生徒会書記長さん

梅鉢

文字の大きさ
上 下
87 / 112
第五章

しおりを挟む
 襲撃が落ち着いてひと段落つきーー
戻ってきたアンナと3人で、長老様の家でお茶をご馳走になっていた。
ワイバーンは私の収納魔法と、アンナさんの収納袋を使って回収をしておいた。
もちろん、長老様からのお願いである。

 街が何事もなかった様に、生活を始めた頃。
お茶を頂いていた長老様の家に慌てて入ってくる足音がした。

「長老!ワイバーンは!どうなりまし‥‥た?」

 焦って走ってきたのだろう。肩で息をし、目を赤くしながら叫んでいる。
金色の長い髪がフワッと揺れる。まだ若そうに見える男性だ。
だが、私たちの朗らかな様子に疑問を持ったのだろう。その勢いも長くは続かない


「おお、副ギルド長。もしかして送った者と入れ違いになったかのう?ワイバーンは倒されたよ」

 はっはっは、と笑う長老様とポカン、と口を開けた副ギルド長が対照的だ。
だが、この村のために副ギルド長自らが駆けつけるなんて、なんとも勇ましい。

「どういう事か説明してもらえますか?」
「だから言った通りじゃ。このお2人がワイバーンを殲滅してくれた」
「‥‥2人で?」

 私たちは副ギルド長に背を向けて座っていたので、今ここにいたことに気が付いたらしい。
ロランの顔を見た後、私の顔を見て驚いている。

「ああ、お前さんたちが来る前にと思ってギルドには他の者を報告に行かせたんじゃ。お2人さんは怪我はなかったとはいえ、疲れていると思ってな」
「‥‥で、ここでお茶していたと」
「そうだ。助けてもらったのにお礼の一つも出来ないなんて、嫌だからのう」

 副ギルド長は呑気な長老様の様子に頭を抱えている。

「状況は分かりました‥‥では、長老。この2人に詳しい話を聞きますので、街に向かいたいと思いますが‥‥」
「しょうがないのう。また皆さんこの村に来て下さいな、その時は歓迎しますぞ!」

 その言葉で私たちは次の街に向かうことになったのだった。


 ロランがアンナさんの事情を話してくれたので、アンナさんも着いていくことになった。
急いで来て欲しい、ということで村の馬を借りて行くことになる。
アンナさんもロランも私も、乗馬は問題ないようだ。

 私たちが街に行くことを嫌がる村人を副ギルド長は宥め、また来ると約束して村を出る。
村人総出で見送ってくれたことは忘れないだろう。

 今は先頭に副ギルド長、私、アンナさん、ロランの順で馬を走らせていた。
女性は危ないから、と気を使ってくれた様だ。
副ギルド長は気さくな方の様で、私に色々と声をかけてくれる。
今も質問されたので、答えている最中だ。

「ああ、シャルモンの街ご出身なのですね?」
「はい」
「シャルモンの街のギルド長には私もお世話になりました。すごく優しい方でしたね」
「そうですね」

 先程から、「はい」「いいえ」「そうですね」しか言っていない気がする。
でも副ギルド長はペラペラと話しかけてくる。よく話が持つな、と1人で感心していただけだったが。

ーー実は副ギルド長が私に好意を寄せているから話しかけていることに、私は気づくことはなかった。



 私が、変なところで感心している時。

 後ろで馬を走らせていたロランは、眉間にシワを寄せて前を伺っていた。
私と副ギルド長が楽しげに(?)話している(様に見える)ので、余計にシワが寄っている。
アンナさんはそのことに気づいたらしく、危なくない程度に後ろを振り向いた。

「ロラン、シワが寄っているわよ?」

 アンナさんは眉間を人差し指でトントン、と叩く。
それでロランは顔のことに気づいたらしい。眉間のシワはなくなった。

「何、嫉妬してるのよ」
「嫉妬って‥‥」
「あら?してないとでも?」

 その言葉に黙るしか無いロラン。どこからどう見ても嫉妬してる様にしか見えないだろう。
そこで色々とロランから話を聞いていたアンナさんは思い至った様だ。

「そっか、セリーちゃんが男性と2人で話すところを見たことがなかった?だから嫉妬しちゃったのか」

 図星である。下を向いてはいるが、耳まで赤くなっていることは確かだ。

「セリーちゃんは可愛いから、射止めておかないと攫われちゃうよ?」
「‥‥分かってる」
「ロランは本当にセリーちゃんのことが好きよね~羨ましい!」
「そりゃ、一目‥‥あ」
 
 思わず突いて出てきた言葉に気づき、途中で止めるも、アンナさんには分かってしまったようだ。

「あらまぁ、ロランも隅に置けないね」
「‥‥ちっ」
「まあ、今嫉妬しているからって、セリーちゃんに当たるのだけはやめてよね?」
「‥‥分かってる」

 アンナさんはロランを弄って楽しかったようだ。顔を前に戻している。
そこにはまだ話し続ける副ギルド長と、話だけ聞いている私の姿が。

「‥‥ちゃんと攫われない様に守ってよね?」

 とアンナさんが呟いた声は誰の耳にも届くことは無かったのだった。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

その瞳の先

sherry
BL
「お前だから守ってきたけど、もういらないね」 転校生が来てからすべてが変わる 影日向で支えてきた親衛隊長の物語 初投稿です。 お手柔らかに(笑)

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

ある少年の体調不良について

雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。 BLもしくはブロマンス小説。 体調不良描写があります。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...