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Case98.闇夜のダンスパーティー③
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「どうですか?」
「毒殺だね。外傷はない。」
1時間ほどのダンスが終わった後、海里と玲央は現場の検分を行っていた。玲央はハンカチで口元を覆いながら続ける。
「話を聞く限り、調べた限り・・・10年前の殺害方法も毒殺だったんだろう。問題は、毒を盛った方法と犯人・・・・ただ、スマートフォンも何もない状態から調べるのは無理だ。」
「外部との連絡が取れずとも、情報が得られないと難しいですね。」
すると、黒服の男が現れ、2人にスマートフォンを渡した。紛れもなく、自分たちの物である。
「お2人にはお返しするよう頼まれました。外部との連絡は遮断されていますが、調べ物は可能です。」
「俺たち2人だけ・・・?他の人は?」
「外部と無理にでも通信する可能性があるから・・・とのことです。玲央様も、弟君と連絡を取られぬように・・と。」
「お見通し、か。心配しなくても、外部の人間に頼る気はないよ。」
2人はスマートフォンを受け取ると、部屋に戻って話し合いを始めた。正直メイド2人には出て行って欲しかったのだが、頑なとして出て行かないため、2人は仕方なく話し合いを続けた。
「本当だ・・・連絡は遮断されてる。調べ物ができるのはいいけど、正直パソコンの方がいいんだよなあ。過去の事件なんて、簡単に調べて出てくるかどうか・・・・」
「そうですね。これはあんまり頼りになりません。玲央さん、もう少し10年前の事件の概要を説明して頂けませんか?会場の様子なども、人から聞いた程度のことで構いませんので。」
「了解。」
2人は椅子に腰掛けた。玲央は天井を仰ぎながら、うーんと首を傾げている。
「何から話そうか・・・取り敢えず、当時の事件で亡くなったのは、麻生義彦の娘の真子さん、婿養子の智さん、孫の優子さん・優太さんの4人。彼らは皆、ダンス中に苦しみ出し、血を吐いて倒れ、絶命。亡くなった後、目・鼻などの部分から出血した・・・。」
「・・・酷いですね。」
海里はその凄惨さを想像して言った。玲央は頷く。
「うん。でも、亡くなった後に出血したっていう話は、信憑性が薄いんだ。警察内で噂されていて、一応資料に書いてあったけど、本当にそんなことになったのかは、分からない。」
「ただ麻生さんは否定されていませんでしたよ。本当ではないのですか?」
「ま・・そういうことにしておこうか。とにかく、警察は殺人事件として捜査した。当時自殺の線も一応出たけど、婿養子の智さんは上手く経営をやっているという話で、家族仲も悪くなかった点から自殺ではないという判断になった。」
海里は頷きながら話を聞いていた。掃除をしているメイドたちも、少し動きを止めて彼の話に耳を傾けている。
「そもそも、麻生家は代々資産家として有名だったんだ。婿養子の麻生智は麻生義彦から継いだ会社を経営していて、会社設立50周年を記念して開かれたパーティーで、事件が起きた。」
「となると・・・犯人はその日に殺人を計画していたのでしょうね。祝い事の日に、一家を殺す・・・資産家ともなれば、インパクトも相当です。」
海里の言葉に玲央は頷き、言った。
「警察はパーティーに出席していた人間全員を容疑者にした。幼い子供から、老人まで。」
「それは・・・少し無理があるのでは?」
「無理な話だ。でも、それほど大掛かりだと踏んだんだよ。まあ、流石に10歳以下の子供は外されたけどね。」
「・・・・なるほど。そして、高齢者を外さなかった結果、麻生義彦さんと妻の杏さんが容疑者になったんですね。」
玲央は頷いた。海里は顎に手を当てる。眉を潜め、彼は呟いた。
「しかし妙ではありませんか?資産家という立場から調査をしていたのに、最終的にご家族に落ち着くなど・・・。そもそも、なぜ義彦さんと杏さんは命を狙われなかったのでしょう。娘さんたちが亡くなっても、義彦さんたちが経営の指揮を取られる可能性は十分にあったはずです。」
「確かにそうだけど・・・・そう考えると、犯人はやっぱり麻生義彦にならないか?彼の言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど、一応犯人から外しているし。」
