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Case137.進学校に潜む影①
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「ああ、問題ない。心配せずとも・・・ちゃんと来るように伝えたよ。」
『そう。助かるわ。』
電話越しの女性は笑った。大和は続ける。
「それにしても・・・お前の上司も大した策士だな、アサヒ。」
アサヒはその言葉に苦笑し、言った。
『うちの上司はタチ悪いもの。とにかく・・・江本さんが真実を知れば、こちらも大きく状況が変わる。』
大和は苦笑した。アサヒは続ける。
『あなたの義弟も大変よね。ご大層な秘密抱えて、14年?ずっと江本さんを探していたんでしょう?』
「そうらしい。まあ、俺は深く干渉しないから、そっちで勝手にやってくれ。」
そこまで言うと、大和は静かに通話を終えた。溜息をつき、病院の奥へゆっくりと歩いて行った。
※
「へえ。じゃあ、リハビリも順調なんだ。」
「はい。舌を巻く回復力ですよ。昔から病気はしない子でしたが、これは予想外です。」
真衣が目覚めた1週間後、海里は龍、玲央と共に都内の高校に向かっていた。
「それにしても・・・だ。今回の事件、俺たちが出るべきなのか?校長の話だと、生徒たちが集団で食中毒になったり、頻繁に怪我をするから何か事件に巻き込まれているのかもってことだが・・・・」
「確かに曖昧な話ですよね。怪我は本人の不注意やいじめの可能性もありますから早めに関わっていいのか分かりませんし、食中毒に関しても、何かが偶然混入したという話だったでしょう?」
「うん。何か・・妙なんだよね。何て言うか・・・・無理に事件に結びつけているみたいな。」
そんな話をしているうちに、例の高校へ到着した。名前は、都立俊逸高校。都内でも有名な進学校で、偏差値も高い。そんな高校では、最近妙な事件が多いと言うのだ。
「あ・・・警察の方ですか?」
「はい。二之宮校長ですね?今回は学校内の妙な事件を解決して欲しいとのことでしたが、具体的にお聞かせ願えますか?」
「はい・・・。」
二之宮校長は、額に滲んだ汗を拭きながら、ゆっくりと話を始めた。
「妙な事件が始まったのは、今から数ヶ月前・・・梅雨の終わり頃だと思います。
初めに起こったのが、生徒・職員を含む集団食中毒事件。昼食を食べた多数の生徒・職員が腹痛を訴え、救急車を呼ぶまでに至りました。
次に、生徒の連続自殺及び自殺未遂事件。何の前触れもなく屋上から飛び降りたり、カッターナイフなどで手首を切ろうとする生徒が多数現れました。学年関係なく、です。
最後が、職員が多数怪我をすることです。初めは偶然かと思いましたが、徐々に骨折や骨を痛めるなどの重症者が増え、ついには交通事故まで・・・・」
「交通事故・・ですか?」
龍の質問に、校長は頷いた。
「1年生の教師団の1人が、学校からの帰宅途中に交通事故に遭ったんです。幸い命に別状はありませんでしたが、数日入院を。」
「・・・・その先生は今仕事に?」
「ええ。昨日から。」
龍はちらりと海里を見た。海里は曖昧な笑みを浮かべ、言う。
「失礼ですが・・・今の話を聞く限り、人為的なものとは考えにくいのではありませんか?生徒の自殺及び自殺未遂に関しては、何かしら悩むところがあったのかもしれませんし、先生方の怪我も偶然の可能性が高いと思われますが。」
「そうかもしれませんが・・・この学校には、生徒たちの悩みの種になるような問題児がおりまして。」
「その問題児が、一連の事件を引き起こしていると?」
「お恥ずかしながら。」
海里たちは揃って首を傾げた。ここまで要領を得ない話などあっただろうか。玲央は少し考えた後、
「その生徒に会わせて頂けませんか?どこにいます?」
「多分・・・屋上に。」
校長の案内のもと、3人は屋上に行った。鍵は壊されており、中に入ると、屋上に寝そべる1人の少年がいた。
「蓼沼庄司さんですか?」
「・・・・何だ?あんたら。」
寝癖のついた髪と褐色の肌がよく目立つ少年は海里たちを睨んだ。海里はにっこりと笑って口を開く。
「こちらのお2人は警察です。私はまあ・・・協力者とでもお考えください。あなたにお話があったので、校長先生に案内して頂きました。」
蓼沼は校長を一瞥すると、軽い溜息をついて起き上がった。
「どうせ一連の事件の犯人は俺、とでも言いたいんだろ?言っとくけど違うからな。」
「そうだろうね。安心してよ。俺たちは別に話を鵜呑みにして来たわけじゃなくて、君から話を聞きたかっただけだから。ほら、教師より生徒の方が、詳しく知っていると思ってさ。」
玲央の発言に、蓼沼は明らかに嫌そうな顔をした。龍は横で呆れ笑顔を浮かべている。
「事件は大まかに3件だ。校長先生から話を伺ったけど、君のような生徒目線の話も聞きたい。知っていることだけで構わないから、詳しく話してくれ。分かるなら理由も。」
蓼沼は髪を掻きながらゆっくりと思い出すように話し始めた。
「・・・・理由は知らねえけど、始まりは梅雨の終わり頃。7月末・・丁度夏休みが始まった頃に、学校で生徒が行方不明になった。これが本当の始まりだ。」
「行方不明?」
玲央が思わず反問した。蓼沼は頷く。
「ああ。肝試しをしていて、行方が分からなくなって・・・って奴さ。まあ、翌日校庭にある古い倉庫で無事発見されたんだけど・・・それが妙な話だった。
事務員の話だと、その倉庫は古くて使わないから、物置と化して長年開けていなかったらしい。加えて、教師が開けた時、鍵を開けた様子はなかった。壁や天井に穴が開いているわけでもなく、地面を掘った形跡もない。暗闇だったから無意識のうちに開けたんだろうって話になったけど、多分違うだろうな。」
「開くはずのない倉庫に入っていた生徒、ですか。その生徒は倉庫に入った時のことを何か覚えていなかったんですか?」
「肝試しのこと自体綺麗さっぱり忘れてたよ。不思議に思った家族が医者に診せたけど、異常無しだったらしい。」
海里は驚き、思わず龍の方を見た。
「・・・・東堂さん、これは・・・」
龍は深い溜息をついた。授業のチャイムが鳴り、時計を見ると昼の1時である。
「その開かずの倉庫に案内してくれ。」
「へいへい。」
3人は1度校長を戻らせ、蓼沼と共に倉庫に行った。道中、玲央は彼に尋ねる。
「蓼沼君。君、成績良いのにどうして授業出ないの?」
「・・・・俺が成績良く見えるかよ。」
ぶっきらぼうな言い方だったが、その言葉の中には驚きが含まれていた。玲央は続ける。
「実に分かりやすい話し方だったよ。そもそも、本当に不良なら真剣に俺たちの話なんて聞かないでしょ。そういう子供もよく見て来たよ。」
「お見通しってわけか。まあ授業に出ないのは、単に面倒だからだ。聞かなくても分かるし、この学校は点さえ取っときゃ良いのさ。」
皮肉を含んだ笑みに、玲央は曖昧な返事をした。
「着いたぞ。これが開かずの倉庫。」
海里は倉庫に到着するなり、躊躇うことなく扉を開けた。以前の一件で、鍵がかかっていないらしい。
「天井低いな。俺たちじゃ無理だ。何かあるか?」
「特に何もありませんね。本当にただの物置です。穴などは見当たりませんし、人1人が出入りするには入口しかないと思いますよ。」
「振り出しに戻るのか。蓼沼、確かその事件の後に食中毒・・・だな?」
「ああ。俺は購買で買ったパン食ったけど、異常はなし。つーか・・・食中毒になったのは弁当食べてた生徒・職員だけだぜ?」
「お弁当だけ?何それ。余計に変じゃないか。」
「俺も分かんねえよ。何かおかしいとは思ったけど、俺は警察でもねえし。」
そう言いながら、蓼沼は頭を掻いた。海里は更に分からないという風に唸る。
「気になるのは食中毒の件ですね。他2件は偶然の一致か学校内部の・・・・」
「おい、蓼沼!何してやがる!」
怒鳴り声のした方を見ると、大柄な男がやって来た。ジャージ姿で、古びた竹刀を持っていた。蓼沼は軽く舌打ちをし、口を開いた。
「松井佑樹。1年の学年主任。学校帰りに事故った奴。」
「ああ・・・あの・・・・」
「ん?あんたら警察か?」
挨拶もなしに質問をする松井に海里はムッとしたが、龍は気にせず頷いた。
