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第五章
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どうしよう、とよく分からない現状にさっさと南が飽きますようにと祈っていると後ろからガチャリとドアの開く音がした。なんとグッドタイミング。
すぐ傍で聞こえたものはきっと吉岡だ。と言ってもこんな南に後ろから覆われるような格好でしかも髪の毛を掴まれている浮気現場のような情けないようなところを吉岡に見られたいわけじゃないけど、でもこの状況から抜け出せるのなら仕方ない。
「……副会長。それ俺のですけど」
俺からは南に阻まれて吉岡が見えない。身動きも出来ない。吉岡もこの状況をいまいち分かっていないのか言葉を掛けるまで少し時間があった。
でも俺をソレ呼ばわりするのはどうなの。
「知ってるよ、ショウマ君」
俺の背中から体温が消える。南が振り返ったのだろうか。ついでに手を離して欲しい。
「い、痛いから離せっ」
「ということらしいので離してください」
「お前らは本当にウザいよね」
スッと手を離され、変な角度で曲がっていた首を直した。体にも負担が合ったようで肩が痛い。それに引っ張られたところがむずむずして頭を撫でながら俺も振り返った。
体は俺に向き、顔だけを吉岡に向けていた南はひどく冷たい視線を吉岡に送っていた。しかし吉岡もどこ吹く風。涼しい顔で受け止めている。
「吉岡さ~佐野をオンナにしたいんでしょ。いいわけ、そんなんで」
「や、あほか。誰がオンナだ」
「佐野は煩いから黙ってて。なあ吉岡」
ちらっと流し目でけん制されて口は貝のように閉ざしてしまう。素直に従ってしまう何かを南は持っていた。
「佐野がお前のオンナになったら、単純で純朴なコイツはもとには戻れないけど」
俺の話だよな。単純、純朴とはあまり誉められてはいない気もするけど、南に比べたらその通りだとは思う。
しかし俺の話なのに俺は黙ってなきゃいけないのか。何故だ。もとに戻れないってか、俺はまだオンナでもないし。これから先は考えたくないけどなんかもう流れに任せようかなとも思えてきたというのに、いや、なんでこんなところで他人にそんな心配をされているんだ。そんなもんは当事者で任せたらいいじゃないか。
だが腹に据えるだけで南の言う通りひたすら我慢して黙っていた。
「答えろ、吉岡。お前はなんでそんなに能天気なんだよ」
「……責任取るつもりでもいます」
いつになく真剣な表情で吉岡が言い、なぜかドキドキしてしまう。なんの責任をとってくれるんだ。なんだろう、嬉しい。
「はあ。つもり、ね」
「……俺のすべてを捧げるつもりでもいます。一応三男なんで」
「つもり、だろ」
呆れ顔の南はやれやれといった風に肩を竦めた。しかし「副会長がそう出来ないからって八つ当たりされても困ります」と言う吉岡の一言で南の雰囲気が一気に尖ったものになった。
「……あ?」
まさに一発触発。廊下にピリッとした空気が流れる。こんな空気に馴染みのない俺ですらやばそうだと知る。
もしやりあったらどっちが勝つんだ。吉岡を応援したいけど南も並みの強さじゃない。この自信は強さとキレイに比例する。
ハラハラとしていると、目の前にいた南の手がスッと伸びてきて反射的に腕を顔の前でクロスしてガードしようとするが、それより早く髪の毛を捕まえられた。殴られるわけではなかったようだが、こっちを見ていなかったというのに、恐ろしいやつだ。
「佐野」
グッと髪の毛をまた持ち上げられ、南の方に引っ張られる。その勢いのまま南に抱き止められ、唇を噛まれた。
「いっ!」
「佐野さんっ」
吉岡が近寄ってくると同時に南に突き飛ばされた。吉岡にぶつかるように、わざと。
「ふふ、血が出てる。手当てしてもらいなね。そして傷見てせいぜいイライラしてね」
「……お前は!」
「佐野さん」
俺の怒りを諌めるように、吉岡が後ろからぎゅっと抱き締めてきた。
でもあのヤローには一発見舞いたいくらいなんだ、本当に。10倍に返されたとしても。
さっきまでの尖った空気を消し、いつもの茶化すような薄笑いの南は「その傷に免じて八つ当たりはやめてあげる」と捨て台詞のようなものを吐いてまたエレベーターへと足を進めた。さっきエレベーターでここに来たくせに。一体何をしに来たのだ。
南の姿が見えなくなったところでようやく俺は肩の力を抜いて大きく息を吐いた。わけの分からないときの南と対峙するのは精神的な負担が半端ない。いや、肉体的にも頭皮的にも負担が……。
俺でストレス発散するのはもういい加減にしてほしい。
「大丈夫ですか。……血が出てる」
「うん、まぁ。痛いけど犬に食われたと思うことにするよ」
「最近副会長機嫌悪そうでしたもんね、災難です」
「あーそうなんだ。あいつの機嫌は波がありすぎて分かんね」
「でも今のは佐野さんの心配もしてくれていましたね」
「はー? 微塵も感じないけど」
「まぁ、やり方はへたくそだと思いますが。それより部屋で休みましょう。どうぞ」
「そーするわ」
エスコートされるがまま吉岡の部屋へと連れて行かれ、ソファにごろ寝だ。
俺はこうして待っているだけで御飯が出てきちゃうというというすばらしいシステム。別にこれが目あてなわけじゃないが、これありきの吉岡でもある。尽くされるのは楽でいい。北村に言わせると生徒会室イチの我がまま属性を持っているという俺であるから、そんな俺を好きになった吉岡も運のつきである。
すぐ傍で聞こえたものはきっと吉岡だ。と言ってもこんな南に後ろから覆われるような格好でしかも髪の毛を掴まれている浮気現場のような情けないようなところを吉岡に見られたいわけじゃないけど、でもこの状況から抜け出せるのなら仕方ない。
「……副会長。それ俺のですけど」
俺からは南に阻まれて吉岡が見えない。身動きも出来ない。吉岡もこの状況をいまいち分かっていないのか言葉を掛けるまで少し時間があった。
でも俺をソレ呼ばわりするのはどうなの。
「知ってるよ、ショウマ君」
俺の背中から体温が消える。南が振り返ったのだろうか。ついでに手を離して欲しい。
「い、痛いから離せっ」
「ということらしいので離してください」
「お前らは本当にウザいよね」
スッと手を離され、変な角度で曲がっていた首を直した。体にも負担が合ったようで肩が痛い。それに引っ張られたところがむずむずして頭を撫でながら俺も振り返った。
体は俺に向き、顔だけを吉岡に向けていた南はひどく冷たい視線を吉岡に送っていた。しかし吉岡もどこ吹く風。涼しい顔で受け止めている。
「吉岡さ~佐野をオンナにしたいんでしょ。いいわけ、そんなんで」
「や、あほか。誰がオンナだ」
「佐野は煩いから黙ってて。なあ吉岡」
ちらっと流し目でけん制されて口は貝のように閉ざしてしまう。素直に従ってしまう何かを南は持っていた。
「佐野がお前のオンナになったら、単純で純朴なコイツはもとには戻れないけど」
俺の話だよな。単純、純朴とはあまり誉められてはいない気もするけど、南に比べたらその通りだとは思う。
しかし俺の話なのに俺は黙ってなきゃいけないのか。何故だ。もとに戻れないってか、俺はまだオンナでもないし。これから先は考えたくないけどなんかもう流れに任せようかなとも思えてきたというのに、いや、なんでこんなところで他人にそんな心配をされているんだ。そんなもんは当事者で任せたらいいじゃないか。
だが腹に据えるだけで南の言う通りひたすら我慢して黙っていた。
「答えろ、吉岡。お前はなんでそんなに能天気なんだよ」
「……責任取るつもりでもいます」
いつになく真剣な表情で吉岡が言い、なぜかドキドキしてしまう。なんの責任をとってくれるんだ。なんだろう、嬉しい。
「はあ。つもり、ね」
「……俺のすべてを捧げるつもりでもいます。一応三男なんで」
「つもり、だろ」
呆れ顔の南はやれやれといった風に肩を竦めた。しかし「副会長がそう出来ないからって八つ当たりされても困ります」と言う吉岡の一言で南の雰囲気が一気に尖ったものになった。
「……あ?」
まさに一発触発。廊下にピリッとした空気が流れる。こんな空気に馴染みのない俺ですらやばそうだと知る。
もしやりあったらどっちが勝つんだ。吉岡を応援したいけど南も並みの強さじゃない。この自信は強さとキレイに比例する。
ハラハラとしていると、目の前にいた南の手がスッと伸びてきて反射的に腕を顔の前でクロスしてガードしようとするが、それより早く髪の毛を捕まえられた。殴られるわけではなかったようだが、こっちを見ていなかったというのに、恐ろしいやつだ。
「佐野」
グッと髪の毛をまた持ち上げられ、南の方に引っ張られる。その勢いのまま南に抱き止められ、唇を噛まれた。
「いっ!」
「佐野さんっ」
吉岡が近寄ってくると同時に南に突き飛ばされた。吉岡にぶつかるように、わざと。
「ふふ、血が出てる。手当てしてもらいなね。そして傷見てせいぜいイライラしてね」
「……お前は!」
「佐野さん」
俺の怒りを諌めるように、吉岡が後ろからぎゅっと抱き締めてきた。
でもあのヤローには一発見舞いたいくらいなんだ、本当に。10倍に返されたとしても。
さっきまでの尖った空気を消し、いつもの茶化すような薄笑いの南は「その傷に免じて八つ当たりはやめてあげる」と捨て台詞のようなものを吐いてまたエレベーターへと足を進めた。さっきエレベーターでここに来たくせに。一体何をしに来たのだ。
南の姿が見えなくなったところでようやく俺は肩の力を抜いて大きく息を吐いた。わけの分からないときの南と対峙するのは精神的な負担が半端ない。いや、肉体的にも頭皮的にも負担が……。
俺でストレス発散するのはもういい加減にしてほしい。
「大丈夫ですか。……血が出てる」
「うん、まぁ。痛いけど犬に食われたと思うことにするよ」
「最近副会長機嫌悪そうでしたもんね、災難です」
「あーそうなんだ。あいつの機嫌は波がありすぎて分かんね」
「でも今のは佐野さんの心配もしてくれていましたね」
「はー? 微塵も感じないけど」
「まぁ、やり方はへたくそだと思いますが。それより部屋で休みましょう。どうぞ」
「そーするわ」
エスコートされるがまま吉岡の部屋へと連れて行かれ、ソファにごろ寝だ。
俺はこうして待っているだけで御飯が出てきちゃうというというすばらしいシステム。別にこれが目あてなわけじゃないが、これありきの吉岡でもある。尽くされるのは楽でいい。北村に言わせると生徒会室イチの我がまま属性を持っているという俺であるから、そんな俺を好きになった吉岡も運のつきである。
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