出し、海里たちに開いて見せた。

「片付けの最中に見つけました。名前の横にバツ印が付いているでしょう?そういう意味だと思います。」
「大和さんって思ったより大胆ですね・・・。」

 海里が苦笑いを浮かべて言った。大和は続ける。

「こっちだけですよ。本業で大胆は許されない。病院に霊でも出れば別ですが。」

 海里は手渡された名簿を見た。目を通したところ、8人の生徒が自殺している。ずっと欠席している生徒は、自殺未遂だろう。海里は眉を潜めた。

「なぜこんなことに?本当に霊の仕業なんですか?」
「ああ、俺もそれ聞きたかった。そもそも、幽霊って人に危害を加えるの?」

 2人の質問に大和は少し間を開けて答えた。

「・・・・はっきりとは頷けませんね。そもそも、霊は人が来たら存在を隠すんです。だから、さっきのあれは間違いなくポルターガイストなんですが、規模が大き過ぎる。人の力が働いていると考えた方がいい。」
「人の力って何だ?あんたらみたいな除霊師か?」
「いいえ。一般人です。確信はありませんが、人を呪っているかもしれませんね。」
「呪い?」

 大和は頷いた。缶コーヒーを飲み干し、続ける。

「丑の刻祭りはご存知ですか?」
「ええ。確か、藁人形がどうとか・・・・」
「はい。では、偶人が何かは分かりますか?」
「え?人型の人形じゃないの?」

 玲央の言葉に大和は頷いて続けた。

「確かにそうですが、祈祷や呪詛を行う際に、当人に見立てて呪うための物でもあります。藁人形と似たような物です。丑の刻祭りも、その理屈で行われています。」
「この学校が呪われていると?」
「さあ。学校か個人か・・・まだはっきりしませんが、先ほどのガラスはポルターガイスト、これは断言していいかと。ただ、生徒の自殺と自殺未遂は分からない。それと、松井先生の事故も。」

 これには海里たちは首を傾げた。龍が口を開く。

「あれはただの事故だろう?」
「そうでしょうか?玲央さん、確認されていましたよね。車やブレーキに異常が無いと。かと言って、ブレーキの下に何かがあったわけでもない。車が飛び出して来たわけでもない。
 少なくとも俺は、ただの事故とは言えません。・・・まあ、専門家ではありませんから、断言するのもどうかと思いますが。」

 その後、4人は過去の資料を職員室から取り出した。

 調べたところ、過去にはいじめが確かに確認されていた。自殺した生徒の詳しい事情は分からないが、少なくとも、平和な学校でないことは分かった。

 そして作業が終わり、別の部屋に行こうとした時に、龍のスマートフォンが鳴った。アサヒである。

「何か分かったか?」
『ええ。過去に自殺したのは金村命君、当時16歳。夏休み最終日に補習と偽って学校に来て、飛び降りたみたい。鞄の中には遺書が入っていたから、遺族を探して事情を話した上で見せてもらったわ。写真送るわね。』

 龍は送られた写真を見て、一瞬驚き、溜息をついた。

「そういうことか。」
『悪質でしょ?学校側も黙秘するわよね。ついでに蓼沼君に電話したんだけど、他にも嫌になるほど出てきたわよ。ちなみに、怪談は特に無し。』
「そうか。こっちも自殺者と自殺未遂の生徒は特定できた。1回戻って来られるか?」
『すぐ行くわ。待ってて。』

 アサヒと圭介が帰ってくると、彼女は改めて遺書の写真を全員に見せた。海里たちは呆れたように首を振る。

「蓼沼君が聞いただけでも被害者が多過ぎる。問い詰めて話してくれるかなあ。あの人。」
「やらなくても強制連行だ。証拠はあるし、逮捕状取るぞ。」
「待ってください。」

 声を上げたのは大和だった。海里たちは不思議そうに彼を見る。

「犯人を捕まえる分には構いません。しかし、まだ問題は残っています。この学校に住み着く霊を除霊し、偶人の回収をしなければならない。」
「えっ?しかし先程は・・・・」
「はい。確定できませんでした。しかし、事件に繋がりがあった。そうだな?圭介。」
「おう。」
「どういうこと?」

 圭介は腕を組み、ゆっくりと口を開いた。

「・・・俺さ、気になってたんだよ。何で蓼沼が、あの松井って教師を嫌うのか。まあそりゃ、単純に鬱陶しいってのもあるんだろうけど、それだけじゃ説明できない気がしたんだ。そんで、西園寺に協力してもらった結果、こんな情報が出て来た。」

 そう言いながら、圭介は紙の束を海里に渡した。龍たちも横から覗き込み、ハッとする。

「十分な理由だろ?過去も、今も、全て繋がっている。だからこそ、あんな派手なことが起こったし、色んな事件が起こった。
 これは、“学校”という大きな存在に対しての憎悪から来る事件なんだよ。」

 圭介の言葉は的を射ていた。渡された“それ”を見れば、自ずと全てが明らかになる。

「大和さん。偶人の回収はいつ終わりますか?お手伝いしますよ。」
「今すぐ始めれば、夜までには終わるはずです。ですから明日、全てを解き明かしてくれませんか?江本さん。」

 大和の問いに海里はにっこりと笑い、言った。

「もちろんです。それが私の役目ですから。」
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