67 / 237
Case65.2人の探偵①
しおりを挟む
ーーどうしてここにいるの。
そんな言葉が、口をついて出そうになった。何とか言葉を飲み込んで名前を呼んだけれど、心の中の動揺と落胆は収まらない。
もし、私がやろうとしていることを彼が知れば、きっと止める。そうならないために、隠し通さなければならない。
私の、全てを。
※
「いい風が吹いてますね」
海里は大型客船の甲板から、夜風に揺れる海を眺めていた。ふと口をついて出た言葉は風に乗って消え、誰にも聞こえることはない。甲板の明かりに照らされた彼の銀髪は美しく、周囲の人々の注目を集めていたが、本人は素知らぬ顔で海を眺め続けている。
寒々しい冬は過ぎ去り、季節は春になっていた。遠くに見える山桜が少しずつ花を咲かせ始め、街中の桜の見頃も近づいていた。
海里は薄い月を移している水面を見つめ、長い息を吐く。
「それにしても・・・編集者さんには頭が上がりませんね。休暇のため、わざわざこんな大型客船予約を取ってくださるなんて」
クリスマス直前の水嶋大学音楽教授殺人事件と、年明け直後の立石家長男殺人事件。2つの事件を解決し、執筆の後に本が出版された後、海里はしばらく休暇を取りたいと編集者に打診していた。編集者は彼の要望を受け、気休めにと進めた大型客船の船旅をしていたのだ。
海里の乗っている大型客船の名は、マリーゴールド号。この船を作った人物がマリーゴールドが好きで、そう名付けたのだと言う。その証拠に船の側面には大きな橙色のマリーゴールドが描かれ、真っ白な船体とマッチしていた。現在、1000人以上の乗客と乗組員や各種スタッフがいるこの船は、日本最大級のものだった。
そんなことを思い返していると、誰かが海里の名を呼んだ。
「あー! 海里のお兄ちゃんだ‼︎」
突然自分の名前を呼ばれ、海里は驚いて振り返った。彼の背後には、自分の方へ駆けてくる元天宮家の次男・夏弥の姿があった。
「夏弥さん? どうして・・・・」
「こんな所でお会いするなんて思いませんでしたよ、江本さん」
「小夜さん!」
夏弥を追いかけるように小夜が歩いて来た。彼女に続いて秋平と春菜がおり、走り去ろうとする弟を捕まえて楽しげに笑い合った。
小夜はそんな様子を見て柔らかい笑みを浮かべ、海里の隣に立つ。
「お久しぶりです。お会いするのは水嶋大学の1件以来ですね」
「ええ。随分と前になりますね。
あ・・・先日は、すみませんでした。電話で不躾なことを聞いてしまって」
海里の言葉が、立石家の事件の時のものだと分かっていた小夜は、ゆっくりと首を横に振った。
「私も感情的になり過ぎました・・・・ごめんなさい。
それより、江本さんはなぜここへ? また小説のアイデア探しですか?」
小夜の問いに、今度は海里が首を横に振った。
「いいえ。今日は編集者さんが休暇を取ってくださって。船旅などどうかとチケットを頂いたんです。中々ない経験ですから、気晴らしに」
「そうだったんですね」
「はい。小夜さんたちはどうしてこちらに? 泉龍寺家の皆様と家族旅行ですか?」
「元々そのつもりでした。でも急にご両親の予定が合わなくなってしまって。せっかくの機会を無駄にするのも勿体ないので、私たち4人で来たんです」
しばらくの間、海里は小夜たちと談笑していた。しかし、彼は話しながら船内に目をやり、妙なことに気がついた。
心が顔に出ていたのか、小夜は少し心配そうに尋ねる。
「江本さん、どうかされましたか? 浮かない顔をされていますけれど」
「ああ・・何と言いますか・・・乗客の方々が・・・・違う気がして。このような言い方は良くありませんが、いわゆる上流階級とそれ以外・・・社会的地位の差があるように思うんです」
刹那、小夜の顔から笑みが消えたが、海里はそれに気が付かなかった。彼女は愛想笑いを浮かべ、船内にいる乗客を見渡す。
「さすが、よく見ていらっしゃいますね。その頭脳があるなら、小説家以外にも道があったでしょうに」
「よく言われます。でも、どうしても小説家になりたくて」
小夜は笑った。船内の明かりが黒い髪を照らす。
「・・・・どうして?」
海里は笑うだけだった。その様子を見て、小夜は答えが得られないと思ったのか、それ以上何も言わずに海里と並んで海に視線を移した。
その時。
「天宮様」
小夜の旧姓を呼んだのは、50代くらいの男だった。真っ白な乗組員の服を纏っており、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。
小夜はどこか気怠げな視線を向け、微笑んで応じた。
「こんばんは、六条船長。わざわざ挨拶に出向いてくださるのは嬉しいですけれど、私はもう天宮ではありませんよ?」
「ああ、そうでしたな。申し訳ない。まだ慣れないものでして。
しかし、再びお会いできるとは思いませんでした。その節はお世話になりました」
「お礼なら父に。私は何もしていません」
六条って、マリーゴールド号船長の六条春也じゃないか。なぜ彼が小夜さんに挨拶を? その節って何のことだ?
