小説探偵

夕凪ヨウ

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Case124.天才女医の正体②

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「あなたたちの探偵を呼んでくれる?」
「何だって⁉︎」

(江本君のことに違いない!彼女・・・一体目的は何なんだ⁉︎)

「そんなに警戒しなくても・・・探偵の腕前を見たいだけだよ。警察さんが信頼置いているんだし、頭脳に間違いはないんでしょ?」

 龍と玲央は顔を見合わせ、訝しげな目で女医を見た。彼女は不敵な笑みを崩さず2人を真っ直ぐ見つめている。その笑顔や態度に何か覚えがあると不思議に思いながら、龍が口を開いた。

「・・・・無理です。今あいつは事情があって表舞台には立てない。関わらせるわけにはいきません。」
「だろうねえ。知ってるよ。天宮家の一件でマスコミが騒いでいるってこと。」
「は・・・?」

 2人は言葉を失った。女医は続ける。

「同僚に匿ってもらうなんて仲が良くて何より、何より。」
「なっ・・・何でそんなこと・・‼︎」
「何でだと思う?」

 女医は顔に暗い影を落とした。玲央は諦めたように息を吐く。

「あなたがご自分のことを話したくないのは分かりました。なぜこちらの事情をご存知なのかは敢えて聞きませんが・・・これ以上踏み込まないでください。2人を危険に巻き込まないためにも・・・!」
「優しいねえ。まっ、それくらいなら聞いてあげるよ。・・・解剖、続けようか。」
                    
            ※

「江本様、天宮様。昼食のご用意ができましたよ。」
「様はやめてください。私たちの我儘をアサヒさんが聞いてくださっただけなんですから。」
「それでもお嬢様のご友人ですから。」

 海里は眉を潜めた。軽く拳を握り、意を決したように顔を上げる。

「アサヒさんは、何者なんですか?私は彼女と出会ってから日が浅いのでよく分かりませんが、東堂さんたちでさえこの家を驚いていた。彼女は、何を隠して・・・?」
「・・・・私たちの口からはお答えできません。お嬢様がお話になるその時に、全てが分かると思います。」

 使用人たちはそう言って一礼し、部屋を出て行った。海里は息を吐き、椅子に座る。小夜は、海里の横で何かを考えていた。

「どうされたんですか?」
「いいえ、何でも。いただきましょう。」
「そうですね。」

(この豪邸・・・彼女の苗字である西園寺・・・・気のせい?でも、それにしてはできすぎている。もしかしたら、彼女は本当にーーー・・・・かもしれない。だとしたら、どうして警察官になったのかしら・・・・)
                    
            ※

「やっぱり・・・心臓麻痺を起こしている。彼女の死因は窒息じゃない。トリカブトによる毒だったんだ。」
「そうだねえ。問題は、これが自殺か他殺かってことだ。」

 女医はマスクを外し、笑った。

「鑑識に報告聞ける?そしたら何か分かるかも。」
「やってみます。」

 龍はスマートフォンを取り出し、アサヒに電話をかけた。

「スマートフォンに付いていた指紋と血痕の鑑識結果は出たか?」
『ええ。指紋は綾小路のものだけど、血痕は彼女のものじゃない。彼女はA型、鑑定結果の血液はAB型のものだったから。』
「そうか。助かった。」
『どうも。で?そっちは何か分かったの?』
「ああ。綾小路リリカの死因は窒息死じゃない。トリカブトによる毒だった。胃液の中から、トリカブトの毒が検出されたんだよ。解剖の結果、心臓麻痺を起こして亡くなったことが分かった。」
『珍しい死因ね。トリカブトだなんて・・・簡単に手に入るかしら?』
「分からない。これから調べる。」

 電話を切った龍は、玲央と女医に鑑識結果を伝えた。玲央は顎に手を当て、部下に言った。

「綾小路リリカの身辺を洗う。彼女のマネージャー・・筒井さんの血液型は?」
「AB型です。しかし、綾小路の同僚やライバルにもAB型がいます。」
「・・・・聞き取り調査が必要だね。全員に連絡を取ってここへ。」
「ここですか?警視庁ではなく?」
「今無闇にあそこへはいけないからね。さあ、急ぐよ。」

