小説探偵

夕凪ヨウ

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Case96.闇夜のダンスパーティー①

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「ここは・・・一体・・・・?」

 海里は重い体を起こした。周囲は真っ暗で、何も見えない。耳を澄ませると、多数の人の声が聞こえた。
 その時、明かりがついた。一気に部屋が明るくなり、海里は思わず目を瞑る。

「え・・・⁉︎」

 目の前には、真っ赤な絨毯と、真白い壁が広がっていた。金色のランプが輝き、真上には巨大なシャンデリアがかかっているのが見えた。

「江本君!」
「玲央さん⁉︎何でここに・・・」
「俺も分からないよ。気がついたらここにいたんだ。しかも・・・」

 玲央は周りを見た。周囲には、目覚めた10数人の人がいる。彼らも、なぜ自分たちがここにいるのか、理解できないようだ。

「一体、ここはどこなんだ?携帯・・・あれ?ない・・・・」

 海里も胸元を探ったが、スマートフォンや財布はなかった。頭が痛み、体がふらつく。

「江本君。ここに来る前、何をしていたか覚えてる?俺は龍と一緒に仕事をしていて、事情聴取のために龍の車を一時借りたんだ。途中で昼食を買うためにコンビニに駐車した。で、そこからの記憶が一切ない。」
「えっ・・と・・・私は、久しぶりに新作ができて、その原稿を編集者さんに見せに行ったんです。そしてその帰り、カフェに立ち寄ったのですが・・・・」
「記憶がない、と?」

 海里は頷いた。玲央は溜息をつきながら頭を掻く。すると、ホールの真ん中にある階段の踊り場に、突然車椅子に乗った老人が現れた。途端に玲央の顔色が変わる。

「あの男・・・!」
「ご存知なんですか?」

 海里の質問に玲央はゆっくりと答えた。

「・・・・10年前だったかな。とあるダンスホールで、4人の男女が亡くなったんだ。被害者は家族で、動機・犯人不明の殺人事件だった。そして、彼・・・麻生義彦は、容疑者の1人として挙げられたんだ。まあ容疑者だから、まだ犯人だと確定したわけじゃなかったんだけど、候補に挙がったことを知った途端、彼は逃げたんだ。」
「逃げた・・・⁉︎」
「結果、警察は一気に趣向を変え、“犯人”として調査をしたんだ。でも見つからず、10年引っ張っていた。」

 海里は階段にいる麻生を見た。灰色の長髪を束ねており、真白い着物と黒い袴を着て、怪しげな笑みを浮かべている。

「よく集まってくれた。お主らには、今日から1週間、ここにいてもらう。」
「はあ⁉︎」
「嘘でしょ⁉︎」
「ふざけないでよ‼︎」
「家に返して!」

 周囲の人々が野次を漏らした。直後、麻生は車椅子の手すりを拳で叩き、ホールに響き渡る大声で怒鳴った。

「静粛にせい‼︎お主らに文句を言う権利など存在しない!」
「・・・人を誘拐しておいて随分と偉そうじゃないか、麻生義彦。」

 玲央はゆっくりと階段の前へ歩いて行った。海里が止めようとするが、彼はそっと腕を出して止めた。

「やあ、初めまして。10年ぶりに顔を見たよ。写真越しに・・だけど。」
「・・・ふぉっふぉっふぉっ・・その口調、よく似ておる。あの忌々しい男にの。」

 玲央の眉が動いた。海里は不思議そうに首を傾げる。

「似てる?玲央さんが・・・?」

 2人の間に火花が散っているように見えた。海里は訳が分からず2人を見る。

「どうして逃げたの?」
「お主らのやり方が汚いからじゃよ。勝手に容疑者にして、捕らえようとした。」
「まだ確定してもいなかった。勝手に逃げたのは君だ。」

 麻生は笑った。彼が両手を軽く上げると同時に、壁から棚が飛び出した。棚には、ドレスやタキシードが入っている。

「この1週間、お主らには夜にダンスをしてもらう。なあに、そう難しいことじゃない。小さなダンスパーティーが開かれていると思えばいい。」

 その言葉に玲央は眉を顰めた。背後にいる海里も、状況が飲み込めないのか無言である。

(この男は、一体何を言っている?目的は一体何なんだ?しかも俺の記憶違いじゃなかったら、周囲にいる人間は、“全員10年前の事件に関わっていた人間もしくはその親族”だ。)

「夜までに各々の服に着替えてくれ。時間が来れば、部屋の時計が知らせてくれよう。」
                    
            ※

 海里と玲央は同室だった。2つの机とベッドがあり、サイドテーブルが置かれている。部屋には大きな窓があったが鍵はなく、外はぼやけて見えず、強化ガラスになっていた。

「一体どういうことなんだ・・・?あの男、何を企んでいる?」
「よく分かりません。分かるのは、10年前の事件を因縁として何かを企んでいることだけです。しかし、玲央さん。」
「ん?」
「面識がないのに、彼はあなたのことを知っているような口ぶりでしたね。あれはどういうことなんですか?」

 玲央はネクタイを緩めている手を止めた。微笑を浮かべ、ネクタイを取る。

「江本君には話したことなかったかな。俺と龍の父親も、警察官なんだ。」
「え?」
「10年前には警視監だったんだよ。今は、それの1個上。」
「へえ、そうなんですか・・・・って・・は?待ってください・・それって・・・」

 驚く海里に、玲央は笑ったまま頷いた。

「そう。警視総監・東堂武虎は俺たちの父親だ。文武両道・冷静沈着で、“歴代最高の警視総監”と呼ばれているんだよ。」

 そう言いながら、玲央は手帳を取り出した。1枚の写真を抜き取り、海里に渡す。そこには、カメラに向かって笑う龍と玲央、彼らの両親がいた。父親は大柄で、顔立ちは玲央とそっくりだった。

「俺の物腰と性格は父親譲り。ただはっきり言って、俺は父さんが苦手だけどね。人として尊敬に値するけど、策を弄して俺たちすら嵌めることがある。まあ不要な人間を排除したり部下を危険に晒さないためのものだけど・・・やり過ぎるからちょっとね。」

 玲央は苦笑した。海里は写真を見ながら呟く。

「でも、優しそうです。いい父君ではないですか?」
「父親としてはね。ただ、警察官としては、大変な時もある。上があまりに優秀だと、後に続く人間も同じことを求められる・・・できる限りそれに答えて来たけど、父さんも周囲もそれ以上を求めて来るから、大人になってからは偶に喧嘩したよ。」

 海里は写真を返した。玲央は写真を仕舞い、上着をクローゼットにかけ、ベッドに座る。

「とにかく・・・だ。過去の話は置いておいて、今の話をしよう。君以外の人間は、10年前の事件に関わっているもしくはその親族だった。問題は、麻生義彦の目的と、君が呼ばれた理由だ。」
「そうですね。私は10年前の事件を全く知らない。彼なりに調べて、私を呼んだとしたら、何らかの事件が起きると考えるべきです。」
「あまり考えたくないけど・・・そうなるね。とにかく、この館の全貌が知りたい。ダンスパーティーとやらが始まる前に、館を一回りしよう。」
「はい。」

 2人は急いで部屋を出て、薄明かりが輝く廊下を走って行った。
                   
            ※

『おかけになった電話番号は、現在使われていないか、電波の届かない場所にーーーー』


「・・・兄貴・・どこ行ったんだよ。」

 警視庁で仕事をしていた龍は、玲央の帰りが遅いことを心配して、何度も電話をかけていた。事情聴取へ行く住宅街への道を辿って自分の車を見つけたが、兄の姿はなく、荷物も見つからなかったのだ。

「龍。どうだ?」

 浩史の問いに龍は首を横に振った。

「ダメです。兄貴も江本も電話に出ない。」
「・・・実は今日、何人も行方不明者が出ているんだ。もし、その中に2人がいるとしたら・・・」
「何か事件に巻き込まれている?」
「あくまで可能性だ。が、玲央に限ってお前からの電話を無視しないだろう。」

 龍は自分のスマートフォンを見た。20以上の不在着信に、心が痛んだ。

「明日から本格的に調査を開始します。必ず・・見つけ出す。何があっても。」
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