小説探偵

夕凪ヨウ

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Case108.仮想世界の頭脳対決④

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「で?誰なの、あのチャラ男。」
「俺もよく知らないが・・・本人曰く除霊師。」

 龍の言葉を聞いて、アサヒは記憶を辿るように腕を組んだ。

「除霊・・?ああ、月山神社ね。そういうこともやってるって聞いたことあるわ。でもあの男、それが本業じゃないでしょ。このご時世、何もかも幽霊の仕業でしたって言って終わることなんてないじゃない。」
「流石に現実的だな。」
「そりゃそうよ。警察官として幽霊の存在を認知できるわけないじゃない。」

 龍は最前列に視線を移した。圭介は、とても緊張や恐怖など感じられず、普通に海里と話をしていた。

「いや~びっくりしたぜ。呼ばれた場所に行ったら眠らされて、仮想世界がどーのこーのって言われて・・・挙げ句の果てにお前がいるんだから。」
「私も驚きましたよ。声をかけてくだされば良かったのに。」
「中々暇が無かったからな。それにしても、犯人はこんなことして楽しんで、よっぽど時間があるんだなあ。」

 海里は苦笑した。

「楽観的ですね。これは死の恐怖を植え付けるためのゲームです。恐怖はないのですか?私は探偵を始めて色々見てきましたが、恐怖がないといえば嘘になる。」
「んー・・・別に?俺は生死とか深く考えてねえし・・・。」
「え?」

 海里は思わず怪訝な顔をした。圭介は片手を振りながら慌てて続ける。

「ああ、違う違う。別に自殺したいとかじゃなくて、“生”に対する執着が薄いっていうか・・・。普段から霊に触れてるせいかな。理不尽に奪われた命と自分の命って、どう違うんだろうって考えるんだ。そしたら、何も違わなくてさ。だったら、俺にも死ぬ権利はあるじゃん?」
「・・・生きる権利と死ぬ権利は同等だと?」
「そんな感じ。まあ・・・多分それだけじゃないんだろうけど。」

 圭介の顔に影がかかった。ほのかに光るゲームの明かりが、彼の顔を儚く照らしている。しかし、彼は何らかの不安を払拭するためか、明るい声で続けた。

「それより、あの犯人男だよな。喉仏とかあったし、声も低いし。ただ手にシワがよってるとかじゃ無かったから、2、30代だろうなあ。あーでも、アバターなら実年齢より若いとかあるか・・・。」

 圭介の言葉に海里は息を呑んだ。

「・・・・見えたんですか?犯人の首や手が。」
「確かに見えにくかったけど、見えたぜ。」

 その言葉に、隣にいる玲央も驚いていた。海里も龍たちも、決して目が悪いわけではないが、犯人はわずかに姿が見えただけで、細かい部分までは全く見えなかったのだ。

「目がいいんですね。」
「んーまあな。」

(いや・・・目がいいで済む話じゃないだろ。江本君は軽く流してるけど・・・喉仏?手のシワ?誰もが犯人の仮面と言葉に気を取られている中、彼は1人犯人の特徴を見てたっていうのか?そんな芸当・・・・できるわけがない。この男、本当にただの除霊師か?)

「どのみち、ここじゃ謎解き無理じゃね?外で解いてもらうしかねえよ。」
「外って言っても・・・誰を?」
「さあ。俺は知らねえけど、1人くらいいるだろ。お前と同等の頭がいいバケモン。」

 海里は一瞬小夜を思い浮かべたが、顔に出さないよう笑って言った。

「心当たりがないわけではありませんけど、何せ連絡が取れませんから。」
「だよなあ。」

 談笑する海里に対して、玲央は完全に圭介を警戒していた。視力の件といい、さっきの剣捌きといい、とても一般人ではない。

「そんなに警戒しないでくれよ、玲央さん・・だっけ?怪しいもんじゃねえから。」
「だいぶ無理がある話だよ。ご両親って本当に神社の神主?」
「本当、本当。」

 玲央が怪訝な顔をしていると、海里がふと前を見た。

「あ・・・何かありますよ。“暗号を解読しろ”・・?」
「こんなんばっかりだね。」

 仕方なくアサヒを呼ぶと、彼女はいかにも面倒くさいという顔をした。

「君、飽きて来てるだろ。」
「初めっから楽しんでないからね。全く・・・」

 その時だった。暗号を見た瞬間、アサヒの顔色が変わったのだ。彼女は薄い笑みを浮かべ、目の前にある扉を見つめている。

「なるほどね・・・。やり方、変えてきたか。」
「アサヒ?」
「・・・・ちょっと離れて待ってて。時間かかりそうだし、爆弾とか仕掛けてあったら困るから。」
「・・・うん、分かった。」

