生徒会書記長さん

梅鉢

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第五章

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話の中心、青木をチラリと盗み見ればいつもと変わらぬ様子で仕事中だ。クールなのかマイペースなのか未だに青木の性格が掴めないし分からない。松浦も青木の何がいいんだろう。ま、これは余計なお世話だ。俺だって吉岡の何がいいのか分からないし。

「そういえば能登さんはどうしたんだ。旅行かデート券か。話しもでないけど」

俺にとっての最近の禁句ワードをさらっと北村が発し、手が止まってしまう。
誰も何も言わないから何気なく同調するように顔を上げてみると松浦が南をジト目で見ていた。南は楽しそうに口元を歪めている。

「……デート券の使用を希望したんだが、直前になって能登さんよりキャンセルが入って中止となった。それ以降能登さんからはなにもないからそのままにしている」
「へー、急用でも入ったのか。それにしても能登さんがデート券とはね。相手の生徒はさぞかし喜んだだろうに残念だな」

何も知らない北村はとてもいいやつに見える。実際いいやつだけど。

にしても、一応デート券を使ったんだ。受験が終わってからと思っていたのに、我慢できなかったのかな。この前、また俺の部屋まで来ていたけどこのことで用でもあったんだろうか。ちょっと悪いことしたかな。でも自分が大事だし仕方ないこともあることを能登さんも知って欲しい。能登さんが俺の部屋にくるたび南に苛められるわけだから。

「相手の、キャンセルされた生徒は誰だったんですか?」

発言の主、二ノ瀬にサッと室内の視線が集まった。他意のない質問だろう。しかし何かを探り合うようなじっとりとした空気が流れた。俺が勝手に感じているだけかもしれないが今のこの雰囲気は好きになれないな。

ややあって、松浦が「能登さんからNGが出ているため発表できない」とあったがそれはきっと本当のことだろう。なんとなく能登さんならそういいそうなことだ。
南が何かを言うかもしれないと思ったが、鼻歌交じりに書類を片付けていただけだった。二ノ瀬も2年連中――と言っても松浦、南、俺の三人で北村は分かっていないが――それぞれ違った微妙な空気が流れているのを察知したのと、松浦がこれ以上聞くなとでもいうような返答だったため能登さんの話は打ち切った感じになった。

あんなに悩んで決めたデート券、しかも相手も決定して松浦に報告してからのキャンセル。おかしすぎる。南が何かやらかしたに違いないと決め付けるが何をしたのかまったく想像できない。しかし能登さんがキャンセルしたのは自分の意向ではなくキャンセルさせられたのではと勘ぐってしまう。それくらい南は歪んだものを持っていそうだし、事実あいつの思考回路は不明だ。

「何。見とれているの? 惚れた?」
「あ? んなわけねーだろ」

ボケーッと南を見ながら考え事をしてしまい、薄ら笑いの南に指摘されて即否定した。見とれるほどの顔をお持ちでいらっしゃるがあいにく俺は吉岡が好きなのだ。
いや、南も本気で言ったわけでもないし俺に惚れられても困るということだろうが。

左隣の吉岡さんといえば会話に入らず真面目にもくもくと仕事をしている。
このつり気味の切れ長の眼を伏せた横顔がきれいなんだよなー。鼻筋がスッと通っていて顎とのバランスもいい。
好きになってからあまりまじまじと見たことがなかったけど、惚れた欲目なのかなんなのか、以前よりも数割増しでいい男に見えるんだがどうしたものだろうか。

ここでもジッと見ていると吉岡も困るだろうし南に何か突っ込まれては俺も困るから画面に向き直って仕事を再開した。
開き直ると人間というものは図々しくもなっていくんだな。



仕事も終え、旅行組みの松浦青木を置いてそれぞれがまばらに寮へ帰る。
俺も生徒会室から出ると吉岡が暗い窓の外を見上げていた。きっと俺を待っていたのだろうと勝手に解釈する。

「吉岡」

声を掛ければ笑みはない、だが穏やかな表情の吉岡が俺に振り返った。
関係がこじれる前までこんな時間を過ごしていたがあの時とは俺も吉岡も気持ちが違っているのか、2人の間に流れているものが心地いい。しかしどこかむずむずと落ち着かないものもある。曖昧に関係が戻ったようになっているがこれでいいかどうかはまだ分からない。しかし関わらないと俺の心が不穏になる。

「夕食作りましょうか?」
「いいの?」
「佐野さんがよければ」

一応気を使ってくれているのか。
「ありがとう」とお礼を言い、温かいものがいいとリクエストした。
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