「うーん・・・。では・・こう考えるとどうですか?“犯人は、麻生杏”。」
玲央の顔色が変わった。
「それは・・・・確かに考えなかったな。ただ彼女は麻生義彦と逃亡した後、1年足らずで亡くなっているんだ。」
「逃亡していたのにそんなことが分かったのですか?」
「殺人だったんだよ。麻生杏は、都内の山中で遺体となって発見された。犯人は不明で、凶器は側に落ちていた鉈。」
「1年足らずで亡くなった・・・状況から察するに麻生義彦が怪しいですね。そちらの事件も未解決なんですか?」
「ああ。お蔵入りになったらしい。実質的に解決しなきゃいけない事件は2つだね。」
玲央の言葉に頷きながらも、海里は疑問を話した。
「ですが、麻生さんは杏さんが亡くなったことを口にしませんでした。あれは一体?」
「さあ・・?何せ、情報が少なすぎる。かといって戸惑っていると、被害者が・・・・」
2人は頭を抱えた。あまりに少ない情報、時間。外部との連絡の遮断。多くのアクシデントが、2人を酷く焦らせた。
「龍が外部から気づいて何かしら動いてくれればいいんだけど・・・あいつ、この事件のこと知らないからな。」
玲央が溜息をつくと、スマートフォンで事件を調べていた海里はハッとして尋ねた。
「玲央さん。1つお聞きしても?」
「何?」
「麻生さんが経営されていたこの会社のロゴマーク・・・・見たことありませんか?」
「え?」
スマートフォンの画面には、銀の盾に背を向けて座るドラゴンが映っていた。玲央はすぐに答えに行き着き、自分のスマートフォンで検索する。
「やっぱり・・・!天宮家の所有する会社のマークと全く同じだ。天宮家は麻生家の会社を買収して、子会社にしたのか!」
「だとしたら・・・小夜さん、何か知ってるんじゃないですか?彼女でなくとも、刑務所にいる彼らは・・・。」
※
その頃、事件を調べていた龍は、10年前の一件に行きつき、天宮家の件を知ったところだった。
「麻生・・・?ああ、あの資産家か。」
「やっぱり知ってるのか。」
小夜の父・和豊は頷いた。刑務所に入っているというのに、恐怖や不安は全く感じない。捕まった今、自分の生死などどうでもよいのだろう。
「ああ。あの事件の後、麻生義彦がわざわざ私たちに頼んできた。“社員を路頭に迷わせたくないから、子会社として配下に置いてくれ”、と。」
「受けた理由は?」
「祖父の代からに世話になっていたこともあるし、私が経営を学んだのが麻生義彦だったからだ。」
「なるほど。じゃあ、10年前の事件について知ってはいるんだな?」
「もちろん。」
和豊は胡散臭い笑みを浮かべた。龍は思わず眉を顰める。この男は、殺人の罪を糾弾された時でさえ逃れようとしたが、刑務所に入れば皆、同じ。模範囚として過ごしていることは聞いていた。
「そう怖い顔をするな。それに、あの事件はどうせ恨み妬みが元となっている。婿養子の麻生智は麻生義彦に取り入ってあの家に潜り込んだという話もあるし、代々資産家として名を連ねて来た奴らからしたら、是非とも殺したい人間だっただろうよ。」
「他人には興味がない・・・か。お前らしいな。」
龍は立ち上がった。これ以上聞いても時間の無駄だと思ったのだろう。龍が部屋を出る直前、和豊は口を開いた。
「あの事件、お前の父親の采配で容疑者を取り逃がしたのか?」
その言葉に龍は動きを止めた。彼は振り向かずに口を開く。
「・・・・俺の知る所じゃない。とにかく、江本とも連絡が取れない以上、兄貴と一緒にいることは明白だ。謎を解くのは2人に任せる。俺がやるのは、行方不明者の救出だ。」
「それが遺体でも、か?」
「答えるまでもないな。」
龍は部屋を出ると、スマートフォンを出した。少し躊躇いがちにある電話番号を押す。
『君が俺に連絡してくるなんて珍しいね。何か・・・面白い事件でも起こったの?』
「面白い事件なんてねえよ。あんたが10年前に曖昧に終わらした、血塗れのダンスホール殺人事件。その件で話したいことがある。」
『へえ。流石に玲央が心配になったのかな?相変わらず仲がいいね。』
挑発するような言葉に龍は苛つきながら言った。
「会えるか会えないか、どっちだって聞いてんだよ。親父。」
