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第五章
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「遅いからどうしたのかとおもって……」と優しい声の北村は、しゃがみこんで返事のしない俺のそばに駆け寄ってきた。今優しくされたらまた泣く自信がある。
頼むからそっとしておいて欲しいが、人が恋しかったのか、北村が来てどこか安心感が生まれた。
「佐野?」
「だいじょーぶ」
「なんか声も変だけど。どこか痛いのか?」
そんな、小学生のガキじゃあるまいし。
しかし北村は本気で心配してくれているかもしれない。
「ちょっと下痢かも。腹痛いだけだから大丈夫」
嘘をつけば北村も納得してくれた。
「良くなるまで仮眠室で休んでいろよ、トイレも近いし」
「はいよー」
足音が去って、のろのろと立ち上がった。痛いのは胸の奥で腹ではない。それでも生徒会室に戻る気にはなれなくて仮眠室へと向かった。
さすが生徒会の仮眠室だけあって保健室のベッドとは一味違う。ふかふかキングサイズ。一体誰の趣味で購入したのだろうと思えるほどフリフリレース仕様のカバー達。
あまり使われることのないベッドだからたまに使ってあげないとな。
若干目が重くて、ベッドに入って目を閉じたらあっさりと眠りについてしまった。
慣れないことを考えてしまったせいだろう。俺の頭は予想以上に疲れていたようだ。
首が痛くて目が覚めた。枕が合わなかったのかギシギシする。それとも寝返りをしてなかったのか。
眠りの浅いときだったのか目覚めはスッキリだ。一つあくびをして布団を剥ぎながら起き上がると腕組みをした吉岡がベッドの端に座っていた。
感情の読み取れない無表情でこちらをみているが、なんで生徒会も休んだ吉岡がここにいるのか分からなくて剥いだばかりの布団をかぶってまたベッドに身を沈ませた。
しかも自分の気持ちを整理したばかりのこんなときになんでだ。
あれか、北村のやつが呼んだりしたのか。なんて迷惑な、仲直りしろとか謝れとか、こんなすぐやれって話なのか。
「大丈夫ですか?」
「……俺に、近寄らないんじゃなかったのか」
傍に来てもらえて嬉しいはずなのにどういうわけか反対の言葉が出てしまう。やっぱり怖いんだ、気持ちがばれるのが。
「そのつもりでしたけど北村さんに呼び出しされまして。俺なら甲斐甲斐しく世話をしてくれるだろうから、とのことでした」
北村め……。俺たちの状況を分かっていてのわざとのことに少しだけ腹が立つ。
「断ったんですが、それなら副会長に看病させると言っていたので、副会長よりは俺のほうがいいかなと判断して了承しました」
「……それ正解です……」
南にくらべたら全然まし。
思わず本音が漏れてしまった。しかも敬語だし……。
ここで“ありがとう”の言葉ひとつでも出したら、きっといい方向にいくとは知りつつもなかなか言葉が出てこない。
自分に素直になったからと言って吉岡相手に素直になれるかどうかは違うようだ。
「腹が痛いとききました。温かいものでも飲みますか? それとも出て行ったほうがいいですか?」
ちょっと前までならすぐに“出て行け”を選択していただろう。今は違う。出て行っても欲しいような、でも傍にいて欲しいような。
気がついたばかりの想いは複雑に俺を悩ませる。
離れても近くにいても悩んでしまうし、気にしてしまう。それならどちらが精神的に楽なのか。
離れていると何一つとして嬉しさも楽しさも沸かない。近くにいると気持ちは苦しくても、楽しいことがなくてもどこか嬉しい気持ちだけは小さく胸を燻る。
だったら近くにいたほうがいい。
「……あったかいお茶」
「はい。番茶でいいですか」
「うん」
吉岡にひどい態度を取っておきながら、吉岡は俺に普通に接してくれている。
俺だったらこんなに普通にしていられるだろうか。
頼むからそっとしておいて欲しいが、人が恋しかったのか、北村が来てどこか安心感が生まれた。
「佐野?」
「だいじょーぶ」
「なんか声も変だけど。どこか痛いのか?」
そんな、小学生のガキじゃあるまいし。
しかし北村は本気で心配してくれているかもしれない。
「ちょっと下痢かも。腹痛いだけだから大丈夫」
嘘をつけば北村も納得してくれた。
「良くなるまで仮眠室で休んでいろよ、トイレも近いし」
「はいよー」
足音が去って、のろのろと立ち上がった。痛いのは胸の奥で腹ではない。それでも生徒会室に戻る気にはなれなくて仮眠室へと向かった。
さすが生徒会の仮眠室だけあって保健室のベッドとは一味違う。ふかふかキングサイズ。一体誰の趣味で購入したのだろうと思えるほどフリフリレース仕様のカバー達。
あまり使われることのないベッドだからたまに使ってあげないとな。
若干目が重くて、ベッドに入って目を閉じたらあっさりと眠りについてしまった。
慣れないことを考えてしまったせいだろう。俺の頭は予想以上に疲れていたようだ。
首が痛くて目が覚めた。枕が合わなかったのかギシギシする。それとも寝返りをしてなかったのか。
眠りの浅いときだったのか目覚めはスッキリだ。一つあくびをして布団を剥ぎながら起き上がると腕組みをした吉岡がベッドの端に座っていた。
感情の読み取れない無表情でこちらをみているが、なんで生徒会も休んだ吉岡がここにいるのか分からなくて剥いだばかりの布団をかぶってまたベッドに身を沈ませた。
しかも自分の気持ちを整理したばかりのこんなときになんでだ。
あれか、北村のやつが呼んだりしたのか。なんて迷惑な、仲直りしろとか謝れとか、こんなすぐやれって話なのか。
「大丈夫ですか?」
「……俺に、近寄らないんじゃなかったのか」
傍に来てもらえて嬉しいはずなのにどういうわけか反対の言葉が出てしまう。やっぱり怖いんだ、気持ちがばれるのが。
「そのつもりでしたけど北村さんに呼び出しされまして。俺なら甲斐甲斐しく世話をしてくれるだろうから、とのことでした」
北村め……。俺たちの状況を分かっていてのわざとのことに少しだけ腹が立つ。
「断ったんですが、それなら副会長に看病させると言っていたので、副会長よりは俺のほうがいいかなと判断して了承しました」
「……それ正解です……」
南にくらべたら全然まし。
思わず本音が漏れてしまった。しかも敬語だし……。
ここで“ありがとう”の言葉ひとつでも出したら、きっといい方向にいくとは知りつつもなかなか言葉が出てこない。
自分に素直になったからと言って吉岡相手に素直になれるかどうかは違うようだ。
「腹が痛いとききました。温かいものでも飲みますか? それとも出て行ったほうがいいですか?」
ちょっと前までならすぐに“出て行け”を選択していただろう。今は違う。出て行っても欲しいような、でも傍にいて欲しいような。
気がついたばかりの想いは複雑に俺を悩ませる。
離れても近くにいても悩んでしまうし、気にしてしまう。それならどちらが精神的に楽なのか。
離れていると何一つとして嬉しさも楽しさも沸かない。近くにいると気持ちは苦しくても、楽しいことがなくてもどこか嬉しい気持ちだけは小さく胸を燻る。
だったら近くにいたほうがいい。
「……あったかいお茶」
「はい。番茶でいいですか」
「うん」
吉岡にひどい態度を取っておきながら、吉岡は俺に普通に接してくれている。
俺だったらこんなに普通にしていられるだろうか。
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