「はい。」
「だったら蓼沼、逮捕してくれよ。そいつが俺を殺そうとしたんだからよ。」
「え・・・?」
『そう。助かるわ。』
電話越しの女性は笑った。大和は続ける。
「それにしても・・・お前の上司も大した策士だな、アサヒ。」
アサヒはその言葉に苦笑し、言った。
『うちの上司はタチ悪いもの。とにかく・・・江本さんが真実を知れば、こちらも大きく状況が変わる。』
大和は苦笑した。アサヒは続ける。
『あなたの義弟も大変よね。ご大層な秘密抱えて、14年?ずっと江本さんを探していたんでしょう?』
「そうらしい。まあ、俺は深く干渉しないから、そっちで勝手にやってくれ。」
そこまで言うと、大和は静かに通話を終えた。溜息をつき、病院の奥へゆっくりと歩いて行った。
※
「へえ。じゃあ、リハビリも順調なんだ。」
「はい。舌を巻く回復力ですよ。昔から病気はしない子でしたが、これは予想外です。」
真衣が目覚めた1週間後、海里は龍、玲央と共に都内の高校に向かっていた。
「それにしても・・・だ。今回の事件、俺たちが出るべきなのか?校長の話だと、生徒たちが集団で食中毒になったり、頻繁に怪我をするから何か事件に巻き込まれているのかもってことだが・・・・」
「確かに曖昧な話ですよね。怪我は本人の不注意やいじめの可能性もありますから早めに関わっていいのか分かりませんし、食中毒に関しても、何かが偶然混入したという話だったでしょう?」
「うん。何か・・妙なんだよね。何て言うか・・・・無理に事件に結びつけているみたいな。」
そんな話をしているうちに、例の高校へ到着した。名前は、都立俊逸高校。都内でも有名な進学校で、偏差値も高い。そんな高校では、最近妙な事件が多いと言うのだ。
「あ・・・警察の方ですか?」
「はい。二之宮校長ですね?今回は学校内の妙な事件を解決して欲しいとのことでしたが、具体的にお聞かせ願えますか?」
「はい・・・。」
二之宮校長は、額に滲んだ汗を拭きながら、ゆっくりと話を始めた。
「妙な事件が始まったのは、今から数ヶ月前・・・梅雨の終わり頃だと思います。
初めに起こったのが、生徒・職員を含む集団食中毒事件。昼食を食べた多数の生徒・職員が腹痛を訴え、救急車を呼ぶまでに至りました。
次に、生徒の連続自殺及び自殺未遂事件。何の前触れもなく屋上から飛び降りたり、カッターナイフなどで手首を切ろうとする生徒が多数現れました。学年関係なく、です。
最後が、職員が多数怪我をすることです。初めは偶然かと思いましたが、徐々に骨折や骨を痛めるなどの重症者が増え、ついには交通事故まで・・・・」
「交通事故・・ですか?」
龍の質問に、校長は頷いた。
「1年生の教師団の1人が、学校からの帰宅途中に交通事故に遭ったんです。幸い命に別状はありませんでしたが、数日入院を。」
「・・・・その先生は今仕事に?」
「ええ。昨日から。」
龍はちらりと海里を見た。海里は曖昧な笑みを浮かべ、言う。
「失礼ですが・・・今の話を聞く限り、人為的なものとは考えにくいのではありませんか?生徒の自殺及び自殺未遂に関しては、何かしら悩むところがあったのかもしれませんし、先生方の怪我も偶然の可能性が高いと思われますが。」
「そうかもしれませんが・・・この学校には、生徒たちの悩みの種になるような問題児がおりまして。」
「その問題児が、一連の事件を引き起こしていると?」
「お恥ずかしながら。」
海里たちは揃って首を傾げた。ここまで要領を得ない話などあっただろうか。玲央は少し考えた後、
「その生徒に会わせて頂けませんか?どこにいます?」
「多分・・・屋上に。」
校長の案内のもと、3人は屋上に行った。鍵は壊されており、中に入ると、屋上に寝そべる1人の少年がいた。
「蓼沼庄司さんですか?」
「・・・・何だ?あんたら。」
寝癖のついた髪と褐色の肌がよく目立つ少年は海里たちを睨んだ。海里はにっこりと笑って口を開く。
「こちらのお2人は警察です。私はまあ・・・協力者とでもお考えください。あなたにお話があったので、校長先生に案内して頂きました。」
