生徒会書記長さん

梅鉢

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第五章

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さて、謝ろうにも謝り方なんて俺は知らない。
謝りたくないのだから知る必要もなかったし。
謝らなきゃいい話なのか。以前のように普通に話しかけてすべてがなかったように……は出来ないけど、吉岡が調子に乗る手前までくらいの普通に話をする仲になればいいのか。
それが難しいんだけど。

この短期間でころころと態度を変えるのは嫌だけど、仕方ない。それについては吉岡に申し訳ない気持ちがほんのちょっぴりある。

そして普通にしてやるかと、心入れ替えたこんな日に限って吉岡は生徒会お休みだし。

すでに部屋には吉岡以外の役員達はそろっていて皆もくもくと仕事をしている。乾燥した室内はすぐに喉が渇いてしまうため給湯室へ向かう。
甘いものが飲みたくて“田口”と書かれた葛湯の袋から一つ取り出してマグカップに粉を入れた。

「田口ー葛湯ちょうだーい」
「どうぞどうぞ!」

給湯室から大声を出して許可を取るが、許可を得る前に葛湯は完成だ。
冷蔵庫や棚には私物も結構入っているし、ちゃんと名前も書いてはいるが無法地帯となっているため誰が誰のものを飲んでも食べてもいい状態だ。それでも本人がそこにいたら許可を取るようにしているが、いてもいなくても勝手に拝借がほとんどかもしれない。
名前を書く意味があるのかと言われれば無いと言えるかな。

心を落ち着かせる温かさに甘さは、今まで考えたことの無かった分野の悩みを少しだけ溶かしてくれる気がする。
マグカップで手を温めながら窓の外を眺めた。風は轟々と丸坊主の木を揺らしていて晴れているのに寒そうだ。
ふーッとマグカップを上から息を掛けると温かい湯気が散っていった。顔に掛かる温かさに口元が緩む。

落ち着いてくると認めたくなかったものも認めてもいいような気にすらなってくるから不思議だ。

多分俺は吉岡が好きなのだろう。

どういう好きなのか分からない。人を好きになんてなったことが無いから。これが恋愛感情と呼んでいいのかなんなのか。
でも吉岡のことが気になるし、知らない間に考えちゃっているし、変なことされても気持ち悪くないどころか勃っちゃうし。

白崎といる吉岡をみるといつも苛々していた。俺よりも吉岡といた期間長いみたいだし、吉岡のことも良く知っている。二人の間には入り込めないものもあった。学園祭のときの吉岡の様子を見ればよく分かる。
当たり前のように吉岡の隣にいる白崎に嫉妬していたんだろう。

そして、きっとこれが恋愛感情。
好きだからこそ都合のいい関係に腹が立ったり、許せなかったりしたんだ。


この気持ちはずっと前からだったかもしれない。
ただ認めてしまったら自分がかわいそうで、実のならない想いなんてしたくなくて知らないフリをしていただけ。
真剣に想ってみても、あとで自分が傷つくのが怖くて気持ちを奥底にしまっていただけ。

すべてはみんな、一致する。


とうとう俺もこの学園に染まってしまっていたようで思わず苦笑してしまう。シンクにカップを置き、その場でしゃがみこんで膝に顔を埋めた。
なんだか泣きそうになってしまった。目元にじんわりと涙がたまる。瞬きをしてしまったら零れそうに溢れてきた。何故泣きたくなったのか。
気持ちはわりと落ち着いているし、スッキリしたものもある。
それなのに素直になった途端、胸がぎゅうっと締め付けられたように痛む。

隣ではみんな仕事をしているからこんなところで泣くわけにはいかない。セーターの袖で目をごしごしと擦って涙を拭った。目が潤んでいるのは眠気のせいにしよう。

「佐野?」

こんなときに声を掛けられて体をビクリと揺らした。
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