74 / 112
第四章
9
しおりを挟む
一度自室へ戻ろうと思い、北村の部屋から廊下へ出ると俺の部屋の前には能登さんが考え込むように腕を組んで立っていた。
思わず「げっ」とでてしまった声に能登さんが俺に振り返る。
「市也。ちょうどよかった。コール押しても出ないし諦めて帰ろうと思っていたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。見つかるとあれなんで」
急いでカードキーを差込み、能登さんを部屋に押し入れた。こんなところでもたもたとしていてまた南に見つかったら何を言われて何をされるか分かったもんじゃない。想像つかなくて恐ろしすぎるわ。
「ご、ごめんね急に。なんか都合悪かった?」
「そうじゃないですが……。ま、玄関じゃなんだし上がってください」
部屋へと促し、適当に座ってもらう。冷蔵庫のペットボトルのお茶を渡して俺も床に座った。
「なんか、ごめん。誰かに見つかりたくなかったかな……。すぐ帰るから」
「や、きっと能登さんが考えているのと逆な感じで……まぁ、大丈夫です。それよりなんか用あったんじゃないですか」
「ああ、うん。勉強するからイベント不参加にしてたんだけど、イベントが鬼ごっこだったって聞いて驚いて……」
「大丈夫だったとは聞いたんだけど……」と窺うように上目使いをし、キラキラとした眩しい瞳を向けてくる。あまり派手さはないけどこの人って本当にキレイな女の人みたいだから見つめられると少しドキリとしてしまう。
「一応みんな無事でしたよ」
「良かった。カナタが捕まっていたらどうしようかと思ってさ」
「まさか! 一番捕まらないですよアイツ」
嫌味っぽさも含ませて大げさに驚いてみた。
あの南に限って、自分が捕まるようなへまはしないし、捕まってしまうようなイベントの企画なんて絶対にしない。あいつはいつだって自分が一番で自分が楽しめたらそれでいいだろうから。人のことなんてお構い無しなんだから。むしろ人は捕まってしまえばいいのにと思っているような奴なんだから。そう考えると人でなしもいいところだ。
「そういえば、能登さんてデート券使ったんですか?」
「え。あ、まだだけど」
「も~~~~。使っちゃいましょーよ、それ! さっさと南に使っちゃいましょー」
色々2人でよく分からないことになる前にさっさと使ってさっさと近づいてさっさとくっついてしまってくれ。
「でも、」「自信が……」「カタナは俺じゃ……」だのほざく能登さんを制して「ミスコン1位が何を言うんですか。どんだけ自分を下に見てるんですか」と説教をした。
今までこんなに能登さんに対してこんなに強く出たことがない。そもそも能登さんは尊敬する先輩の1人であったが、最近の南の態度から俺の命や貞操が危ないからそうも言っていられなくなっているから仕方ない。さっさとくっついて俺の生活の安全を確保したい。それが今の第一優先だった。
「確かに南は色魔の節操なしですけど、能登さんに対しては軽口を言ったことがないですよね」
「うん、……好かれてないんだよね」
「違いますよ、反対です。好きだから冗談が言えないんですって、あいつ」
「うーん、そうだろうか」
釈然としない様子だが、「大丈夫! 南は能登さんだけは特別だから」と追い立てるように言った。そもそも何故俺がここまでお膳立てしなきゃならんのだ。あほ南のために。いや、俺の命や貞操のためだった。
「……うん、もうそろそろ卒業だし、試験終わったら思い出作りにデート券使うことにするよ」
「出来ればもっと早く使って欲しいのですが」
「え?」
「あ、いえ。受験前だし、勉強大変ですもんね。頑張ってください」
「ありがとう。市也と話せてスッキリした」
「よかったです」
「俺さ、北海道の大学受けるんだよね。やりたいことあって」
北海道。声にださず、唇だけを動かした。
随分また遠いところへ行くもんですね。ということはもしうまくいってもそうそう会うことが出来ないのか。能登さんも能登さんで色々葛藤でもあったのだろうか。それは本人にしか分からないことだけど。
「思い出作り」と言った能登さん。その言葉の意味を考えながら、目の前で儚く、消え入りそうな姿で笑う能登さんにやっぱり南なんて止めたほうがいいですよと言ってやればよかったかなとあとで後悔した。
思わず「げっ」とでてしまった声に能登さんが俺に振り返る。
