生徒会書記長さん

梅鉢

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第四章

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あのバカは本気っぽいし、ここは逃げたほうが良くないか? 吉岡のブレザーをぐいぐいと引っ張った。

「吉岡、逃げよう」
「それがよさそうですね」

いざ逃げよう、としたとき、救いのチャイムが校内に鳴り響く。

屋上にいた全員、時が止まったようにチャイムを聞いていた。鬼ごっこ終了だ。
逃げようと構えていた体の力を抜き、眼を閉じて天を仰いだ。

「あーあ。終わっちゃった。もう少し時間を長く設定しておけばよかったな」

良かったね、と嘘か本当か柔らかい笑顔で俺たちに視線を向ける。そして二ノ瀬に持っていたものを渡し、南は出入り口に向かった。俺たちの前を通り過ぎるときいつものへらへらした態度で「怯えないでよ、冗談なんだからさ」と悪びれもなく言う。

今までのやり取りのどこからどこまで冗談なんだよ。そしてお前の冗談は冗談になっていないと怒鳴りたかったが俺の唇は貝のように閉ざしていて開くことはなかった。

「鍵、みたいですけど、手錠のかな」

二ノ瀬が南から渡されたものはどうやら鍵のようだった。簡単な作りのそれで全部の手錠の鍵が開くのだろうか。

「もう終わりだし、ここの奴らを解放しろってことでしょうか」
「いや、多分殺気立っているだろうから、全部風紀に任せよう」
「あ、そういえば風紀って何しているんでしょう。まったく見かけませんけど」
「宝探しのポイント付近で待機はしていたんじゃないかな。でも鬼ごっこになってからは分からないけどな」

とにかく終わったのだ。大きく息を吐いて気持ちを落ち着かせた。
チャイムが鳴ってから「取れやゴラァ」と騒がしくなり始めたフェンスを無視して俺たちは屋上を去った。





俺の前には二ノ瀬、後ろには吉岡とよく分からんがガードされながらゆっくりとした足取りで階段を下りる。というか、緊張から解放されたらで足が重くてゆっくりとしか行けない。最近わけの分からないことが多くなってきた。俺の平凡な日常はどこへいったのだ……。

「……なんか、副会長変でしたね」
「南はいつも変だと思うけど」
「確かに佐野さんにはよく突っかかってはいましたけど、今日のそれはちょっと違っていた気がして」
「ああ、そうね……」

遠慮がちに二ノ瀬が言ってくるが、俺だって明確なモノが分からないから適当に答えた。南が変わっているのは今に始まったことではないけれど俺への態度が可笑しいのは明らかだった。俺がなにをした、って言うわけではないが南の中で色々消化できないものでもあるのだろう。俺を巻き込むなといいたい。いや、これは奴の言う八つ当たりをされていたりするんだろう。……疲れる。

「あ、風紀に連絡しないとな。さすがに屋上は寒いしあのままでいたら死んでしまうかもしれないし」
「大丈夫じゃないですか? 血の気の多い奴らばっかりでしたし」

「俺も何発か食らったんですよ、ホラ」と二ノ瀬は顔だけ俺に振り返り、自分の左の口角を指差した。確かにあのべっぴんな顔に似合わず口角が切れていて少し出血していた。よく見ると眉のあたりも少し青い。

「だ、大丈夫……?」
「大丈夫です、これくらい。副会長も俺を守ってくれていたし。まぁ副会長は楽しそうに殴っていましたけど」
「そ、そっか」
「だからこそ、佐野さんへの態度に驚いたんですけどね……」

また歩き始めた二ノ瀬に何も言えなくなる。
その後もポツポツと二ノ瀬と話をしながら体育館へ向かった。その間、吉岡は一言も会話に入ってこなかった。



体育館につくとすでに俺たち以外の役員がそろっていて壁際に整列していた。ステージの端には南がマイクをもって仁王立ちをしている。その横には松浦が椅子に座って足を組んでいた。悠長な態度にイラっとした。会長大好きな野郎に捕まってしまっていたら面白いのにと考えるが、松浦に限ってそれもなさそうだ。あいつはいつでも何時も焦る姿を見せたことがない。すべての難題も淡々とクリアしてきたような奴だから。

「北村~」
「佐野も無事だったか」
「でも恐ろしかったわ~」

飼い主を見つけた犬よろしく、尻尾を振りながら駆け寄った。ああ、なんだこの北村の安心感は。屋上で終了のチャイムを聞いたときの安心とはまったく別のものだった。そばにいると副交感神経がどばどば出てくる感じ。

「吉岡、ありがとうな。佐野が無事でよかった」
「いえ」

北村は俺の後ろの吉岡に礼をし、お前は俺の親かと心の中で突っ込みを入れた。
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