知られてしまった場所

城 依見

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ストーカー

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 私は何も悪くない。
 少しばかり話をすることに長けているだけのことで、あいつが勝手に私に好意を抱いていても
そんなこと知ったことじゃあない。初めはただの郵便配達員である、どことなく気持ち悪いかんじの
小柄な男が馴れ馴れしくも私の郵便物に対して、
「これは出版社の者ですね、、なにか投稿しているのですか」
 と、聞いてきたことから始まる。
 私は別にどうでもいいので、ああ、とか、はあなどという返事を返したと記憶している。
 そのうち、郵便で簡単に原稿が送れたりするパックを注文したり、出版社からの郵便を配達する
その男はだんだんと私に興味を示してきた。何度も聞かれるのでうざいと感じて追い出してしまえば
良かった。そうすればこのようなことにはならなかったと思う。
「私は小説を書いているの」
 なぜそれを言ってしまったのだろうか。
 言わなくとも、そいつは自分の趣味を見せたくてうずうずしていたはずだ。
「僕は俳句をやっているんです。これ、どうですかね」
 ポケットから、私物のスマホを出すとあまりどうでもいいような俳句が羅列されていた。
 私は、コンテストで高校の時に学校で賞をとったことがあるので、それはどれも駄作だと
分かってしまっていた。三年間高校の文芸部で有名な先生が顧問だったために、私は小説を書く前に
俳句の勉強もしていたのだ。
 まず、季語が含まれていない。
 自由な最近の俳句か短歌のつもりなのだろうが、出版経験のある私にとってこんなものは
どうでもいいもの。返事に困っていた。つまらない。しかし、そうは言えない。
「あ、いいんじゃない」
 作り笑顔でとにかくその場を収める。
 早く帰らないだろうか……。
 私が焦れているとスマホをしまって郵便局員はようやくバイクに乗ってどこかへ行った。


 それからしばらくすると、書留の封筒が破れているものを配達するそのふざけた郵便局員に
私は本局に電話をしてその郵便を受け取り拒否して返した。しどろもどろで挙動不審な姿に寒気がした。
まるで学校で怒られている小学生のようで恐ろしく見苦しいもので、おぞましかった。
 書留を自分のミスで濡らしてしまうという行為は、客に見せる前に局内に持ち帰り、上司に相談して
判断を仰ぐのが本来あるべき姿だと私は思っていた。
 次は二か月開けずにAmazonで注文した、書籍のパッケージが破れている。
「またあいつだ」
 私はポストの中から取り出したそのパッケージを見ながら郵便局に電話をしていた。
 調べた結果、配達したのはあいつだった。
 係長が謝罪にきたが私の出した結論はあいつを私のポストに投函する担当から外すことだった。
 相手は何度も頭を下げながらそれを受け入れた、はずだった。
 だがしかし、それからも二回ほど三年のうちにやってきては、お元気でしたかなどという。
 玄関のベルを鳴らすので対応するしか方法はなかった。しかし、親しげに言葉を投げるが
私はそれを取り合うことはせずに無言でドアを閉めた。

 しかし、最悪の事件が私を襲う。
 小説の作業のために借り換えをしたばかりのきれいなマンションの部屋の引っ越しが済んだばかりの
頃に公共料金の用紙が投函されるということで、届を出したのが間違いのもとだった。
 私は何も間違いを犯してはいないし、すべきことを淡々とこなしてきただけなのにと悔しい思いでいっぱい
になってしまった。
 
 配置転換で違う場所に変わったと聞いていたはずのあいつが、マンションのベルを押す。
 まさか。
 嘘だろう。なんで?
 インターホンに返事をすると、
「前に住んでいた楠木優という人の郵便のことで……」
 ドアを開けるとあろうことかあいつが立っている。
「ああ、この前にも来ましたが、ここはいい場所ですね。ここにハンコをお願いします」
 私は差し出された用紙を見ると許諾届とある、楠木という人物が転居届を出していないので、私に
拒否するための印鑑をくれと言う。
 この男は自分の仕事を正確に覚える気がないようだと私は思った。
 だがそれは違っていた。
 確かに物覚えが悪いのもあるだろうが、あとで調べると担当を外されているにも関わらず、私の地区の
処理をした理由を尋ねられて上司の前に泣いたと電話で報告を受けた。あり得ないと私は絶句した。

 しかし、この後更に行政区を配置転換されたにも関わらず、マンションのインターホンを押すあいつの
姿を見たときは驚愕した。これは、もうだめだ。
 今回のマンションは警備保障会社と契約していたので迷わずに通報というボタンを押していた。
 郵便局の制服を着ているので仕事のつもりなのだろうが、絶対にドアを開けることはしてはならないと
思っていた、何を次は配達するつもりなのか。私と関りを持とうとすることに体が震えた。
やがて、警備会社の隊員が二名到着してドアの外ではばたばたという音がしていた。私は奥の部屋で一人きりで
震えていた。インターホンが再び押されて警備会社の人が立っていた。

「郵便を配達に来たと言いますが」
「いいえ、その人は担当を外されて他の地区を担当しています。ストーカーです」
「えっ? そうなのですか」
「はい、部屋の周りを調べてください」
 私がお願いすると、裏側に回った隊員がいるであろうウラの窓を開けるとそこには脚立が置いてあった。
「これはあなたのものですか」
「いいえ違います」

 恐ろしいことに後日分かることだが、あいつは郵便局をやめていた。
 私はマンションに警備保障会社が管理していることを知っていたから、なんともないと思ってはいなかった。
 高枝切鋏を購入していた、たとえどんなことがあったとしても、確実に仕留めるつもりでいたからだ。


 私はこの日のうちに、マンションの管理会社に電話をしてこのマンションの解約を申し出た。
 理由は警備会社から聞いて欲しいと言った。この日から次のマンションを探すつもりだったが、すでに
この街を出て隣の街に次の仕事場を探すつもりであった。そこまでしてもあいつがまた現れたら私は何を
するかは決めていた。
 制服を着た悪魔は確実に仕留めるつもりだ。

                                了
 
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オズ研究所《横須賀ストーリー紅白へ》

また読ませて戴きます✨🤗✨✨✨

解除

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