「市也。ちょうどよかった。コール押しても出ないし諦めて帰ろうと思っていたんだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。見つかるとあれなんで」
急いでカードキーを差込み、能登さんを部屋に押し入れた。こんなところでもたもたとしていてまた南に見つかったら何を言われて何をされるか分かったもんじゃない。想像つかなくて恐ろしすぎるわ。
「ご、ごめんね急に。なんか都合悪かった?」
「そうじゃないですが……。ま、玄関じゃなんだし上がってください」
部屋へと促し、適当に座ってもらう。冷蔵庫のペットボトルのお茶を渡して俺も床に座った。
「なんか、ごめん。誰かに見つかりたくなかったかな……。すぐ帰るから」
「や、きっと能登さんが考えているのと逆な感じで……まぁ、大丈夫です。それよりなんか用あったんじゃないですか」
「ああ、うん。勉強するからイベント不参加にしてたんだけど、イベントが鬼ごっこだったって聞いて驚いて……」
「大丈夫だったとは聞いたんだけど……」と窺うように上目使いをし、キラキラとした眩しい瞳を向けてくる。あまり派手さはないけどこの人って本当にキレイな女の人みたいだから見つめられると少しドキリとしてしまう。
「一応みんな無事でしたよ」
「良かった。カナタが捕まっていたらどうしようかと思ってさ」
「まさか! 一番捕まらないですよアイツ」
嫌味っぽさも含ませて大げさに驚いてみた。
あの南に限って、自分が捕まるようなへまはしないし、捕まってしまうようなイベントの企画なんて絶対にしない。あいつはいつだって自分が一番で自分が楽しめたらそれでいいだろうから。人のことなんてお構い無しなんだから。むしろ人は捕まってしまえばいいのにと思っているような奴なんだから。そう考えると人でなしもいいところだ。
「そういえば、能登さんてデート券使ったんですか?」
「え。あ、まだだけど」
「も~~~~。使っちゃいましょーよ、それ! さっさと南に使っちゃいましょー」
色々2人でよく分からないことになる前にさっさと使ってさっさと近づいてさっさとくっついてしまってくれ。
「でも、」「自信が……」「カタナは俺じゃ……」だのほざく能登さんを制して「ミスコン1位が何を言うんですか。どんだけ自分を下に見てるんですか」と説教をした。
今までこんなに能登さんに対してこんなに強く出たことがない。そもそも能登さんは尊敬する先輩の1人であったが、最近の南の態度から俺の命や貞操が危ないからそうも言っていられなくなっているから仕方ない。さっさとくっついて俺の生活の安全を確保したい。それが今の第一優先だった。
「確かに南は色魔の節操なしですけど、能登さんに対しては軽口を言ったことがないですよね」
「うん、……好かれてないんだよね」
「違いますよ、反対です。好きだから冗談が言えないんですって、あいつ」
「うーん、そうだろうか」
釈然としない様子だが、「大丈夫! 南は能登さんだけは特別だから」と追い立てるように言った。そもそも何故俺がここまでお膳立てしなきゃならんのだ。あほ南のために。いや、俺の命や貞操のためだった。
「……うん、もうそろそろ卒業だし、試験終わったら思い出作りにデート券使うことにするよ」
「出来ればもっと早く使って欲しいのですが」
「え?」
「あ、いえ。受験前だし、勉強大変ですもんね。頑張ってください」
「ありがとう。市也と話せてスッキリした」
「よかったです」
「俺さ、北海道の大学受けるんだよね。やりたいことあって」
北海道。声にださず、唇だけを動かした。
随分また遠いところへ行くもんですね。ということはもしうまくいってもそうそう会うことが出来ないのか。能登さんも能登さんで色々葛藤でもあったのだろうか。それは本人にしか分からないことだけど。
「思い出作り」と言った能登さん。その言葉の意味を考えながら、目の前で儚く、消え入りそうな姿で笑う能登さんにやっぱり南なんて止めたほうがいいですよと言ってやればよかったかなとあとで後悔した。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
237
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる