生徒会書記長さん

梅鉢

文字の大きさ
上 下
92 / 112
第五章

しおりを挟む
熱い湯呑みを渡されたが中身はそれほどでもなく、ゆっくりと染み込んでいくお茶に一息つく。

なんでもないように見せて、当たり前のようにベッドに腰を掛けて俺を凝視してくる吉岡の視線を避けるのに精一杯だ。あやふやに視線を動かして、これが外なら補導されること間違いない。

とりあえず吉岡は見すぎだと思う。俺も凝視しちゃう癖あるから人のことは言える立場じゃないけど。

「……やっぱり俺邪魔ですね。佐野さんも大丈夫そうですし帰ります」
「え、あ」

そりゃあ視線は鬱陶しく感じたけど邪魔だとは思っていない。でもそれを言わせたのもきっと俺のせいか。
背中を向けて歩き出す吉岡に言葉を掛けることはできず、ただ見送った。去り際に「ありがとう」と言えたらどんなによかったか。

まだ入っているお茶をサイドボードに置いてベッドに横になった。
人とこんなに関係をこじらせたことがない俺はこれがどうやったら直せるのか分からない。恋愛だと認識したのも初めてのことだし。恋愛ってもっと楽しいものだと思っていたのにどうやらそうじゃないらしい。グッと胸倉をつかまれた感じ。苦しさしかない。
でも待てよ。
吉岡が近くにいてくれてドキドキしたのも確かだ。そしてそばにいて欲しいとも思えた。色んな感情が渦巻いている。

1人で悩んだって出口が見つかりそうにない。誰かに『友達の話なんだけどさ』とよくあるパターンで話を持っていってみようか。いやバレそうだ。北村ならバレてもいいんじゃないか。
うーん、うーん、と考え込むが誰に相談するかでまた悩む。
悩んでいると腹がへってきた。スマホで時間を確認すると18時近い。もう食堂も開いていることだし行くことにした。
一旦寮へと戻ってから。

エレベーターの扉が開き、廊下に出る。廊下中に広がる甘い匂い。これはいつかも嗅いだ焼き菓子のものだ。スンスンと鼻を鳴らしてあるくが匂いの元が分からない。そもそも廊下に匂いが漏れることがないのに何故こんなに漏れているのか。
いいな、おいしいんだよな、あのケーキ。俺だけのために作ってきてくれた吉岡を思い出す。少し恥ずかしそうにしていた姿は俺の心を擽ったのも確かだ。

カードキーをポケットから取り出す。

ここで謝ってしまえば大丈夫だろうか。さっきのお礼もして。
自分が傷つきたくなくて一方的に放ってしまった酷い言葉たちも反省していると伝えれば許してくれるだろうか。

カードキーを指ではじいていると後ろからドアの開く音が聞こえた。すぐ傍で聞こえた音だから吉岡の部屋しかない。
さっさと部屋に入ればよかった。こんなところでもだもだしていたため入るタイミングもよく分からないものになってしまった。

「わっ! びっくりしたー。人いるし」

聞きなれない声に口調。しかし聞いた声色。
振り返って顔なんて見たくなかったけど確かめたくなった。動悸が少しずつ激しくなる中、ゆっくりと振り返った。

白崎と言うあのバスケ部の一年がじろじろとこちらをみていたが俺と目が合うとすぐにそれは逸らされた。相変わらず感じの悪い野郎だった。後ろには吉岡がいて横目で俺を捕らえて少しだけ頭を下げた。
でもそれだけ。
それだけだった。
2人は分からない会話を繰り広げながらエレベーターへと歩いていく。だらっとした私服姿。白崎が真っ黒な姿のためあのビルが頭をよぎった。

自分がした結果がこれだったんだろうか。ここまでのものを望んで言ったわけじゃない。
こんなことなら自分の気持ちに気が付かなきゃよかった。
蓋をしたままにしておけばよかった。
何度も何度も繰り返される思考。堂々巡りで神経が磨り減る。