電話の向こうで微かな笑い声が聞こえた。龍は小さく舌打ちをする。
『明日の正午、資料室に来て。少しでも遅れたら次の仕事に行くから、ちゃんと時間は守るんだよ。』
「毒殺だね。外傷はない。」
1時間ほどのダンスが終わった後、海里と玲央は現場の検分を行っていた。玲央はハンカチで口元を覆いながら続ける。
「話を聞く限り、調べた限り・・・10年前の殺害方法も毒殺だったんだろう。問題は、毒を盛った方法と犯人・・・・ただ、スマートフォンも何もない状態から調べるのは無理だ。」
「外部との連絡が取れずとも、情報が得られないと難しいですね。」
すると、黒服の男が現れ、2人にスマートフォンを渡した。紛れもなく、自分たちの物である。
「お2人にはお返しするよう頼まれました。外部との連絡は遮断されていますが、調べ物は可能です。」
「俺たち2人だけ・・・?他の人は?」
「外部と無理にでも通信する可能性があるから・・・とのことです。玲央様も、弟君と連絡を取られぬように・・と。」
「お見通し、か。心配しなくても、外部の人間に頼る気はないよ。」
2人はスマートフォンを受け取ると、部屋に戻って話し合いを始めた。正直メイド2人には出て行って欲しかったのだが、頑なとして出て行かないため、2人は仕方なく話し合いを続けた。
「本当だ・・・連絡は遮断されてる。調べ物ができるのはいいけど、正直パソコンの方がいいんだよなあ。過去の事件なんて、簡単に調べて出てくるかどうか・・・・」
「そうですね。これはあんまり頼りになりません。玲央さん、もう少し10年前の事件の概要を説明して頂けませんか?会場の様子なども、人から聞いた程度のことで構いませんので。」
「了解。」
2人は椅子に腰掛けた。玲央は天井を仰ぎながら、うーんと首を傾げている。
「何から話そうか・・・取り敢えず、当時の事件で亡くなったのは、麻生義彦の娘の真子さん、婿養子の智さん、孫の優子さん・優太さんの4人。彼らは皆、ダンス中に苦しみ出し、血を吐いて倒れ、絶命。亡くなった後、目・鼻などの部分から出血した・・・。」
「・・・酷いですね。」
海里はその凄惨さを想像して言った。玲央は頷く。
「うん。でも、亡くなった後に出血したっていう話は、信憑性が薄いんだ。警察内で噂されていて、一応資料に書いてあったけど、本当にそんなことになったのかは、分からない。」
「ただ麻生さんは否定されていませんでしたよ。本当ではないのですか?」
「ま・・そういうことにしておこうか。とにかく、警察は殺人事件として捜査した。当時自殺の線も一応出たけど、婿養子の智さんは上手く経営をやっているという話で、家族仲も悪くなかった点から自殺ではないという判断になった。」
海里は頷きながら話を聞いていた。掃除をしているメイドたちも、少し動きを止めて彼の話に耳を傾けている。
「そもそも、麻生家は代々資産家として有名だったんだ。婿養子の麻生智は麻生義彦から継いだ会社を経営していて、会社設立50周年を記念して開かれたパーティーで、事件が起きた。」
「となると・・・犯人はその日に殺人を計画していたのでしょうね。祝い事の日に、一家を殺す・・・資産家ともなれば、インパクトも相当です。」
海里の言葉に玲央は頷き、言った。
「警察はパーティーに出席していた人間全員を容疑者にした。幼い子供から、老人まで。」
「それは・・・少し無理があるのでは?」
「無理な話だ。でも、それほど大掛かりだと踏んだんだよ。まあ、流石に10歳以下の子供は外されたけどね。」
「・・・・なるほど。そして、高齢者を外さなかった結果、麻生義彦さんと妻の杏さんが容疑者になったんですね。」
玲央は頷いた。海里は顎に手を当てる。眉を潜め、彼は呟いた。
「しかし妙ではありませんか?資産家という立場から調査をしていたのに、最終的にご家族に落ち着くなど・・・。そもそも、なぜ義彦さんと杏さんは命を狙われなかったのでしょう。娘さんたちが亡くなっても、義彦さんたちが経営の指揮を取られる可能性は十分にあったはずです。」
「確かにそうだけど・・・・そう考えると、犯人はやっぱり麻生義彦にならないか?彼の言葉を鵜呑みにするわけじゃないけど、一応犯人から外しているし。」
「うーん・・・。では・・こう考えるとどうですか?“犯人は、麻生杏”。」
玲央の顔色が変わった。
「それは・・・・確かに考えなかったな。ただ彼女は麻生義彦と逃亡した後、1年足らずで亡くなっているんだ。」
「逃亡していたのにそんなことが分かったのですか?」
「殺人だったんだよ。麻生杏は、都内の山中で遺体となって発見された。犯人は不明で、凶器は側に落ちていた鉈。」
「1年足らずで亡くなった・・・状況から察するに麻生義彦が怪しいですね。そちらの事件も未解決なんですか?」
「ああ。お蔵入りになったらしい。実質的に解決しなきゃいけない事件は2つだね。」
玲央の言葉に頷きながらも、海里は疑問を話した。
「ですが、麻生さんは杏さんが亡くなったことを口にしませんでした。あれは一体?」
「さあ・・?何せ、情報が少なすぎる。かといって戸惑っていると、被害者が・・・・」
2人は頭を抱えた。あまりに少ない情報、時間。外部との連絡の遮断。多くのアクシデントが、2人を酷く焦らせた。
「龍が外部から気づいて何かしら動いてくれればいいんだけど・・・あいつ、この事件のこと知らないからな。」
玲央が溜息をつくと、スマートフォンで事件を調べていた海里はハッとして尋ねた。
「玲央さん。1つお聞きしても?」
「何?」
「麻生さんが経営されていたこの会社のロゴマーク・・・・見たことありませんか?」
「え?」
スマートフォンの画面には、銀の盾に背を向けて座るドラゴンが映っていた。玲央はすぐに答えに行き着き、自分のスマートフォンで検索する。
「やっぱり・・・!天宮家の所有する会社のマークと全く同じだ。天宮家は麻生家の会社を買収して、子会社にしたのか!」
「だとしたら・・・小夜さん、何か知ってるんじゃないですか?彼女でなくとも、刑務所にいる彼らは・・・。」
※
その頃、事件を調べていた龍は、10年前の一件に行きつき、天宮家の件を知ったところだった。
「麻生・・・?ああ、あの資産家か。」
「やっぱり知ってるのか。」
小夜の父・和豊は頷いた。刑務所に入っているというのに、恐怖や不安は全く感じない。捕まった今、自分の生死などどうでもよいのだろう。
「ああ。あの事件の後、麻生義彦がわざわざ私たちに頼んできた。“社員を路頭に迷わせたくないから、子会社として配下に置いてくれ”、と。」
「受けた理由は?」
「祖父の代からに世話になっていたこともあるし、私が経営を学んだのが麻生義彦だったからだ。」
「なるほど。じゃあ、10年前の事件について知ってはいるんだな?」
「もちろん。」
和豊は胡散臭い笑みを浮かべた。龍は思わず眉を顰める。この男は、殺人の罪を糾弾された時でさえ逃れようとしたが、刑務所に入れば皆、同じ。模範囚として過ごしていることは聞いていた。
「そう怖い顔をするな。それに、あの事件はどうせ恨み妬みが元となっている。婿養子の麻生智は麻生義彦に取り入ってあの家に潜り込んだという話もあるし、代々資産家として名を連ねて来た奴らからしたら、是非とも殺したい人間だっただろうよ。」
「他人には興味がない・・・か。お前らしいな。」
龍は立ち上がった。これ以上聞いても時間の無駄だと思ったのだろう。龍が部屋を出る直前、和豊は口を開いた。
「あの事件、お前の父親の采配で容疑者を取り逃がしたのか?」
その言葉に龍は動きを止めた。彼は振り向かずに口を開く。
「・・・・俺の知る所じゃない。とにかく、江本とも連絡が取れない以上、兄貴と一緒にいることは明白だ。謎を解くのは2人に任せる。俺がやるのは、行方不明者の救出だ。」
「それが遺体でも、か?」
「答えるまでもないな。」
龍は部屋を出ると、スマートフォンを出した。少し躊躇いがちにある電話番号を押す。
『君が俺に連絡してくるなんて珍しいね。何か・・・面白い事件でも起こったの?』
「面白い事件なんてねえよ。あんたが10年前に曖昧に終わらした、血塗れのダンスホール殺人事件。その件で話したいことがある。」
『へえ。流石に玲央が心配になったのかな?相変わらず仲がいいね。』
挑発するような言葉に龍は苛つきながら言った。
「会えるか会えないか、どっちだって聞いてんだよ。親父。」
電話の向こうで微かな笑い声が聞こえた。龍は小さく舌打ちをする。
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