生徒会書記長さん

梅鉢

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第五章

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吉岡の口を塞いでいた手に吉岡の手が重なる。捕まれた手はゆっくりと離されてシーツに縫い付けられた。
現れた吉岡の形のいい唇。

「好きです」

目の前の吉岡は目を細め、ふわりとした笑顔を向けてくる。
口を半開きにしてアホ面晒しているだろう俺は吉岡が放った“好き”という言葉を脳内でリピートしていた。

すき、すき、すき

ヤりたいがために騙されていないだろうか。
大抵の男ならこの状況で「好き」と言ってヤらせてもらうだろう。言葉なんて安いものだ。簡単だ。健全な男子高校生なら目の前に性的対象がいたら相手の欲しい言葉くらいならなんだって言えるだろう。男なんて所詮そんな悲しい生き物だ。

好きと言われてもどこか逃げ道を用意して傷つかないようにしてしまう。これが真剣なものなら本当に失礼な話なわけだし、底の方には信じたい気持ちしかない。

吉岡がずーっと優しい笑顔でいてくれるから、目を逸らさずにいてくれるから、信じてもいいんだよな。

「誰かを好きになったことがないので分かりませんけど、きっと、俺は佐野さんを好きなんでしょうね」

似たもの同士かよ。

「……俺も誰かを好きになったことないから恋愛感情がいまいちなんだけど……でも、お前がバスケ部のやつと一緒にいるところを見て苛々したんだ」
「焼き餅ですか?」
「……認めたくなかったけど」
「認めたんですか」

本当に嬉しそうに笑う吉岡は少し幼く見えて、初めてかわいいとさえ感じた。そしてなんでか涙が出そうになっているあたり俺はこんなに情緒不安定だったかと苦笑した。
瞬きをしたら右目から一すじ、涙が伝う。思っていた以上に眼のふちにたまっていたらしい。
それを見た吉岡は少し困ったように首を傾げた。

別に悲しいわけでもなんでもねーよ。

いつもより表情豊かな吉岡がやっぱりかわいいと思えて、目の前の困っている年下野郎の首根っこを捕まえて引き寄せた。
唇を合わせる。
吉岡の唇は少し冷たくて熱くなっている俺には気持ち良かった。

「アイツの家と近所なので幼馴染みというか腐れ縁のようなもので、……そうですね、今では弟みたいなものです」

頬にキスをされ、白崎について話をしてくれた。
ただのクラスメイト、幼馴染みにしては俺に対して敵認定してる風だけど。でもそれを言ったらなんだか自分が情けなる気もして言いたいことは飲み込んだ。

「吉岡に気がありそうな雰囲気感じたけど、幼馴染みなのか」
「あー、まあ、そうですね。何度か告白は受けていましたけど好きにはなれないので断っていました」
「やっ……」

やっぱり、という言葉を途中で飲み込み、なぜ断ったのか聞いてみた。吉岡は少し驚いたように眉を上げた。

「なぜって、弟のような相手に恋愛なんて考えられないでしょう。まず欲情なんて出来ませんね」

もっともな話しでもある。それでも諦めきれなくて白崎は一緒にいるのか。
ちょっとだけかわいそうにも思えてくるから不思議なもんだ。
いや、それは吉岡が俺のことを好きと言ったから気持ちの余裕で生まれたものだな。

「吉岡がなにも思ってないのならいいんだ」
「……最近、アイツと食堂にいたのも佐野さんを見たかったからと言ったら信じますか?」

ああ、そういえば急に食堂で見かけるようになったんだった。俺は勝手に嫉妬していたけど、吉岡は俺を見に来ていたのか。
俺たちはなんて馬鹿馬鹿しいんだろう。

「ま、信じた方が楽だよな」

微妙そうに笑う吉岡の後ろ頭を掴んで引き寄せた。ちゅ、と音を立てて下唇を啄んだ。
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