海里は疑問が湧き上がるのを止められなかったが、小夜は気にせず海里を指し示した。
「六条船長。こちら、カイリさん。以前、天宮家で起きた事件を解決してくださった探偵さんです」
「おお、あなたが小説探偵! 一度お会いしたいと思っておりました。どうぞ、よろしく」
躊躇いなく差し出した六条の手を、海里は遠慮がちに握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜ挨拶しているのだろうと思いつつ、海里はそう返した。六条は秋平たち3人を見て大きくなったと言い、昔から彼らを知っている素振りを見せた。
しばらくして六条が去っていくと、小夜は深い溜息をついた。持っていたハンドバックからスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。
「久しぶり。ええ、そうよ。六条さん。私たちに接触しないように頼んでいたはずでしょ? ・・・え? 連絡ミス? だったら言っておいて頂戴。
私たちは、これ以上家に振り回される気はないから」
短い電話を終えると、小夜は苦笑して海里を見た。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いえいえ。色々驚きましたが、見苦しいなんてことはありませんよ」
「ふふっ。相変わらずお優しいですね」
小夜はそう言って笑うと、夕食の準備が始まっている船内を一瞥し、自分の腕時計を見た。
「そろそろ夕食の時間ですね。中に入りましょうか」
「あ、そうですね。ご一緒しても?」
「大歓迎です。秋平たちも喜びます」
ハンバーグ、サラダ、白米、コーンスープと、レストランの洋食にも似たメニューが各テーブルに並んでいた。スタッフは2人の話を聞いていたのか、小夜たちのテーブルに海里の食事が既に置かれている。海里はスタッフに礼を言って席に座り、小夜たちと食事を始めた。
夕食中、海里は天宮家の事件後、泉龍寺家でどうしているのかを尋ね、何不自由なく暮らしていることを知った。
「和豊さんたちに面会はされているんですか?」
「一応。父が残した財産のいざこざもあって、会いたくなくても会わなきゃいけないんです。まあ、それも既に終盤。全てが終われば、もう・・・・」
会わなくていい。そう、小夜が呟いた気がした。海里は何も言わずに笑顔を浮かべ、食事を続ける。
少しして、海里は以前から気になっていたことを正面から尋ねた。
「玲央さんをなぜあんなに信頼されているんですか? 失礼ですが、小夜さんはあまり他人を信頼されませんよね?」
突然の質問に、小夜は動揺せずに答える。
「彼は信頼に足る人だから・・・と言っておきます」
「相変わらずかわすのがお上手ですね。本当の理由をそんなに隠したいですか?」
「ええ。みすみす人に話したくはありませんから」
小夜は何食わぬ顔で言って食事を続け、隣にいる秋平たちも何も言わなかった。海里もこれ以上は今は聞けないと思ったのか、相槌を打つだけで談笑に戻った。
食事中、上流階級と思わしき多くの客が小夜たちに挨拶をしに来たが、彼女たちは皆いい顔をしなかった。海里はそれを見ながら、この船における彼女たちの見方と、天宮家の影響力を理解した。
人々が去った後、海里は少し声を落として言う。
「大変ですね。天宮の名をとってもなお、待遇が変わらないのですか?」
「ええ。おかげで、ろくに出かけることもできません。資産家によるグループは全国各地にありますし、未だに天宮家所有になっている土地もある。立石家のように、契約者のみが天宮家の土地も、まだ多く残っています」
「手放されなかったのですね」
「ええ。あまりにも多くて面倒というのもありますけど、いくらか持っている方が安心もできるかと思って」
「なるほど」
そんな他愛もない会話をしながら、海里たちは夕食を終えた。当然部屋は別々なので彼らは食堂を出てすぐに別れ、各々の部屋へ向かった。
「お姉様。いいの?」
春菜の質問に小夜は間を開けて答えた。
「・・・・何が?」
「協力してもらわなくていいのかって話。そりゃ、あの時は仕方なかったけど・・・」
「ダメよ。私たちの目的を知れば、彼はまた反対する。それに彼は・・・・」
