48 / 230
Case47.教授の遺した暗号①
しおりを挟む
「殺人事件ですか?」
退院した数日後、海里は龍からの電話を取るなり、そう尋ねた。
龍は相変わらずの海里に思わず苦笑いを浮かべ、言葉を続ける。
『ああ。数年前にできた、水嶋大学が事件現場だ。名前を聞いたことは?』
「ありますし、場所も分かりますよ。すぐ向かいますので、少しお待ちください。」
※
水嶋大学の正門に到着すると、赤色灯をつけたパトカーが数台、止まっていた。海里は野次馬を避けて傍へ移動し、他の刑事より頭一つ身長が高い、龍を見つける。
「こんにちは。今日も寒いですね。」
海里も龍も、厚手のコートを羽織っていた。東京なので雪は降っていないが、寒気が収まるのは先である。龍は白い息を吐きながら頷いた。
「まったくだ。稀だが雪も降って、気温も低くなる一方。クリスマスも近・・・・」
龍はそこで言葉を止めた。海里も何も言わず、揃って大学の正門を潜った。
「ねえ、あれ誰・・・?」
「パトカー止まってるし、警察じゃない?」
「え? 何で警察がうちの大学に来るの?」
生徒たちは事件を知らないようだった。不思議に思いながら構内を進むと、大きな校舎の前で、1人の男が2人を出迎えた。
「ようこそいらしてくださいました。学長の水嶋智彦です。ああ、生徒たちは事件を知りませんので、どうかご内密に。」
「内密と言われても・・・難しいです。大学に傷を負って欲しいわけではありませんが、どのような結果であれ、世間の目には触れることは避けられません。皆さんの負担にならないよう、事件後も出来る限りのことはさせて頂きますが・・・・。」
「そんな・・・」
龍は申し訳なさを含みつつ、どこか呆れの混じった声音だった。海里は龍の言葉に内心で納得しつつ、水嶋に尋ねる。
「現場はどこですか? 案内をお願いしても?」
「あ・・・ああ・・すみません。私はこれから仕事がありまして、別の教授に案内を頼んでいます。まだ日が浅い教授ですが、構内は把握しておりますので、問題ありません。」
「分かりました。その教授はどちらに?」
「別室にいます。ご案内しますので、着いて来てください。」
2人は、そう言った水嶋学長の後を歩いた。目の前にある大きな校舎に入り、長い廊下を進む。
構内はとても広く、新しいからか、目立った汚れも少なかった。講義を受けている生徒たちもおり、本当に何も話していないのだと理解した。龍は尋ねる。
「歩きながらの質問で申し訳ありませんが・・・・被害者が亡くなられたのは、いつ頃ですか?」
「恐らく・・・昨日の夜かと。今朝、私が1番早く大学に来まして、校舎の鍵を開け、軽い掃除を兼ねて見回りをしていました。そして、遺体を見つけたんです。初めは人形か、そうでなくとも見間違いかと思ったのですが・・・・」
「本物だったんですね。」
先を言い淀む水嶋に対して、龍は何ともないような声を上げた。水嶋は真っ青な顔で頷く。
「はい・・・。」
絞り出すような声だった。無理もない。民間人が、遺体を見慣れていることなどあり得ない。たった1度、または一瞬目にしただけでも、トラウマになり、健康を害することがあるのだ。
無惨に殺害された遺体が原因で、現場を去った警察官を、龍は見て来た。
「捜査は自由にしてください。しかし、生徒たちは何も知らない。絶対に話を漏らさないよう、お願いしますよ。教授たちにも、不用意に話をしないでください。」
「・・・・善処します。」
龍は絶対的な肯定も否定もしなかっんだ。水嶋は顔を曇らせたが、反論が見つからないのか、口を噤んだ。
長い廊下を経て、講義室に辿り着いた。広い講義室で、数十人は授業が受けられそうだった。縦横に移動する黒板と、多くの座席があり、机と床は白、椅子は茶とシンプルな色合いをしている。左右には大きな窓があり、都会の景色を映し出すとと共に、換気と称して開いている隙間から風の音が聞こえた。
水嶋は視線を教卓に移した。教卓には、窓の外を見つめる1人の女性が立っている。体も視線も斜めなので、はっきりと顔が見えなかった。
「泉龍寺教授、お連れしましたよ。」
「泉龍寺・・・⁉︎」
2人は声を揃えて驚いた。珍しい名字なので、そう多くはないだろう。2人の頭を、猛暑日に起こった事件がよぎる。
泉龍寺と呼ばれた女性は水嶋たちに気付き、返事をした。
「わざわざありがとうございます、水嶋学長。」
「その声・・・あなたは・・まさか・・・‼︎」
海里が息を呑むと、女性はゆっくりと振り向いた。
長い黒髪に、深海のような真っ青な瞳。1度見たら忘れるはずのない、美しい顔立ち。
そう、彼女は・・・・
「天宮小夜さん⁉︎」
「今は、泉龍寺小夜ですよ。」
小夜は美しい笑みを浮かべた。2人は唖然としている。彼女はゆっくりと階段を登り、2人の前に立った。
「またよろしくお願いします。江本さん、東堂さん。」
退院した数日後、海里は龍からの電話を取るなり、そう尋ねた。
龍は相変わらずの海里に思わず苦笑いを浮かべ、言葉を続ける。
『ああ。数年前にできた、水嶋大学が事件現場だ。名前を聞いたことは?』
「ありますし、場所も分かりますよ。すぐ向かいますので、少しお待ちください。」
※
水嶋大学の正門に到着すると、赤色灯をつけたパトカーが数台、止まっていた。海里は野次馬を避けて傍へ移動し、他の刑事より頭一つ身長が高い、龍を見つける。
「こんにちは。今日も寒いですね。」
海里も龍も、厚手のコートを羽織っていた。東京なので雪は降っていないが、寒気が収まるのは先である。龍は白い息を吐きながら頷いた。
「まったくだ。稀だが雪も降って、気温も低くなる一方。クリスマスも近・・・・」
龍はそこで言葉を止めた。海里も何も言わず、揃って大学の正門を潜った。
「ねえ、あれ誰・・・?」
「パトカー止まってるし、警察じゃない?」
「え? 何で警察がうちの大学に来るの?」
生徒たちは事件を知らないようだった。不思議に思いながら構内を進むと、大きな校舎の前で、1人の男が2人を出迎えた。
「ようこそいらしてくださいました。学長の水嶋智彦です。ああ、生徒たちは事件を知りませんので、どうかご内密に。」
「内密と言われても・・・難しいです。大学に傷を負って欲しいわけではありませんが、どのような結果であれ、世間の目には触れることは避けられません。皆さんの負担にならないよう、事件後も出来る限りのことはさせて頂きますが・・・・。」
「そんな・・・」
龍は申し訳なさを含みつつ、どこか呆れの混じった声音だった。海里は龍の言葉に内心で納得しつつ、水嶋に尋ねる。
「現場はどこですか? 案内をお願いしても?」
「あ・・・ああ・・すみません。私はこれから仕事がありまして、別の教授に案内を頼んでいます。まだ日が浅い教授ですが、構内は把握しておりますので、問題ありません。」
「分かりました。その教授はどちらに?」
「別室にいます。ご案内しますので、着いて来てください。」
2人は、そう言った水嶋学長の後を歩いた。目の前にある大きな校舎に入り、長い廊下を進む。
構内はとても広く、新しいからか、目立った汚れも少なかった。講義を受けている生徒たちもおり、本当に何も話していないのだと理解した。龍は尋ねる。
「歩きながらの質問で申し訳ありませんが・・・・被害者が亡くなられたのは、いつ頃ですか?」
「恐らく・・・昨日の夜かと。今朝、私が1番早く大学に来まして、校舎の鍵を開け、軽い掃除を兼ねて見回りをしていました。そして、遺体を見つけたんです。初めは人形か、そうでなくとも見間違いかと思ったのですが・・・・」
「本物だったんですね。」
先を言い淀む水嶋に対して、龍は何ともないような声を上げた。水嶋は真っ青な顔で頷く。
「はい・・・。」
絞り出すような声だった。無理もない。民間人が、遺体を見慣れていることなどあり得ない。たった1度、または一瞬目にしただけでも、トラウマになり、健康を害することがあるのだ。
無惨に殺害された遺体が原因で、現場を去った警察官を、龍は見て来た。
「捜査は自由にしてください。しかし、生徒たちは何も知らない。絶対に話を漏らさないよう、お願いしますよ。教授たちにも、不用意に話をしないでください。」
「・・・・善処します。」
龍は絶対的な肯定も否定もしなかっんだ。水嶋は顔を曇らせたが、反論が見つからないのか、口を噤んだ。
長い廊下を経て、講義室に辿り着いた。広い講義室で、数十人は授業が受けられそうだった。縦横に移動する黒板と、多くの座席があり、机と床は白、椅子は茶とシンプルな色合いをしている。左右には大きな窓があり、都会の景色を映し出すとと共に、換気と称して開いている隙間から風の音が聞こえた。
水嶋は視線を教卓に移した。教卓には、窓の外を見つめる1人の女性が立っている。体も視線も斜めなので、はっきりと顔が見えなかった。
「泉龍寺教授、お連れしましたよ。」
「泉龍寺・・・⁉︎」
2人は声を揃えて驚いた。珍しい名字なので、そう多くはないだろう。2人の頭を、猛暑日に起こった事件がよぎる。
泉龍寺と呼ばれた女性は水嶋たちに気付き、返事をした。
「わざわざありがとうございます、水嶋学長。」
「その声・・・あなたは・・まさか・・・‼︎」
海里が息を呑むと、女性はゆっくりと振り向いた。
長い黒髪に、深海のような真っ青な瞳。1度見たら忘れるはずのない、美しい顔立ち。
そう、彼女は・・・・
「天宮小夜さん⁉︎」
「今は、泉龍寺小夜ですよ。」
小夜は美しい笑みを浮かべた。2人は唖然としている。彼女はゆっくりと階段を登り、2人の前に立った。
「またよろしくお願いします。江本さん、東堂さん。」
0
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サイキック・ガール!
スズキアカネ
恋愛
『──あなたは、超能力者なんです』
そこは、不思議な能力を持つ人間が集う不思議な研究都市。ユニークな能力者に囲まれた、ハチャメチャな私の学園ライフがはじまる。
どんな場所に置かれようと、私はなにものにも縛られない!
車を再起不能にする程度の超能力を持つ少女・藤が織りなすサイキックラブコメディ!
※
無断転載転用禁止
Do not repost.
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
恋愛
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる