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第四章
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「疲れたー」と大げさに声を出しながらソファにどっかりと背中を預けた。俺の言葉に同意しながらホットミルクを持ってきてくれた北村。牛乳大好きで落ち着きたいときはいつもこれを出してくれる。
この年になるとそれほど牛乳を飲まなくなるから時々出されるこれが無性にうまく感じられた。俺も牛乳は嫌いじゃないから。
「しかし、今日は一体なんだったのだろう……。苦情と言っても、もう無事終わってしまったし、なんだか気もそがれてしまっている」
「南も南だけど、松浦も何考えているんだ? いつも思っていたけど南に甘くね?」
「何も考えていないということはないだろうが。松浦はあまり感情を表に出さないから分かりにくいな。かといってカナタのように感情を剥き出しのくせに本音なのかどうか読めないのもわかり辛くはある」
「あーほんと、そんな感じだよな。頭のいいやつはやっぱり思考回路が可笑しいんだろ。ネジが余計に刺さって俺みたいな普通の人間には理解できないわ」
「それについては肯定も否定もしないけど、まぁ松浦が南に甘いというのは分からなくもないな。何か通ずるものがあるのかもしれない」
「まじで理解不能ー」
ずずずと音をたててホットミルクを飲む。少しだけ甘くて優しい味だった。沁みるわ……。
鬼ごっこのとき、北村田口ペアはずっと逃げ回っていたそうだ。隠れていても少しすれば見つかり、近寄られたら田口が守ってくれたとのことで。だから動きっぱなしで本当にへとへとなんだと北村は苦笑した。もしあれが2時間だったら途中で諦めて捕まってもいいかなと思っていたかもしれない、と。
もともと運動がそれほど得意ではなく、俺とは真逆で頭の良さで生徒会候補上位20人として選ばれていたから今日のようなことは心底苦手なんだろう。
「佐野は家に帰らないのか?」
「んー、大晦日の日に帰ろうかと思ってたけど、少し早めるかも。寮にいると疲れること起こるかもしれないし」
「俺も早めに帰ろうかな。なんだか誰もいない空間でジッとしていたい気分だ」
「北村が弱ってる」
ちょっと面白くて笑ってしまった。
「彼女の声でも聞いて癒されなよ」
「そうだな。学園のことに興味あるみたいでイベント時は結構しつこく質問されるから」
北村もこの部屋に入ってきたときの疲れきった表情から一変、柔らかい笑みを浮かべていた。
北村には疲れたときに癒してくれる彼女がいる。会いたくてもすぐには会えないけれど声を聞くことはできる。寄り掛かれる、甘えられる、支えてくれる相手がいるってことは大きい。家族じゃないってことも癒しに繋がっているんじゃないかな。
俺も女の子の柔らかい肌に包まれて甘い匂いの中眠って見たい。疲れなんか一瞬で吹き飛んでしまいかもしれない。
そんな時丁度、北村のスマホに彼女から着信があり、「悪い」と北村はスマホを持って寝室へ入っていった。妄想してたがそれも途切れていまい、手持ち無沙汰なって俺もスマホを手にした。科学準備室で電源を落としたままになっていてどこを押しても画面が真っ暗のままだった。電源を入れ、しばらくして現れた画面には通知がたくさん来ていた。
まずはメッセージに眼を通す。
今回のイベントが“鬼ごっこ”となり、噂は瞬く間に広がったようでイベントに参加していなかったクラスメイト数人から「捕まった?」だの「大丈夫か?」等、心配してくれているようなものが着ていた。大丈夫だったという返事とともに南への恨み節も付け加えて送信した。
そしてもう1件。
“甘いもの食べませんか?”
吉岡からの誘惑だった。
疲れきった体に甘いものは相性もいい。“シフォンケーキがいい”と我がままかなとも思ったが一応リクエストしてみた。もう甘いものを作っている最中だったかもしれないが、どうしても今はあのフワフワとした吉岡のシフォンケーキが食べたかった。
俺のために作ってくれたときと同じ、甘い匂いに包まれながら食したい。彼女で癒しを求められない俺だ、甘い匂いに癒しを求めた。好きなものを食べている時だって至福のときだ。
自分なりのストレス発散方法や癒しの方法は常に探しておかなきゃな。
「悪い、待たせたな」
「ああ、うん。いいよ」
北村が戻ってきたと同時、吉岡から返信が来た。
“分かりました。ついでに昼食も作りますけどどうですか?”
思わずにやけてしまう。
吉岡の作る料理はおいしいし、食堂へ行くのが億劫だったから願ったり叶ったりだった。
「お昼どうする? 食堂行くか?」
「いや、吉岡が作ってくれるっているから、そっちで食べようかと思って」
「そうか。じゃあ俺は外出してこようかな」
「彼女?」
「ああ。暇らしい」
うんうん、北村も疲れた体を彼女で癒されてきたらいい。俺も吉岡の料理で癒されてくるから。
この年になるとそれほど牛乳を飲まなくなるから時々出されるこれが無性にうまく感じられた。俺も牛乳は嫌いじゃないから。
「しかし、今日は一体なんだったのだろう……。苦情と言っても、もう無事終わってしまったし、なんだか気もそがれてしまっている」
「南も南だけど、松浦も何考えているんだ? いつも思っていたけど南に甘くね?」
「何も考えていないということはないだろうが。松浦はあまり感情を表に出さないから分かりにくいな。かといってカナタのように感情を剥き出しのくせに本音なのかどうか読めないのもわかり辛くはある」
「あーほんと、そんな感じだよな。頭のいいやつはやっぱり思考回路が可笑しいんだろ。ネジが余計に刺さって俺みたいな普通の人間には理解できないわ」
「それについては肯定も否定もしないけど、まぁ松浦が南に甘いというのは分からなくもないな。何か通ずるものがあるのかもしれない」
「まじで理解不能ー」
ずずずと音をたててホットミルクを飲む。少しだけ甘くて優しい味だった。沁みるわ……。
鬼ごっこのとき、北村田口ペアはずっと逃げ回っていたそうだ。隠れていても少しすれば見つかり、近寄られたら田口が守ってくれたとのことで。だから動きっぱなしで本当にへとへとなんだと北村は苦笑した。もしあれが2時間だったら途中で諦めて捕まってもいいかなと思っていたかもしれない、と。
もともと運動がそれほど得意ではなく、俺とは真逆で頭の良さで生徒会候補上位20人として選ばれていたから今日のようなことは心底苦手なんだろう。
「佐野は家に帰らないのか?」
「んー、大晦日の日に帰ろうかと思ってたけど、少し早めるかも。寮にいると疲れること起こるかもしれないし」
「俺も早めに帰ろうかな。なんだか誰もいない空間でジッとしていたい気分だ」
「北村が弱ってる」
ちょっと面白くて笑ってしまった。
「彼女の声でも聞いて癒されなよ」
「そうだな。学園のことに興味あるみたいでイベント時は結構しつこく質問されるから」
北村もこの部屋に入ってきたときの疲れきった表情から一変、柔らかい笑みを浮かべていた。
北村には疲れたときに癒してくれる彼女がいる。会いたくてもすぐには会えないけれど声を聞くことはできる。寄り掛かれる、甘えられる、支えてくれる相手がいるってことは大きい。家族じゃないってことも癒しに繋がっているんじゃないかな。
俺も女の子の柔らかい肌に包まれて甘い匂いの中眠って見たい。疲れなんか一瞬で吹き飛んでしまいかもしれない。
そんな時丁度、北村のスマホに彼女から着信があり、「悪い」と北村はスマホを持って寝室へ入っていった。妄想してたがそれも途切れていまい、手持ち無沙汰なって俺もスマホを手にした。科学準備室で電源を落としたままになっていてどこを押しても画面が真っ暗のままだった。電源を入れ、しばらくして現れた画面には通知がたくさん来ていた。
まずはメッセージに眼を通す。
今回のイベントが“鬼ごっこ”となり、噂は瞬く間に広がったようでイベントに参加していなかったクラスメイト数人から「捕まった?」だの「大丈夫か?」等、心配してくれているようなものが着ていた。大丈夫だったという返事とともに南への恨み節も付け加えて送信した。
そしてもう1件。
“甘いもの食べませんか?”
吉岡からの誘惑だった。
疲れきった体に甘いものは相性もいい。“シフォンケーキがいい”と我がままかなとも思ったが一応リクエストしてみた。もう甘いものを作っている最中だったかもしれないが、どうしても今はあのフワフワとした吉岡のシフォンケーキが食べたかった。
俺のために作ってくれたときと同じ、甘い匂いに包まれながら食したい。彼女で癒しを求められない俺だ、甘い匂いに癒しを求めた。好きなものを食べている時だって至福のときだ。
自分なりのストレス発散方法や癒しの方法は常に探しておかなきゃな。
「悪い、待たせたな」
「ああ、うん。いいよ」
北村が戻ってきたと同時、吉岡から返信が来た。
“分かりました。ついでに昼食も作りますけどどうですか?”
思わずにやけてしまう。
吉岡の作る料理はおいしいし、食堂へ行くのが億劫だったから願ったり叶ったりだった。
「お昼どうする? 食堂行くか?」
「いや、吉岡が作ってくれるっているから、そっちで食べようかと思って」
「そうか。じゃあ俺は外出してこようかな」
「彼女?」
「ああ。暇らしい」
うんうん、北村も疲れた体を彼女で癒されてきたらいい。俺も吉岡の料理で癒されてくるから。
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