できそこない

梅鉢

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 冷静な頭であれこれ考えていると背中を這っていた手が首筋へと移動した。項を冷たい指の腹で上下に撫でられて全身に鳥肌がたった。何かしらの意思が感じられたからだ。
 セックスの最中に項を噛まれてしまえば番になる。そう言えば自分は快感に溺れてしまって忘れていたがΩの発情期に中てられたαも理性が飛んでしまい、セックスの最中に自分の意思に反してΩの項を噛んでしまうことが多々あると習った。
 深町との行為の前半は今井もおぼろげであるが、深町はずっと冷静だったように思う。自分ばかりが乱されていた。

 αを乱すことも出来ないのはやはり自分体のせいか。分かっていたことなのに、噛まれたかったわけじゃないのに情けなさがこみ上げる。涙がでては深町の体を濡らしてしまいバレてしまう。こんな自分を見られたくない。

「あ、ありがと深町。本当に助かった」

 深町の体に手を付き、体を起こす。精一杯の明るい声を出したが語尾が小さくなった。
 ガクガクと震える膝を立て、未だ自分の中にいる深町を抜いた。萎えてもそれなりの質量を誇るものだから思わず眉を顰めてしまう。
 何も言わずに一連の動作を眺めていた深町だったが、今井がベッドから降りようとしたところで離れてゆく腕を取った。思い切り引っ張り、またベッドへと今井の体を沈ませる。先ほどと違うのは、今井はうつ伏せの状態で深町に圧し掛かられているということだ。シーツに顔を埋めているせいで深町の顔が見えない。自分を見られなくて好都合だが、深町がどんな表情をしているのか分からなくて不安になった。

「ちょ、痛いし。深町、もういいよ。ごめん、本当に助かったから」
「なんかさ。みのるって何も分かってないよね、俺のこと」
「え? 深町のことって、……なに、なんのこと」
「何も感じないわけ」
「何も感じないって……」

 あれほど感じたのに何が言いたいのだろう。今井は深町の言わんとしていることが分からない。
 背中から舌打ちが聞こえ身構えてしまう。普段深町から舌打ちなど聞いたこともないしイラだった様子も感じたことがない。優しくて、時々冗談を言っては笑わせてくれる笑顔が眩しい深町しか知らない。
 なぜ怒らせてしまったのか、何が悪かったのかを考えてしまった。それが余計な思考とも分からない。

 今井から退いた深町は閉じられた両足を開かせ、体を割りいれる。
 筋肉のついた決して柔らかじゃない尻に脈打つものを感じた。まさかまだするのかと驚きで肘を突いて振り返ろうとするがその前に頭を押さえつけられシーツへと戻された。
 乱暴な仕草も初めてのことで頭がフリーズしてしまう。

「あのさ、俺はαなんだよね。分かってる?」

 分かっているも何も、分かっているから助けてくれとお願いしたのだ。
 グズグズになっている窄まりを先端で上下に擦られる。落ち着いたはずの熱は今すぐにでもよみがえりそうだった。

「俺もさ昨日と今日、抑制剤を飲んでいないんだよね。はい、四つんばいになって」
「えっ」
「早く」

 尻を持ち上げられ、今井は仕方なく手をついて体を起こす。もう力の入らない腕は震えていまにも崩れそうだ。それに後ろには深町がいる。あられもない姿を晒し、セックスをしたにも関わらず恥ずかしさで消えてしまいたくなる。
 たらりと腿を伝う粘度の高い液体を指で拭われ、熱が集まり始めていた中心は硬さを取り戻す。

「せっかく入れたのにでてきたな」
「はぁ……っ」
「まだまだあげるからしかっかり飲んでね」
「あうっ!」
「……はぁ。絡み付く……」
「んぅ、んっ、も、もうムリッ」

 ゆっくりと味わうようねじ込まれた。
 足腰も立たないのに、頭もぐちゃぐちゃなのに今井の陰茎はしっかりと主張をしていた。屹立したモノが揺れるたび先走りがシーツに染みを作った。
 無理だと思っていたのに。それなのに深町が体に入ってくると次から次へと快感が這い上がってくる。底なしのようだった。
 快感に支配された今井は体を支えられず上半身が崩れ落ちた。尻だけを高くした状態で深町に貫かれる。
 卑猥な音を鳴らす孔からは泡立った精液が溢れていた。

 快感だけを追い求めているとふと律動が緩いものになった。無意識に腰を揺らして淫らに誘うが、激しいものは襲ってこなかった。
 もどかしい気持ちでいるとすらりと伸びた指先が背中をなで上げた。襟足の長い今井の、露になった項にまた触れられて全身が総毛立つ。

「っ……!」
「ココ弱いの?」

 ギュッとシーツを掴み、口が開かないよう下唇を噛みしめ耐えた。
 うっかり「噛んで」と言ってしまいそうな自分。驚きは唖然とするものでしかなかった。何を考えてそんなことを深町に言えるだろうか。こうやって抱いてもらえるだけで十分ではないか。本能なのかなんなのか。浅ましいにもほどがある。
 そんな今井を知ってか知らずか、深町は項を撫でるのを止めない。腰のグラインドに合わせて上下左右と好きに項を弄る。

 もう気が遠くなりそうだった。
 朦朧となる意識の中、絶対言わないと、それだけを覚悟し深町に溺れていった。





 自分の体を触る感触で目が覚める。一度目を閉じ、またゆっくりと瞼を上げた。見慣れた部屋。薄明かりがカーテンの隙間から零れているからそろそろ夜明けなのだろう。あれから時間がどれくらいだったのかも分からない。
 しかし何度も深町を受け入れたのでずいぶんと頭はスッキリしていた。
 が、体はどろどろに疲れている。指を動かすのも難儀だった。すべてが初めてのこととあってかなり酷使したはずだから仕方ないのかもしれない。
 ぴったりと自分の背中に張り付くように深町も横になっていた。
 そして後孔に感じる違和感と深町とは違いそれほど筋肉のない薄い腹を撫でる手に意識がいく。

 今井の体の奥にはまだ深町がいた。形は萎えているようだがもうちぎれちゃうんじゃないだろうかと少し心配になる。
 そして腹部を撫でる手。行為のときは冷たかった深町の手は暖かく、慈しむような手つきにまた泣きたくなった。どうしてこんなことをするのだろう。
 そんなに孕んで欲しいのか。孕ませてどうするつもりか、番になる気もないだろうに。孕ませるだけ孕ませて捨てる気だろうか。セックスをするまで深町は本当にいい友人だったと思う。思いやりだってあった。でも今日の行為では乱暴な姿も見れたし知らない深町がいたのも事実。
 深町が分からない。

 自分が起きていることはきっとバレていない。今井は溢れる涙を拭えずそっと目を閉じた。
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