 アサヒはまた後でと言いながら扉を開け、中に入って行った。
 中は防音になっており、扉を閉めると同時に、鍵がかかった。上を見上げると、巨大なタイマーがある。15分と表示されており、目の前には数台のパソコンが置いてある。

「ベタね~。停止できないように作られた爆弾、解除できるわけないじゃない。爆発物処理班とかだったら、難なくできたのかしら。」

 溜息をつきながら椅子に腰掛け、キーボードを叩いた。すると、タイマーが動き出し、タイムリミットまでの時間を計り出した。

「なるほど・・・爆弾は解除できないけど、威力を弱めることはできる。できなければ、全員かもしくはほとんどがゲームオーバー・・・・。今前方には江本さんも玲央もいるし、退場してどうなるのか分からない以上、死なれるのは大いに困るわね。・・・仕方ない、やるか。」
                    
            ※

「行かせて良かったのか?」

 龍の問いに、玲央は苦笑した。仕方ないと思っているのだ。

「俺たちはそれらの専門家じゃないからね。」
「あいつも違うだろ。」
「うん。でも、彼女が決めたことだから、否定しない。他人の意見を真っ向から否定するほど、俺も偉くないしね。」
「・・・本当、似てるな。親父に。」
「嫌なとこばかり似ちゃったよ。」

 玲央は目を細めて扉を見た。龍が首を傾げると、彼は呟く。

「アサヒはさ・・・いつも自分の本心を見せないよね。捜査一課時代からそうだったけど、今考えると、俺たちって彼女のことを何も知らない。家族のことすら。」
「別に無理して知らなくてもいいだろ。あいつか嫌だと言うなら、俺は必要以上に干渉しない。」
「そうなんだけど・・・偶に寂しくなるんだ。5年前も、捜査一課から出て行って鑑識課になったけど、何も語らなかった。」
「あれか・・・。背負う必要ないって説得したけど意志は固かったし、色々思うところがあったのも事実だからな。納得しきれないことがあると言えばあるが、今更どうにもならないだろ。」

 2人が話している横で、海里も扉を見ていた。心配そうな海里を見て、圭介は尋ねる。

「心配か?」
「はい。そんなに付き合いが長いわけではないのですが、東堂さんたちにとって大切な人なので。無事でいて欲しい・・・とは思います。」
「優しいねえ。生憎、俺は他人の他人なんて心配していられねえよ。」

 その時だった。警報音のような激しい音が、部屋の中に鳴り響いた。龍と玲央はハッとし、扉を叩く。

「おい、何かあったのか⁉︎アサヒ‼︎返事をしろ‼︎」

 中にいるアサヒは2人の声を聞きながら笑っていた。タイマーを見ると、残り1分もない。鍵はかかっており、壊すことも、助けを求めることもできない。
 アサヒは全て分かっていたのだ。分かった上で、この部屋に入った。

「まあ、爆発の威力はどうにかなるでしょ。私なりに頑張ったってことにしとこっと。」

 アサヒは息を吐きながら背もたれにもたれかかった。どの道、彼女は自分たち4人が1人も欠けずに進めるなど思っていないのだ。誰か1人は必ず犠牲になる。
 これは、“そういうゲーム”だから。

「現実世界に戻ったら色々上に連絡しなきゃ。面倒くさいわね~。」

(ゲームオーバーになりたかったわけじゃない。でも、1人が欠けなければここから先は進めない。だとしたら・・・欠けるに相応しいのは私でしょ?あなたたちだって分かってたくせに、口に出さないなんて・・・・相変わらず甘い男。)

 あと3秒だった。アサヒはやれやれと首を振り、天井を見上げた。

 凄まじい爆発音が、部屋の中に響き渡った。
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