蓼沼は校長を一瞥すると、軽い溜息をついて起き上がった。
「どうせ一連の事件の犯人は俺、とでも言いたいんだろ?言っとくけど違うからな。」
「そうだろうね。安心してよ。俺たちは別に話を鵜呑みにして来たわけじゃなくて、君から話を聞きたかっただけだから。ほら、教師より生徒の方が、詳しく知っていると思ってさ。」
玲央の発言に、蓼沼は明らかに嫌そうな顔をした。龍は横で呆れ笑顔を浮かべている。
「事件は大まかに3件だ。校長先生から話を伺ったけど、君のような生徒目線の話も聞きたい。知っていることだけで構わないから、詳しく話してくれ。分かるなら理由も。」
蓼沼は髪を掻きながらゆっくりと思い出すように話し始めた。
「・・・・理由は知らねえけど、始まりは梅雨の終わり頃。7月末・・丁度夏休みが始まった頃に、学校で生徒が行方不明になった。これが本当の始まりだ。」
「行方不明?」
玲央が思わず反問した。蓼沼は頷く。
「ああ。肝試しをしていて、行方が分からなくなって・・・って奴さ。まあ、翌日校庭にある古い倉庫で無事発見されたんだけど・・・それが妙な話だった。
事務員の話だと、その倉庫は古くて使わないから、物置と化して長年開けていなかったらしい。加えて、教師が開けた時、鍵を開けた様子はなかった。壁や天井に穴が開いているわけでもなく、地面を掘った形跡もない。暗闇だったから無意識のうちに開けたんだろうって話になったけど、多分違うだろうな。」
「開くはずのない倉庫に入っていた生徒、ですか。その生徒は倉庫に入った時のことを何か覚えていなかったんですか?」
「肝試しのこと自体綺麗さっぱり忘れてたよ。不思議に思った家族が医者に診せたけど、異常無しだったらしい。」
海里は驚き、思わず龍の方を見た。
「・・・・東堂さん、これは・・・」
龍は深い溜息をついた。授業のチャイムが鳴り、時計を見ると昼の1時である。
「その開かずの倉庫に案内してくれ。」
「へいへい。」
3人は1度校長を戻らせ、蓼沼と共に倉庫に行った。道中、玲央は彼に尋ねる。
「蓼沼君。君、成績良いのにどうして授業出ないの?」
「・・・・俺が成績良く見えるかよ。」
ぶっきらぼうな言い方だったが、その言葉の中には驚きが含まれていた。玲央は続ける。
「実に分かりやすい話し方だったよ。そもそも、本当に不良なら真剣に俺たちの話なんて聞かないでしょ。そういう子供もよく見て来たよ。」
「お見通しってわけか。まあ授業に出ないのは、単に面倒だからだ。聞かなくても分かるし、この学校は点さえ取っときゃ良いのさ。」
皮肉を含んだ笑みに、玲央は曖昧な返事をした。
「着いたぞ。これが開かずの倉庫。」
海里は倉庫に到着するなり、躊躇うことなく扉を開けた。以前の一件で、鍵がかかっていないらしい。
「天井低いな。俺たちじゃ無理だ。何かあるか?」
「特に何もありませんね。本当にただの物置です。穴などは見当たりませんし、人1人が出入りするには入口しかないと思いますよ。」
「振り出しに戻るのか。蓼沼、確かその事件の後に食中毒・・・だな?」
「ああ。俺は購買で買ったパン食ったけど、異常はなし。つーか・・・食中毒になったのは弁当食べてた生徒・職員だけだぜ?」
「お弁当だけ?何それ。余計に変じゃないか。」
「俺も分かんねえよ。何かおかしいとは思ったけど、俺は警察でもねえし。」
そう言いながら、蓼沼は頭を掻いた。海里は更に分からないという風に唸る。
「気になるのは食中毒の件ですね。他2件は偶然の一致か学校内部の・・・・」
「おい、蓼沼!何してやがる!」
怒鳴り声のした方を見ると、大柄な男がやって来た。ジャージ姿で、古びた竹刀を持っていた。蓼沼は軽く舌打ちをし、口を開いた。
「松井佑樹。1年の学年主任。学校帰りに事故った奴。」
「ああ・・・あの・・・・」
「ん?あんたら警察か?」
挨拶もなしに質問をする松井に海里はムッとしたが、龍は気にせず頷いた。
「はい。」
「だったら蓼沼、逮捕してくれよ。そいつが俺を殺そうとしたんだからよ。」
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