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第四章
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しおりを挟む「あの、風紀ですが……」
背中を丸めて目の前に現れた男はおどおどとしていてとても風紀委員には見えない態度をしていた。『風紀』と白い刺繍を施してある黒い腕章がなければ追い払っているくらいだ。いくら上背があってごつくてもちょっと弱弱しい雰囲気を感じる。
体育館へ来る途中、風紀委員長の田中に電話をして鍵を取りに来るよう頼んでおいたから、この風紀委員が来たのだろう。
「委員長から鍵を預かってこいと言われまして……」
「これ多分手錠の鍵」
「多分、とは……」
くせなのかなんなのか、この風紀は語尾が小さくなっていて最後の言葉が聞き取り辛い。
「南からもらった鍵だから多分本物かな、って。あいつもこれで開けようとしていたし」
「そうですか、一応貰っておきます……」
「違ったらすまん。でも本人ステージにいるし、聞いてくればいいんじゃね」
「! いえいえ、滅相もございません! じゃ、俺は失礼します……」
動揺を見せながら風紀は去っていった。南が憧れの対象だったのか。それとも怖いのか。まぁ得体の知れない怖さはあるけど。
開会のときは50人ほどいた生徒も閉会ともなると10人ちょっとと4分の1に減っていた。ケガが大きい生徒が保健室に、そうでなくとも頭に血が上って獣化した生徒は風紀の隔離部屋に、そしてそもそも鬼ごっこには初めから興味のない生徒は寮へ戻っていって残りの人数がこれというわけだ。
集まった生徒達を眺めていると知らない奴に手を振られた。どこかで見たなと思ったら、生物室で騒いでいた一年の一人だった。しかもあいつは「会長様あああ!」と騒いでいたと思ったけど。
気味が悪いので無視をして結果を発表していた南に視線を移す。南のことも見たくは無いけど。
とりあえず、誰も捕まらなくて良かったと肩を撫で下ろした。
閉会式もなんなく終わり、役員達はぞろぞろとそろって生徒会室に向かう。不気味なほど誰も一言も発しなかった。こう言ったときは南が軽口を叩いて皆がそれぞれに反応し、そして何気ない会話へと発展することが多かった。だから南が口を開かないとこうも静まり返ってしまうものなのかと、役員の暗さと無口さにちょっと笑える。
部屋に着き、それぞれが自分の席に座る。座る瞬間、あちこちでため息が聞こえた。
「皆大変だったと思うがお疲れ様」
松浦が労いの言葉を掛けるが、労われている気がしない。
「まず、今回の変更を言い出したのは南だったが、決定は俺がした。何か言いたいことがあるだろうから、それは全部俺に言ってくれ」
「と、松浦は言っているけど、俺に直接文句を言ってもいいんだよ~」
南が口を挟んだことで松浦が情けなく眉を下げて困った顔をしていた。珍しい。
南にも松浦にも言いたいことがたくさんあるけど、口で勝てるとも思えない。そして倍に返されたらきっとストレス倍増だ。そう思って黙っていたら俺の安心材料、北村が口を開いた。
「無事で終わったからいいものの、捕まっていたらどうするつもりだったんだ?」
「ルール通りだよ。誰が捕まっていても特別扱いはしない」
南が答えて、「そうか」と呟いた北村はそれきり考え事をするように黙ってしまった。
そもそも俺や北村、青木は喧嘩が出来ない。だから俺たちが捕まる可能性が大きかったわけだけど、それを許可しちゃう松浦も頭が可笑しいってことなんだろう。
「あとは無いのか? ……今日は疲れただろうし、反省会はまた今度にする。その間に言いたいことがあったらいつでも言ってくれ。今から24時間受け付ける」
そういい残し、松浦は1人さっさと生徒会室から出て行く。青木は連れて行かなくていいのか残して行った。南もあとを続くように「じゃーお疲れー」と手を振りながらドアへ向かった。
そして残された役員達もよく分からない気まずさのまま解散となり各自部屋に戻った。
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