 本格的な調査が開始された。初めに呼ばれたのは、やはりマネージャーの筒井だった。

「毒・・⁉︎」
「ええ。これは解剖による事実です。彼女は窒息死ではなく、毒を煽って亡くなった。だからこそ、いかにも首吊りに見せかけたやり方に矛盾が生じるんです。」
「私が彼女を殺したというんですか⁉︎私は彼女のマネージャーですよ⁉︎」
「立場なんて関係ありませんよ。犯罪を起こせば皆等しく犯人になります。それに筒井さんだけを疑っているわけではありませんので、ご安心を。」

 筒井はどこか苛ついたように溜息をついた。彼は机の上で手を組み、口を開く。

「リリカは今日午前8時から仕事が入っていました。ホテルに泊まっていたのは、遠方でのロケだったからです。私は後から現場に行く予定で、彼女には先に行っているよう伝えてありました。しかし、8時過ぎに現場の監督から電話がかかってきて・・・」
「彼女が来ていないと連絡を受けた?」
「はい。意味が分からないと思い、彼女に電話をかけました。道に迷っているはずはありませんから、取り敢えずホテルに向かおうとしたんです。そしてその時、警察から“彼女が死んだ”、と・・・・」

 龍はメモを取りながら軽く頷き、顔を上げた。

「なぜ綾小路さんより後に現場に行く予定が?マネージャーなのですから、ホテルに同行しているべきではありませんか?」
「そうですね・・・。予定というより、彼女がスタジオに忘れ物をしたから取ってきて欲しいと言われたんです。スタジオに戻っていては時間がないから、先に行ってくれ・・と。」
「それを証明する人間はいますか?」
「メイクの浅村という女性が証明できます。」
「では・・彼女をここへ呼んでください。あなたの証言と合うか調べますので。」

 筒井の呼びかけでメイクの浅村がやって来た。彼女は慌てて来たのか息が切れており、被っている帽子が少しずれていた。玲央は彼女に椅子を進め、笑った。

「どうも。浅村志穂です。」
「こんにちは。あなたの事件当時の様子を伺いたくお呼びしました。出来るだけ詳しくお話し願えますか?」

 玲央の言葉に浅村は頷き、口を開いた。

「はい。私は午前6時にリリカさんが止まっているホテルを訪れ、メイクをしました。その後は少しの間談笑していて・・メイクが終わった10分後・・・6時半くらいだったと思います。その時にリリカさんがネックレスをスタジオに忘れたことに気づかれて、同時刻に筒井さんがいらっしゃったんです。リリカさんは筒井さんにネックレスを取りに行くよう頼んで、彼はスタジオに戻りました。」
「あなたはその後、何を?」
「仕事は一旦終わったので、朝食を買うためコンビニへ行きました。少し遠いコンビニだったので時間がかかって・・・そうこうしているうちに、筒井さんからリリカさんが亡くなったという電話を受けました。」

 話を聞いている横で部下の1人がパソコンを弄り、龍に地図を見せていた。確かに、ホテルから車で30分ほどの所にコンビニがある。

「あなたのアリバイ証明はコンビニの監視カメラで分かるでしょう。しかし、仮にも女優が1人で現場に向かおうとするのはやはり納得がいきません。あなたが朝食を買いに行った後、リリカさん以外に彼女の部屋に行った人物はいますか?」
「衣装担当の狭間さんが行きました。彼はリリカさんのデビュー当時から一緒にいる筒井さんと同じ古株で、常に彼女と共にいます。」
「では彼をここへ。今のところ、被害者の部屋に入った最後の人物は狭間さんのようですから。」

 一瞬、浅村の顔が強張った。2人は怪訝な顔をする。

「狭間さんは犯人じゃありません。だってあの人は・・・リリカさんの幼馴染みなんです。子供の頃からずっと・・だから、違います。」
「幼馴染みだから・・それは疑わない理由にはなりません。話を聞いた上でこちらも判断します。」
「・・・・分かりました。」

 浅村が出て行くと、玲央は顎に手を当てて考える姿勢になった。

(何だろう?何か引っかかる・・・この事件の違和感は、一体何なんだ?)
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