小説探偵

夕凪ヨウ

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Case105.仮想世界の頭脳対決①

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 目が潰れるような光を浴びて、私たちは思わず目を瞑った。やがて光が失わるような感覚に陥った後、私たちはゆっくりと目を開けた。そこには、

「何ですか?これ・・・・」

 巨大な空間が広がっていた。周囲にある景色はどこか偽物じみていて、気分が悪い。すると、私たちの目の前にある巨大なスクリーンが明るくなり、1人の男が映し出された。

「Ladies and Gentlemen!初めまして、被験者の皆さん。」

 一気にその場が明るくなった。私たちの周りには、私たち以外の人間が数多くいたのだ。男は真っ白な、気味悪い仮面を付けながら笑った。仮面の口が笑っているからそう見えたのかもしれないが、詳しいことは分からない。
 男は私たちの驚きを他所に、淡々と言葉を続けた。

「これから皆さんには、私が作り上げた仮想世界で冒険をしてもらいます。」
「冒険・・・?」

 私が呟くと、男が頷いた。

「Yes。この先には、様々なトラップやクイズが存在します。皆さんにはそれらを突き進んで頂き、ゴールに到着したら現実世界に戻るスイッチを押して終了。どうです?簡単でしょう?」

 野次が飛んだ。当たり前だ。急に仮想世界に連れて来られて、そんなことを言われても意味が分からない。
 だが、男は冷静に、そしてどこか冷酷に告げた。

「トラップやクイズに失敗すれば、皆さんはゲームオーバーになります。早く戻りたいからといって、わざとゲームオーバーになるのはいけません。そうした場合、こちらで始末させていただきますから・・・・。」

 男の言葉に、全員が黙った。私たちは男を睨みつける。男は不敵に笑って言った。

「さあ、Showの始まりです‼︎頑張って生き延びてください‼︎

                      
        ーカイリ『仮想世界の虐殺』よりー
                   
            ※

 その日、海里は新作を書き終え、家でぼんやりと過ごしていた。季節は夏の終わり頃になり、少し暑さがましになっていた。

「青空孤児院の事件からもう2週間とは・・・月日が経つのは早いですねえ。」

 そんなことを呟いた時、パソコンが音を鳴らした。どうやらメールが来たらしい。海里はゆっくりと体を起こし、机に置いてあるパソコンを開いた。

「ん・・・?招待状?お茶会はまだ先のはずですが・・・・」

 お茶会とは、江本家で定期的に行われる茶会のことだ。海里は首を傾げながらメールを開いたが、それはお茶会の招待状ではなかった。

「親愛なる江本海里様・・・あなたは私の“ゲーム”に参加する資格を得ました。明日午後12時、以下の住所までお越しください・・・・?」

 意味が分からなかった。示されている住所はさほど遠くないが、素直に向け入れるべきではないのは確かだった。

「ウイルスでしょうか?いや、でも・・・・」

 悩んだ末、海里は凪に電話をかけた。以前、アサヒに連れられて龍・玲央と店に行った時、営業日を知ったのだ。

『あら、江本さん。どうされたんですか?』
「少し東堂さんたちにご相談したいことがありまして。今、仕事中ですか?」
『今は仕事中です。でも、夜には店に来るって話ですから、来られます?』
「行きます。あと・・できればアサヒさんも呼んでください。彼女の専門かもしれないので。」

 その日の夜、海里は凪と連絡を取り合って店に行き、龍たちに会った。

「ああ、そのメール。俺たち3人にも届いたよ。」
「えっ?」
「ほら。」

 3人は同時にスマートフォンを見せた。そこには、名前だけが違う、文面は同じメールがあった。アサヒはグラスに継がれたビールを飲み干し、言う。

「何らかの形で私たちの連絡先がバレたことは確実。だから今日仕事そっちのけで調べたけど、エラーになって調べきれなかった。1つ分かったことは、メールの送り主の名前が“マジシャン”であることくらい。」
「マジシャン?」
「職業ではないでしょうね。こんなことするマジシャンなんて見たことないわ。私たちにも落ち度があったけど、立派な犯罪よ。」

 アサヒはめんどくさいと言わんばかりに手を振った。龍が口を開く。

「意味は分からないにしても、ただの招待メールじゃないことは確かだ。俺たちは明日、調査も兼ねてこの場所に行くが・・・・江本、お前はどうする?」
「行きます。私も知りたい。」
「じゃあ明日の12時、指定の場所に集合だね。」
                     
            ※

 翌日、4人は指定された場所に来て、唖然とした。そこには、自分たち以外の人間が大勢いたのだ。同じメールで呼ばれたらしく、皆首を傾げていた。

「ねえ、あのビル?」
「らしいな。確かあのビルって・・・最近取り壊される予定じゃなかったか?」
「そんな所に抜け抜け侵入しろって言うの?警察官が法律破るなんてどうかしてるわ。」

 すると、全員のスマートフォンが鳴った。またメールが届いたのだ。
 画面をスクロールすると、“ビルは私の私有地です。許可しますからお入りください。”、とあった。

「冗談でしょうか?」
「どうだろうな。とりあえず入った方がいいかもしれない。」

 だが、他の人々が中に入った瞬間、妙な音が聞こえた。煙が出ているような音だ。

「ガス?」
「分からない。行こう!」

 しかし、これもトラップだった。4人が中に入った瞬間、大量の睡眠ガスが放出され、彼らは意識を失った。
                    
            ※

 どれくらい時間が経ったのだろうか。海里は、ゆっくりと目を開けた。体を起こし、周りを見る。そこには、龍たち3人と、まだ眠っている人々がいた。

「起きたか。」
「東堂さん・・・玲央さん・・アサヒさん。ここは?」
「分からない。さっきと違う場所なのは確かだ。加えて、俺たちのこの体・・・・」
「本物にそっくりだけど、本物じゃない。財布とかがないし、少し服も曖昧。何より周囲の景色・・・・完全に作り物よ。」

 アサヒの言葉を聞いて、海里は周囲を見渡した。確かに、周囲は森があったり城があったり川があったり、滅茶苦茶だった。いわゆるパラレルワールドだろうか。

 すると、海里たちの目の前が明るくなり、巨大なスクリーンが映し出された。スクリーンには、仮面を被った1人の男がいた。真っ白な仮面の口は不気味に笑い、細長い目がじっと海里たちを捉えていた。

「Ladies and Gentlemen!・・・・初めまして。私がマジシャンです。」

 男はそう言い放った。全員が唖然とする中、男は続ける。

「今の皆さんの体は、私が作り上げたアバターです。再現度が低いところもありますが、問題ありません。ここで必要なのは、皆さんの知恵と勇気なのですから!」

 芝居がかった口調で続ける男に、大勢が文句を言った。家に返せ、説明しろ、なぜ自分たちなのか・・・・と。男は、嫌になる程冷静だった。

「皆さんがなぜ選ばれたのか。答えは簡単。適当です。少なくとも、この“5人”以外は。」

 男がそう言った時、海里たちにライトが当たった。

「おや?“1人足りませんね”。まあ、仕方ありません。皆さんには、これから私が作り上げた仮想世界で冒険をしてもらいます。様々なトラップがありますから、それらをくぐり抜けて、現実世界に戻るスイッチまで辿り着いてください。」
「待ってください。そんな簡単な説明・・・!」
「ちなみに、トラップは全て命を奪うほどの威力です。ゲームオーバーにならないよう、頑張って下さい。」

 そう言うと男は大袈裟に両手を広げ、こう叫んだ。

「さあ、Showの始まりです!」
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