「あ、市也! いいところに」

食堂と繋がれた奥廊下から笑顔で走ってきたのは能登さん。こんなときに限って……と思ったが今だから遠慮なく冷たくできそうだ。

「すいません。体調がすぐれないので」

能登さんがこちらにやってくる前にキーを差込、素早く玄関に入った。南は監視をしているらしいからこれでいいのだろう。能登さんには申し訳ないけど人の悩みを聞けるほど俺のメンタルは強くない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

【完結】私立秀麗学園高校ホスト科⭐︎

亜沙美多郎
BL
本編完結!番外編も無事完結しました♡ 「私立秀麗学園高校ホスト科」とは、通常の必須科目に加え、顔面偏差値やスタイルまでもが受験合格の要因となる。芸能界を目指す(もしくは既に芸能活動をしている)人が多く在籍している男子校。 そんな煌びやかな高校に、中学生まで虐められっ子だった僕が何故か合格! 更にいきなり生徒会に入るわ、両思いになるわ……一体何が起こってるんでしょう……。 これまでとは真逆の生活を送る事に戸惑いながらも、好きな人の為、自分の為に強くなろうと奮闘する毎日。 友達や恋人に守られながらも、無自覚に周りをキュンキュンさせる二階堂椿に周りもどんどん魅力されていき…… 椿の恋と友情の1年間を追ったストーリーです。 .₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇.ෆ˟̑*̑˚̑*̑˟̑ෆ.₊̣̇ ※R-18バージョンはムーンライトノベルズさんに投稿しています。アルファポリスは全年齢対象となっております。 ※お気に入り登録、しおり、ありがとうございます!投稿の励みになります。 楽しんで頂けると幸いです(^^) 今後ともどうぞ宜しくお願いします♪ ※誤字脱字、見つけ次第コッソリ直しております。すみません(T ^ T)

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

Candle

音和うみ
BL
虐待を受け人に頼って来れなかった子と、それに寄り添おうとする子のお話

咳が苦しくておしっこが言えなかった同居人

こじらせた処女
BL
 過労が祟った菖(あやめ)は、風邪をひいてしまった。症状の中で咳が最もひどく、夜も寝苦しくて起きてしまうほど。 それなのに、元々がリモートワークだったこともあってか、休むことはせず、ベッドの上でパソコンを叩いていた。それに怒った同居人の楓(かえで)はその日一日有給を取り、菖を監視する。咳が止まらない菖にホットレモンを作ったり、背中をさすったりと献身的な世話のお陰で一度長い眠りにつくことができた。 しかし、1時間ほどで目を覚ましてしまう。それは水分をたくさんとったことによる尿意なのだが、咳のせいでなかなか言うことが出来ず、限界に近づいていき…?

少年ペット契約

眠りん
BL
※少年売買契約のスピンオフ作品です。 ↑上記作品を知らなくても読めます。  小山内文和は貧乏な家庭に育ち、教育上よろしくない環境にいながらも、幸せな生活を送っていた。  趣味は布団でゴロゴロする事。  ある日学校から帰ってくると、部屋はもぬけの殻、両親はいなくなっており、借金取りにやってきたヤクザの組員に人身売買で売られる事になってしまった。  文和を購入したのは堂島雪夜。四十二歳の優しい雰囲気のおじさんだ。  文和は雪夜の養子となり、学校に通ったり、本当の子供のように愛された。  文和同様人身売買で買われて、堂島の元で育ったアラサー家政婦の金井栞も、サバサバした性格だが、文和に親切だ。  三年程を堂島の家で、呑気に雪夜や栞とゴロゴロした生活を送っていたのだが、ある日雪夜が人身売買の罪で逮捕されてしまった。  文和はゴロゴロ生活を守る為、雪夜が出所するまでの間、ペットにしてくれる人を探す事にした。 ※前作と違い、エロは最初の頃少しだけで、あとはほぼないです。 ※前作がシリアスで暗かったので、今回は明るめでやってます。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺(紗子)
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

処理中です...