67 / 112
第四章
2
しおりを挟む南と二ノ瀬は3棟かその奥の旧校舎のほうへ向かっていったため、俺たちは2棟へと向かう。旧校舎はどん詰まりだし、2棟なら新校舎1・3棟と旧校舎、そのどちらへも繋がっていたから逃げるにいいのではと思ったからだ。しかし旧校舎と違い、生物室や科学室、コンピューター室やPC室など誰もが使用したことのある教室が多いため、勝手が分かる分、不利なことも確かだ。
どこでどうかくれるかも問題だ。
「なんとかと煙は高いところが好きらしいので、このまま1階の教室に隠れましょう」
「え、ああ」
入ったのは生物室で、歴代の変わり者の先生が作ったというホルマリン漬けが大量においてあるためあまり好きな教室ではなかったが仕方ない。体育館からそう離れた場所でもないから落ち着かない気もするが、いわれてみればこんな近くに潜んでいるとも思うまい。
外見だけ真面目な吉岡はブレザーを着用しているため、ブレザーのうちポケットから徐に折りたたまれた針金を取り出した。何故そんなところに針金が。
針金を伸ばしながら生物室の教壇側へとぐんぐんと向かう。黒板横にある生物室内に取り付けられた準備室のドアノブに手をかけ、ガチャガチャと回し始めた。準備室は薬品も入っているため当然教師しか入られないよう鍵が掛かっている。屈んで鍵穴を見つめる吉岡はまた何回かに針金を折り曲げで鍵穴に刺した。
ノブをガチャガチャと動かしながら鍵を開けようとする吉岡。
「時間無いけど大丈夫なんだろうな。つか、鍵とかなんで開けられるんだよ」
「ちょっと黙ってもらえますか」
時間はあと5分強。まじであけるつもりかよ、としばらく無言で眺めていたがドアノブを持つ吉岡の手がグルンと回った。どうやら開いたようだ。
「躊躇無くそれをやろうと思える、そしてやっちゃうお前がマジで怖いんだけど」
「今は逃げること優先してください」
まぁそうね。
初めて入る準備室は横長の倉庫のような埃っぽい部屋だった。ここにも瓶詰めにされたナニカや鍵の付いた古びた棚が壁一面にあった。キョロキョロしているとガチャリとドアを閉める音がした。内鍵もあるのか。しかしここなら見つからずに1時間くらいなら過ごせそうだ。
南のあの壇上の話を聞いたときからざわついていた胸が少し穏やかになったような気がした。
「空気悪いですね」
薄暗い部屋の中には照明らしいものはなく、小さな窓があるだけだった。そのすりガラスの小さな窓を開けて空気を入れ替え、吉岡は俺に近づく。逆光で吉岡の表情は見えない。
穏やかになったと思った胸はまた別の意味でざわつき始めた。
「ここで静かにいていれば多分大丈夫かと」
「だな。まあ勝手に鍵を開けるのはアウトだと思うけど今は助かったよ。ありがとう」
近づく吉岡を、俺も歩き出して通り過ぎて俺が窓に向かう。窓はすりガラスのため外からはそう簡単に見えないだろう。少しだけ開かれた窓の隙間から新鮮な空気を取り入れる。そんなことをしたところで胸はざわざわしたままであるけど、何かしていないとこの緊張がばれてしまいそうだった。いや、もうばれているかもしれないけど。
まだ校内は静かで、時間を確認しようとスマホを手に取ると後ろ髪をサラリと撫でられ肩を大げさに揺らしてしまった。振り返った先にはもちろん吉岡。俺を見下ろし、伸ばす手を引っ込めないでまた髪の毛を触ろうとしている。
こんな状況で、そして密室に2人きり。なんだか仲間意識や連帯感なども生まれていてそして吉岡はわざと妙な雰囲気を作り出そうといている。努めて冷静に「触るなよ」と言ったところで、一気に外が騒がしくなる。
「始まりましたね」
窓側とは反対の壁に振り返り、吉岡がつぶやいた。反対の壁は廊下側だからものすごい勢いで通り過ぎていく生徒達の足音や怒号が良く聞こえた。「二ノ瀬」や「会長」と叫んでいるのが分かり恐怖を与えるには十分すぎた。人一人を自由にするのってそんなにテンションが上がるものなんだろうか。恐ろしすぎるわ。
でも大声を出したら存在を明かしているようなもので隠れている側にしては有難いかも。
一気に廊下が静かになったと思ったらガラッとドアを引く音が聞こえた。どうやら一部屋一部屋探している生徒もいるようだった。当然といえば当然だが。
ボソボソと話し声もするから何人かで探しているのだろう。ビン詰めが置かれた戸棚を乱暴に開ける音がいくつも重なる。息を潜めて耳を澄ましていると「佐野ちゃん」と俺の名が会話の中に出てきてぎくりとした。
声も近くになり会話も鮮明になる。ということはこの準備室に近づいているということだ。
「……かんねーわ、お前の趣味」
「いや、泣かせたくなるんだって!」
「ドSかよ」
「縛って目隠しして、んで後ろから突っ込んで。とりあえず一通りのことはしたいわけっすよね。乳首とチンコにピアッシングなんて面白そうだし。引っ張りたい」
「変態だな、お前」
「だって佐野ちゃんて生意気そうな顔してるじゃん。スパンキングも似合いそう。そんでもって泣いたら可愛いはず」
おいおいおいおい、なんて物騒な妄想しているんだよド変態。
驚きで眼を見開いていると目の前のドアノブがガチャガチャと音を立てながら小刻みに動き出した。咄嗟に息を止めてドアを凝視した。
鍵が掛かっているから開くことはないけど、もし吉岡みたいに鍵を開けられるやつだったらどうする。そうだ、吉岡が開けられたんだから他に開けられる奴らがいたって不思議ではない。
11
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる