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Case38.若女将の涙⑦
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呪いの言葉を吐かれたと同義だった。何も気づかなかった私を責めるつもりなどなくとも、自分を責めざるを得ない言葉だった。
美しい笑顔が目に焼き付いて離れなかった。出会ってから今日までの時間の中で、最も美しいとすら思う笑顔。
足跡一つない、陽光に照らされた雪景色を思わせた。息を呑むほど美しい景色が、見たこともないはずなのに頭に浮かぶ。
「由紀恵さん!」
私の声は、彼女に届いただろうか。届いていて欲しい。聴覚は、最期まで残ると聞いたことがあるから。
でも、この声は届かなくていい。何も救うことができなかった、役立たずの私の叫び声は。
ーカイリ『若女将の涙』最終章ー
※
「亡くなった弟・・・⁉︎」
警察官たちは愕然としていた。海里は彼らを一瞥してから、雪美に向き直る。
「名前は、しゅう君・・・でしたね。柊と書いて、しゅう。彼も、渉さんに殺されたのですか?」
海里の質問に雪美は間を開けて答えた。
「・・・・それとこれとは話が違うわ。柊は10年前、旅館の階段から足を滑らせて頭を打って死んだ。ただの事故よ。あの事件とは関係ない。
私は、私の家族を滅茶苦茶にした西渉が許せないだけ。彼1人殺しても気持ちが晴れないから、この子も殺すの」
「本当に良いのですか? あなたは今、自分の家族を滅茶苦茶にした、渉さんが許せないと言った。しかし、あなたがその子を殺せば、自分の手で家族を滅茶苦茶にするのですよ?」
雪美の顔色が変わった。驚いたような、悲しいような、曖昧な表情だった。海里は必死に言葉を続ける。
「梨香子さんには、もう、雪美さんしかいないのですよ? 夫も、息子も失って、あなただけしかいない。あの人が真実に気づいていたかは分かりませんが、あなたが罪を重ねることは、あの人の悲しみに繋がると思いませんか?
少しでもそう思うなら・・・・銃を下ろして、その子と共にこちらへ来てください」
海里が右手を差し出すと、その場が静まり返った。雪美が微かに笑う。
「問題ないわ。母には、以前から絶縁状を渡しているの。旅館が落ち着いたら、好きに暮らして欲しいって言ってるもの」
「・・・・そういう問題じゃないでしょう。分かっているくせに、なぜ誤魔化すのですか? 絶縁したとしても、血の繋がりは消えず、梨香子さんの悲しみは癒えない」
海里は退かなかった。退けなかった。彼の背後で、警察官たちはずっと銃を構えている。今ここで助ければ、銃が煙を吐き出すことはない。血を見ることもない。そう確信していたからこそ、右手を伸ばしたままにしていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。数時間とも思える時間ーーーー恐らくは十数秒に満たない時間ーーーーが経った時、雪美が尋ねた。
「ねえ、海里君。渉が最後に伝えようとした言葉の意味・・・分かった?」
「え? ああ・・・雪美さんが、私を受け入れた理由、ですか?」
「そう。伝えようとしたんでしょ?」
海里は少しの間考えたが、ゆっくりと首を横に振った。
「すみません。分からないです。何度か考えたんですけど・・・・」
雪美が笑った。悲しげな笑みだった。溜息をつき、空を見上げる。
「そうよね。海里君は・・・・そういう人だった。頭が良いのに、いまいち、自分に対しての感情が分かっていない。敏感なのか、鈍感なのか、よく分からなくて、不思議だと思っていた」
「雪美さん・・・?」
雪美がセーフティーを引いた。警察官たちが引き金を引こうとした刹那、彼女は、突然秀を海里に向かって突き飛ばした。
秀が海里の胸に飛び込む形になり、海里は慌てて秀を受け止めた。怪我はしていなかった。
海里はすぐさま警察官の1人に秀を託して雪美を見た。発砲されてしまわないよう、庇うように前へ踏み出しながら。
雪美は笑っていた。名前の通り、雪景色のような美しさを纏った笑みだった。
そして、彼女は消え入るような声で、一言、呟いた。
「大好き」
警察官たちが引き金を引く寸前、雪美は持っていた拳銃で自分の脳天を撃ち抜いた。渉を殺した方法と同じ方法で、彼女は自分の命を奪った。
「雪美さん‼︎」
手を伸ばしたが、届かなかった。雪美は涙と血を流したまま、笑顔を浮かべたまま、体勢を崩し、真っ逆さまに地面へ落ちて行った。
何かが潰れるような、鈍い音がした。瞬間、海里の中で、何かが弾けた。
「あ・・あ・・・あぁぁぁぁぁーーーー‼︎」
咄嗟に駆け出した海里を、五十嵐が必死に止めた。
「ダメです! 落ちますよ!」
「離して・・・離してください! 私は何も・・何もできなかった! 彼女を救えなかったんです! 彼女1人を死なせて、何が残ると言うんですか⁉︎
死なせるつもりなんてなかった・・・救いたかっただけなのに! 昔のように笑い合う時間が欲しかっただけなのに! 私が彼女の気持ちに気づいていれば、何か変わったかもしれないのに! どうして・・・どうして!」
海里は声を荒げ、肩を上下させながら息をし、髪を振り乱しながら屋上の床を殴った。痛みが滲む拳に、冷たい涙が降りかかった。
すると、屋上の扉から人影が現れた。梨香子である。騒ぎを聞きつけて、上がって来たのだろう。
「海里さん。娘は・・・雪美は、どこに?」
海里は答えられなかった。涙を流して叫び、喉が痛くなっていたから。いや、答えを口にすることなど、とてもできなかったから。
梨香子は答えない海里を責めることはせず、ゆっくりと彼の側まで歩き、地面へ視線を落とした。途端に、暗い瞳に一層影がかかる。
「ああ・・・そうですか。あの子も・・・・いなくなってしまったのですね。本当、揃いも揃って親不孝なこと」
梨香子は京都府警に向き直り、深く頭を下げた。10年間の怒りと悲しみを押し殺したかのような、ゾッとするほど美しいお辞儀だった。
「後はよろしくお願いします。わたくしは女将としての、最後の仕事に取り掛からなければなりませんので」
梨香子は振り返ることも、涙を流すこともなかった。彼女は真っ直ぐに背筋を伸ばしたまま、堂々とした足取りで立ち去って行った。
海里は彼女の方を見ることも、口を聞くこともなく、地上で潰れた雪美の遺体を見て、ただ涙を流し続けていた。
※
「龍。これ見た?」
玲央が机に置いたのは月影旅館の事件が載った新聞だった。龍は目を細めながら一瞥し、頷く。
見出しには、
小説探偵・カイリ、見事に事件解決!犯人は苦渋の上、自殺! 京都府警は10年前の誤認逮捕を謝罪‼︎
と大々的に書かれている。
「見事・・・か。その言葉に間違いはないんだろうけれど、彼の抱えた傷や、過去の事件は公にされないんだね。旅館は閉店して、再捜査の話も上がっていないし」
「組織なんてそんなものだろ。都合の悪いことは隠して、葬る。誰かが傷つくなんて考えちゃいない。1人の傷より、組織の顔だ」
「どこもかしこも同じだから否定はしないよ。それで・・・・江本君、大丈夫なの?」
玲央の質問に、龍は眉を顰めた。
「大丈夫なわけが・・・ない。あいつはこれまで、“結果”として事件を見て、解決してきた。
だが今回は、“過程”を見て、人の命が消えるその瞬間を、2度も目の前で目撃した。しかもそのうちの1人が幼馴染みとあったら、気持ちも変わる」
龍の言葉に玲央はすぐ肯定を示した。
「・・・・やっぱりそうか。人の命が消える時を、目撃することは苦しい。俺たちもそんな場面を多く見てきたけれど、元々一般人である彼には、違う風に映ってしまったかもしれないね」
今も一般人だろと言おうとした龍だったが、ふと腕時計に目を落とし、新聞をひっくり返した。
「時間だ」
「うん」
2人は椅子から立ち上がり、警視庁を出た。警視庁の前には、浩史の姿がある。
「急ごう。少し遅れた」
車を走らせて彼らが到着したのは、都内にある墓地だった。3人はそれぞれ別の墓石に歩いて行き、途中で買った花束を添え、手を合わせる。
「やはり、偶然ではないか」
花を添えた後、2人は浩史の元へ移動した。しばらく墓石を見つめた後の彼の言葉に、2人は頷く。
「少なくとも、私はそう思っています。同じ日、同じ時間に、“あんなこと”が起こるなど、普通に考えてあり得ません」
龍の言葉に玲央が続けた。
「3年前のあの日・・・一体なぜ、あんなことになったのか、私たちは調べなければならない。そして、真実が分かったその時はーーーー」
「警察官としての、最後の仕事になるだろうな」
浩史の言葉に2人は頷き、変わらず墓石を見つめ続けた。
「皆さんお揃いですね」
聞き覚えのある声が響いた途端、3人は弾かれるように振り返った。
太陽に照らされて輝く銀髪に、青空のような碧眼の瞳。宝石のように美しい顔立ちが、3人の瞳を射抜いた。
「江本、お前、何でここに・・・・」
「風景描写の参考です。ここは景色がいいので・・・何を考えていても、心が安らぐ気がして」
笑みを浮かべながらも、海里が事件を引き摺っていることはわずかに腫れた両目から分かった。しかし、それでもなお笑う彼に対し、驚きを隠すことはできなかった。
海里は3人の驚きを受けつつ、事件のことには深入りせず、口を開いた。
「皆さんはなぜここに? 同じ日にお墓参りなんて、気が合うんですね」
「・・・・まあな。お前も元気そうでーーーー」
話題を変えようと龍が声を上げたが、海里はすぐさま続けた。
「何の事件を追っているのですか? 少し話が聞こえました」
その瞬間、3人の顔色が変わった。龍と玲央が浩史を横目で見ると、彼は困ったような笑みを浮かべる。
「君が知ることではないよ。これは私たちの問題だ。君は何も気にせず、自分のやりたいことをやってくれ」
以前家族の話をした時の龍と同じ、拒絶の意が感じられた。しかし海里は、決して首を縦には振らなかった。
「・・・・分かりました。でも私は諦めが悪いので、何度でもお聞きしますよ」
美しい笑顔が目に焼き付いて離れなかった。出会ってから今日までの時間の中で、最も美しいとすら思う笑顔。
足跡一つない、陽光に照らされた雪景色を思わせた。息を呑むほど美しい景色が、見たこともないはずなのに頭に浮かぶ。
「由紀恵さん!」
私の声は、彼女に届いただろうか。届いていて欲しい。聴覚は、最期まで残ると聞いたことがあるから。
でも、この声は届かなくていい。何も救うことができなかった、役立たずの私の叫び声は。
ーカイリ『若女将の涙』最終章ー
※
「亡くなった弟・・・⁉︎」
警察官たちは愕然としていた。海里は彼らを一瞥してから、雪美に向き直る。
「名前は、しゅう君・・・でしたね。柊と書いて、しゅう。彼も、渉さんに殺されたのですか?」
海里の質問に雪美は間を開けて答えた。
「・・・・それとこれとは話が違うわ。柊は10年前、旅館の階段から足を滑らせて頭を打って死んだ。ただの事故よ。あの事件とは関係ない。
私は、私の家族を滅茶苦茶にした西渉が許せないだけ。彼1人殺しても気持ちが晴れないから、この子も殺すの」
「本当に良いのですか? あなたは今、自分の家族を滅茶苦茶にした、渉さんが許せないと言った。しかし、あなたがその子を殺せば、自分の手で家族を滅茶苦茶にするのですよ?」
雪美の顔色が変わった。驚いたような、悲しいような、曖昧な表情だった。海里は必死に言葉を続ける。
「梨香子さんには、もう、雪美さんしかいないのですよ? 夫も、息子も失って、あなただけしかいない。あの人が真実に気づいていたかは分かりませんが、あなたが罪を重ねることは、あの人の悲しみに繋がると思いませんか?
少しでもそう思うなら・・・・銃を下ろして、その子と共にこちらへ来てください」
海里が右手を差し出すと、その場が静まり返った。雪美が微かに笑う。
「問題ないわ。母には、以前から絶縁状を渡しているの。旅館が落ち着いたら、好きに暮らして欲しいって言ってるもの」
「・・・・そういう問題じゃないでしょう。分かっているくせに、なぜ誤魔化すのですか? 絶縁したとしても、血の繋がりは消えず、梨香子さんの悲しみは癒えない」
海里は退かなかった。退けなかった。彼の背後で、警察官たちはずっと銃を構えている。今ここで助ければ、銃が煙を吐き出すことはない。血を見ることもない。そう確信していたからこそ、右手を伸ばしたままにしていた。
どのくらいの時間が経ったのだろう。数時間とも思える時間ーーーー恐らくは十数秒に満たない時間ーーーーが経った時、雪美が尋ねた。
「ねえ、海里君。渉が最後に伝えようとした言葉の意味・・・分かった?」
「え? ああ・・・雪美さんが、私を受け入れた理由、ですか?」
「そう。伝えようとしたんでしょ?」
海里は少しの間考えたが、ゆっくりと首を横に振った。
「すみません。分からないです。何度か考えたんですけど・・・・」
雪美が笑った。悲しげな笑みだった。溜息をつき、空を見上げる。
「そうよね。海里君は・・・・そういう人だった。頭が良いのに、いまいち、自分に対しての感情が分かっていない。敏感なのか、鈍感なのか、よく分からなくて、不思議だと思っていた」
「雪美さん・・・?」
雪美がセーフティーを引いた。警察官たちが引き金を引こうとした刹那、彼女は、突然秀を海里に向かって突き飛ばした。
秀が海里の胸に飛び込む形になり、海里は慌てて秀を受け止めた。怪我はしていなかった。
海里はすぐさま警察官の1人に秀を託して雪美を見た。発砲されてしまわないよう、庇うように前へ踏み出しながら。
雪美は笑っていた。名前の通り、雪景色のような美しさを纏った笑みだった。
そして、彼女は消え入るような声で、一言、呟いた。
「大好き」
警察官たちが引き金を引く寸前、雪美は持っていた拳銃で自分の脳天を撃ち抜いた。渉を殺した方法と同じ方法で、彼女は自分の命を奪った。
「雪美さん‼︎」
手を伸ばしたが、届かなかった。雪美は涙と血を流したまま、笑顔を浮かべたまま、体勢を崩し、真っ逆さまに地面へ落ちて行った。
何かが潰れるような、鈍い音がした。瞬間、海里の中で、何かが弾けた。
「あ・・あ・・・あぁぁぁぁぁーーーー‼︎」
咄嗟に駆け出した海里を、五十嵐が必死に止めた。
「ダメです! 落ちますよ!」
「離して・・・離してください! 私は何も・・何もできなかった! 彼女を救えなかったんです! 彼女1人を死なせて、何が残ると言うんですか⁉︎
死なせるつもりなんてなかった・・・救いたかっただけなのに! 昔のように笑い合う時間が欲しかっただけなのに! 私が彼女の気持ちに気づいていれば、何か変わったかもしれないのに! どうして・・・どうして!」
海里は声を荒げ、肩を上下させながら息をし、髪を振り乱しながら屋上の床を殴った。痛みが滲む拳に、冷たい涙が降りかかった。
すると、屋上の扉から人影が現れた。梨香子である。騒ぎを聞きつけて、上がって来たのだろう。
「海里さん。娘は・・・雪美は、どこに?」
海里は答えられなかった。涙を流して叫び、喉が痛くなっていたから。いや、答えを口にすることなど、とてもできなかったから。
梨香子は答えない海里を責めることはせず、ゆっくりと彼の側まで歩き、地面へ視線を落とした。途端に、暗い瞳に一層影がかかる。
「ああ・・・そうですか。あの子も・・・・いなくなってしまったのですね。本当、揃いも揃って親不孝なこと」
梨香子は京都府警に向き直り、深く頭を下げた。10年間の怒りと悲しみを押し殺したかのような、ゾッとするほど美しいお辞儀だった。
「後はよろしくお願いします。わたくしは女将としての、最後の仕事に取り掛からなければなりませんので」
梨香子は振り返ることも、涙を流すこともなかった。彼女は真っ直ぐに背筋を伸ばしたまま、堂々とした足取りで立ち去って行った。
海里は彼女の方を見ることも、口を聞くこともなく、地上で潰れた雪美の遺体を見て、ただ涙を流し続けていた。
※
「龍。これ見た?」
玲央が机に置いたのは月影旅館の事件が載った新聞だった。龍は目を細めながら一瞥し、頷く。
見出しには、
小説探偵・カイリ、見事に事件解決!犯人は苦渋の上、自殺! 京都府警は10年前の誤認逮捕を謝罪‼︎
と大々的に書かれている。
「見事・・・か。その言葉に間違いはないんだろうけれど、彼の抱えた傷や、過去の事件は公にされないんだね。旅館は閉店して、再捜査の話も上がっていないし」
「組織なんてそんなものだろ。都合の悪いことは隠して、葬る。誰かが傷つくなんて考えちゃいない。1人の傷より、組織の顔だ」
「どこもかしこも同じだから否定はしないよ。それで・・・・江本君、大丈夫なの?」
玲央の質問に、龍は眉を顰めた。
「大丈夫なわけが・・・ない。あいつはこれまで、“結果”として事件を見て、解決してきた。
だが今回は、“過程”を見て、人の命が消えるその瞬間を、2度も目の前で目撃した。しかもそのうちの1人が幼馴染みとあったら、気持ちも変わる」
龍の言葉に玲央はすぐ肯定を示した。
「・・・・やっぱりそうか。人の命が消える時を、目撃することは苦しい。俺たちもそんな場面を多く見てきたけれど、元々一般人である彼には、違う風に映ってしまったかもしれないね」
今も一般人だろと言おうとした龍だったが、ふと腕時計に目を落とし、新聞をひっくり返した。
「時間だ」
「うん」
2人は椅子から立ち上がり、警視庁を出た。警視庁の前には、浩史の姿がある。
「急ごう。少し遅れた」
車を走らせて彼らが到着したのは、都内にある墓地だった。3人はそれぞれ別の墓石に歩いて行き、途中で買った花束を添え、手を合わせる。
「やはり、偶然ではないか」
花を添えた後、2人は浩史の元へ移動した。しばらく墓石を見つめた後の彼の言葉に、2人は頷く。
「少なくとも、私はそう思っています。同じ日、同じ時間に、“あんなこと”が起こるなど、普通に考えてあり得ません」
龍の言葉に玲央が続けた。
「3年前のあの日・・・一体なぜ、あんなことになったのか、私たちは調べなければならない。そして、真実が分かったその時はーーーー」
「警察官としての、最後の仕事になるだろうな」
浩史の言葉に2人は頷き、変わらず墓石を見つめ続けた。
「皆さんお揃いですね」
聞き覚えのある声が響いた途端、3人は弾かれるように振り返った。
太陽に照らされて輝く銀髪に、青空のような碧眼の瞳。宝石のように美しい顔立ちが、3人の瞳を射抜いた。
「江本、お前、何でここに・・・・」
「風景描写の参考です。ここは景色がいいので・・・何を考えていても、心が安らぐ気がして」
笑みを浮かべながらも、海里が事件を引き摺っていることはわずかに腫れた両目から分かった。しかし、それでもなお笑う彼に対し、驚きを隠すことはできなかった。
海里は3人の驚きを受けつつ、事件のことには深入りせず、口を開いた。
「皆さんはなぜここに? 同じ日にお墓参りなんて、気が合うんですね」
「・・・・まあな。お前も元気そうでーーーー」
話題を変えようと龍が声を上げたが、海里はすぐさま続けた。
「何の事件を追っているのですか? 少し話が聞こえました」
その瞬間、3人の顔色が変わった。龍と玲央が浩史を横目で見ると、彼は困ったような笑みを浮かべる。
「君が知ることではないよ。これは私たちの問題だ。君は何も気にせず、自分のやりたいことをやってくれ」
以前家族の話をした時の龍と同じ、拒絶の意が感じられた。しかし海里は、決して首を縦には振らなかった。
「・・・・分かりました。でも私は諦めが悪いので、何度でもお聞きしますよ」
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