優しすぎる。消え入るような小さな声だったが、秋平たちは同意した。小夜は続ける。
「あの事件で、確かに私たちは彼らに救われたわ。でも、彼らと私たちの生きる世界は違う。こんな無茶苦茶な世界に、あの人を巻き込むわけにはいかない」
「・・・・そうだね。江本さんは、私たちとは違うから」
海里は部屋に戻るなり入浴を済ませ、すぐ眠りについた。仕事続きだった彼は、自分が思っているより疲れていたらしく、部屋の外の話し声や船の揺れでも目覚めることもないほど、深く眠った。
一方、小夜は部屋の窓の外を見つめ、揺れる海面を見つめながらつぶやいた。
「ひどい風だわ。荒らしにならないといいけれど」
「・・・・姉さん・・やっぱりこんなこと・・・」
秋平はパソコンをいじる小夜を見ながら呟いた。しかし小夜はすかさず口を開く。
「それは言わない約束よ。それに、私たちが止められる程度の事件に抑えなければならないでしょう? ここで大きな事件が起きれば、江本さんは必ず解決しようとする。でも私は、それを阻止しなきゃならないの。他でもない江本さんのために」
荒れる海。交差する思惑。暗い夜に、事件は起こる。
そんな言葉が、口をついて出そうになった。何とか言葉を飲み込んで名前を呼んだけれど、心の中の動揺と落胆は収まらない。
もし、私がやろうとしていることを彼が知れば、きっと止める。そうならないために、隠し通さなければならない。
私の、全てを。
※
「いい風が吹いてますね」
海里は大型客船の甲板から、夜風に揺れる海を眺めていた。ふと口をついて出た言葉は風に乗って消え、誰にも聞こえることはない。甲板の明かりに照らされた彼の銀髪は美しく、周囲の人々の注目を集めていたが、本人は素知らぬ顔で海を眺め続けている。
寒々しい冬は過ぎ去り、季節は春になっていた。遠くに見える山桜が少しずつ花を咲かせ始め、街中の桜の見頃も近づいていた。
海里は薄い月を移している水面を見つめ、長い息を吐く。
「それにしても・・・編集者さんには頭が上がりませんね。休暇のため、わざわざこんな大型客船予約を取ってくださるなんて」
クリスマス直前の水嶋大学音楽教授殺人事件と、年明け直後の立石家長男殺人事件。2つの事件を解決し、執筆の後に本が出版された後、海里はしばらく休暇を取りたいと編集者に打診していた。編集者は彼の要望を受け、気休めにと進めた大型客船の船旅をしていたのだ。
海里の乗っている大型客船の名は、マリーゴールド号。この船を作った人物がマリーゴールドが好きで、そう名付けたのだと言う。その証拠に船の側面には大きな橙色のマリーゴールドが描かれ、真っ白な船体とマッチしていた。現在、1000人以上の乗客と乗組員や各種スタッフがいるこの船は、日本最大級のものだった。
そんなことを思い返していると、誰かが海里の名を呼んだ。
「あー! 海里のお兄ちゃんだ‼︎」
突然自分の名前を呼ばれ、海里は驚いて振り返った。彼の背後には、自分の方へ駆けてくる元天宮家の次男・夏弥の姿があった。
「夏弥さん? どうして・・・・」
「こんな所でお会いするなんて思いませんでしたよ、江本さん」
「小夜さん!」
夏弥を追いかけるように小夜が歩いて来た。彼女に続いて秋平と春菜がおり、走り去ろうとする弟を捕まえて楽しげに笑い合った。
小夜はそんな様子を見て柔らかい笑みを浮かべ、海里の隣に立つ。
「お久しぶりです。お会いするのは水嶋大学の1件以来ですね」
「ええ。随分と前になりますね。
あ・・・先日は、すみませんでした。電話で不躾なことを聞いてしまって」
海里の言葉が、立石家の事件の時のものだと分かっていた小夜は、ゆっくりと首を横に振った。
「私も感情的になり過ぎました・・・・ごめんなさい。
それより、江本さんはなぜここへ? また小説のアイデア探しですか?」
小夜の問いに、今度は海里が首を横に振った。
「いいえ。今日は編集者さんが休暇を取ってくださって。船旅などどうかとチケットを頂いたんです。中々ない経験ですから、気晴らしに」
「そうだったんですね」
「はい。小夜さんたちはどうしてこちらに? 泉龍寺家の皆様と家族旅行ですか?」
「元々そのつもりでした。でも急にご両親の予定が合わなくなってしまって。せっかくの機会を無駄にするのも勿体ないので、私たち4人で来たんです」
しばらくの間、海里は小夜たちと談笑していた。しかし、彼は話しながら船内に目をやり、妙なことに気がついた。
心が顔に出ていたのか、小夜は少し心配そうに尋ねる。
「江本さん、どうかされましたか? 浮かない顔をされていますけれど」
「ああ・・何と言いますか・・・乗客の方々が・・・・違う気がして。このような言い方は良くありませんが、いわゆる上流階級とそれ以外・・・社会的地位の差があるように思うんです」
刹那、小夜の顔から笑みが消えたが、海里はそれに気が付かなかった。彼女は愛想笑いを浮かべ、船内にいる乗客を見渡す。
「さすが、よく見ていらっしゃいますね。その頭脳があるなら、小説家以外にも道があったでしょうに」
「よく言われます。でも、どうしても小説家になりたくて」
小夜は笑った。船内の明かりが黒い髪を照らす。
「・・・・どうして?」
海里は笑うだけだった。その様子を見て、小夜は答えが得られないと思ったのか、それ以上何も言わずに海里と並んで海に視線を移した。
その時。
「天宮様」
小夜の旧姓を呼んだのは、50代くらいの男だった。真っ白な乗組員の服を纏っており、どこか胡散臭い笑みを浮かべている。
小夜はどこか気怠げな視線を向け、微笑んで応じた。
「こんばんは、六条船長。わざわざ挨拶に出向いてくださるのは嬉しいですけれど、私はもう天宮ではありませんよ?」
「ああ、そうでしたな。申し訳ない。まだ慣れないものでして。
しかし、再びお会いできるとは思いませんでした。その節はお世話になりました」
「お礼なら父に。私は何もしていません」
六条って、マリーゴールド号船長の六条春也じゃないか。なぜ彼が小夜さんに挨拶を? その節って何のことだ?
海里は疑問が湧き上がるのを止められなかったが、小夜は気にせず海里を指し示した。
「六条船長。こちら、カイリさん。以前、天宮家で起きた事件を解決してくださった探偵さんです」
「おお、あなたが小説探偵! 一度お会いしたいと思っておりました。どうぞ、よろしく」
躊躇いなく差し出した六条の手を、海里は遠慮がちに握り返した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
なぜ挨拶しているのだろうと思いつつ、海里はそう返した。六条は秋平たち3人を見て大きくなったと言い、昔から彼らを知っている素振りを見せた。
しばらくして六条が去っていくと、小夜は深い溜息をついた。持っていたハンドバックからスマートフォンを取り出し、誰かに電話をかける。
「久しぶり。ええ、そうよ。六条さん。私たちに接触しないように頼んでいたはずでしょ? ・・・え? 連絡ミス? だったら言っておいて頂戴。
私たちは、これ以上家に振り回される気はないから」
短い電話を終えると、小夜は苦笑して海里を見た。
「お見苦しいところをお見せしました」
「いえいえ。色々驚きましたが、見苦しいなんてことはありませんよ」
「ふふっ。相変わらずお優しいですね」
小夜はそう言って笑うと、夕食の準備が始まっている船内を一瞥し、自分の腕時計を見た。
「そろそろ夕食の時間ですね。中に入りましょうか」
「あ、そうですね。ご一緒しても?」
「大歓迎です。秋平たちも喜びます」
ハンバーグ、サラダ、白米、コーンスープと、レストランの洋食にも似たメニューが各テーブルに並んでいた。スタッフは2人の話を聞いていたのか、小夜たちのテーブルに海里の食事が既に置かれている。海里はスタッフに礼を言って席に座り、小夜たちと食事を始めた。
夕食中、海里は天宮家の事件後、泉龍寺家でどうしているのかを尋ね、何不自由なく暮らしていることを知った。
「和豊さんたちに面会はされているんですか?」
「一応。父が残した財産のいざこざもあって、会いたくなくても会わなきゃいけないんです。まあ、それも既に終盤。全てが終われば、もう・・・・」
会わなくていい。そう、小夜が呟いた気がした。海里は何も言わずに笑顔を浮かべ、食事を続ける。
少しして、海里は以前から気になっていたことを正面から尋ねた。
「玲央さんをなぜあんなに信頼されているんですか? 失礼ですが、小夜さんはあまり他人を信頼されませんよね?」
突然の質問に、小夜は動揺せずに答える。
「彼は信頼に足る人だから・・・と言っておきます」
「相変わらずかわすのがお上手ですね。本当の理由をそんなに隠したいですか?」
「ええ。みすみす人に話したくはありませんから」
小夜は何食わぬ顔で言って食事を続け、隣にいる秋平たちも何も言わなかった。海里もこれ以上は今は聞けないと思ったのか、相槌を打つだけで談笑に戻った。
食事中、上流階級と思わしき多くの客が小夜たちに挨拶をしに来たが、彼女たちは皆いい顔をしなかった。海里はそれを見ながら、この船における彼女たちの見方と、天宮家の影響力を理解した。
人々が去った後、海里は少し声を落として言う。
「大変ですね。天宮の名をとってもなお、待遇が変わらないのですか?」
「ええ。おかげで、ろくに出かけることもできません。資産家によるグループは全国各地にありますし、未だに天宮家所有になっている土地もある。立石家のように、契約者のみが天宮家の土地も、まだ多く残っています」
「手放されなかったのですね」
「ええ。あまりにも多くて面倒というのもありますけど、いくらか持っている方が安心もできるかと思って」
「なるほど」
そんな他愛もない会話をしながら、海里たちは夕食を終えた。当然部屋は別々なので彼らは食堂を出てすぐに別れ、各々の部屋へ向かった。
「お姉様。いいの?」
春菜の質問に小夜は間を開けて答えた。
「・・・・何が?」
「協力してもらわなくていいのかって話。そりゃ、あの時は仕方なかったけど・・・」
「ダメよ。私たちの目的を知れば、彼はまた反対する。それに彼は・・・・」
優しすぎる。消え入るような小さな声だったが、秋平たちは同意した。小夜は続ける。
「あの事件で、確かに私たちは彼らに救われたわ。でも、彼らと私たちの生きる世界は違う。こんな無茶苦茶な世界に、あの人を巻き込むわけにはいかない」
「・・・・そうだね。江本さんは、私たちとは違うから」
海里は部屋に戻るなり入浴を済ませ、すぐ眠りについた。仕事続きだった彼は、自分が思っているより疲れていたらしく、部屋の外の話し声や船の揺れでも目覚めることもないほど、深く眠った。
一方、小夜は部屋の窓の外を見つめ、揺れる海面を見つめながらつぶやいた。
「ひどい風だわ。荒らしにならないといいけれど」
「・・・・姉さん・・やっぱりこんなこと・・・」
秋平はパソコンをいじる小夜を見ながら呟いた。しかし小夜はすかさず口を開く。
「それは言わない約束よ。それに、私たちが止められる程度の事件に抑えなければならないでしょう? ここで大きな事件が起きれば、江本さんは必ず解決しようとする。でも私は、それを阻止しなきゃならないの。他でもない江本さんのために」
荒れる海。交差する思惑。暗い夜に、事件は起こる。
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
シスターヴレイヴ!~上司に捨て駒にされ会社をクビになり無職ニートになった俺が妹と異世界に飛ばされ妹が勇者になったけど何とか生きてます~
尾山塩之進
ファンタジー
鳴鐘 慧河(なるがね けいが)25歳は上司に捨て駒にされ会社をクビになってしまい世の中に絶望し無職ニートの引き籠りになっていたが、二人の妹、優羽花(ゆうか)と静里菜(せりな)に元気づけられて再起を誓った。
だがその瞬間、妹たち共々『魔力満ちる世界エゾン・レイギス』に異世界召喚されてしまう。
全ての人間を滅ぼそうとうごめく魔族の長、大魔王を倒す星剣の勇者として、セカイを護る精霊に召喚されたのは妹だった。
勇者である妹を討つべく襲い来る魔族たち。
そして慧河より先に異世界召喚されていた慧河の元上司はこの異世界の覇権を狙い暗躍していた。
エゾン・レイギスの人間も一枚岩ではなく、様々な思惑で持って動いている。
これは戦乱渦巻く異世界で、妹たちを護ると一念発起した、勇者ではない只の一人の兄の戦いの物語である。
…その果てに妹ハーレムが作られることになろうとは当人には知るよしも無かった。
妹とは血の繋がりであろうか?
妹とは魂の繋がりである。
兄とは何か?
妹を護る存在である。
かけがいの無い大切な妹たちとのセカイを護る為に戦え!鳴鐘 慧河!戦わなければ護れない!
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる