生徒会書記長さん

梅鉢

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第三章

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説明する気があったことに驚いたが、せっかくだし気が変わらないうちにと表情には出さず我慢した。

「……何からって、はじめから全部だ。俺が関わったすべて」
「俺もほとんど成り行きであそこにいるのでどうでもいいことは省かせてもらいますけど、そうですね、あの連中から説明しましょうか」

落ち着かない様子なのか、椅子を左右にゆっくりと回しながら話す吉岡は床に視線を落として俺を見ようとはしなかった。

「あの近辺に住んでいる不良以上、ヤクザ未満みたいな連中で、まぁチンピラみたいなもんです。自分達では上等の気になっていますがね。奴らのモットーは“日本の治安を悪くする”だそうですよ。頭の悪さはこの辺で一番なんじゃないかと思います」

自分だってその一員のくせに、バカにするように鼻で笑い、実際バカにしているようなセリフが不思議だった。

「あのスキンヘッドのチームは5年前に出来たそうです。昨日いたビルはたまり場にいるようになったのも5年前から。90年代中盤、チーマーとやらのたまり場だったものがギャル男やホスト崩れ、チンピラになってそして今の坊主頭たちのたまり場に。それぞれかかわりはないようですが、あの部屋は一種の伝説のようになっているとかなんとか。一部の人間達はあのビルには近寄らないそうですよ、いつもなにかしらのコトが起こっているからと。あの中には警視庁のキャリアの息子もいるし、祖父が代議士なんてのもいます。今は事情があるような“元”お坊ちゃまが多いですね」

どうでもいいことは省くといいながらどうでもいいことをつらつらと話され、もどかしくなる。聞きたいことはそこじゃない。それは吉岡も分かっているはずだ。
手にあるお茶はまだ冷たく、寝起きの暖かかった俺の体温を奪っていっていた。

「それで、今のチームを作ったのが俺の兄なんです。一番上の兄が17のときに。理由は色々あったみたいですが真面目な兄だったので教えられたときは衝撃でした。まぁ、2番目の兄も高等部に入ったときに目付けみたいなことをしていて成り行きで俺も、という感じです」
「……な、んだよその理由」

あんな非道なことを平気でする集団の目付けだ?
目付けってどんな意味だよ。真面目だという兄もそんなものを作っておいて本当に真面目な人間だと思っているのか。

「兄は薬と人殺し以外ならだいたいを許していたので、俺もそんな感じで、といったところでしょうか。あそこで起きたことは兄にもすべて報告はしていました」
「……他の犯罪は平気なのかよ」
「平気ではありませんでしたけどね。慣れも出てきました。目付けと言っても一番の新入りなんでそれほど俺の言うこともきくやつらでもなかったし。だから昨日は何事もなく助けることができずにすみません」

あんなことばかりして、ばれたらどうするつもりなんだ。もし誰かが通報してあの場に警察でも来たら自分が実行犯じゃないとしてもその場にいたことで捕まってしまうのに。
兄2人がそうやってきたからとあんな馬鹿なことを受け入れるのはおかしすぎる。

「お前に謝られても……」
「俺もいつも行っているわけじゃないです。昔からストレスの発散方法が喧嘩だったし。中1くらいかな……親が護身のために習わせてくれていたものをたまたま絡んできたやつらに返り討ちにしてから始めたことですが。あまり治安の良くない場所では俺みたいな外見だと格好の餌食なんでしょうね、かなりの確立で絡まれるのでわざと通っていました。ここに入ってからは寮生活だし、ガス抜きに時々あの部屋に行ってたんですが……」

今まで無表情で淡々と説明していたのに、ふっと息を吐いた吉岡は情けなく眉を下げた。立ち上がってベッド脇に腰を下ろし「昨日は本当に運が良かった……」と続け、俺の頬に手を添えてゆっくりと親指で撫でてきた。吉岡の瞳が優しい色をしていてこんなときなのに思わずドキリと胸が高鳴る。じんわり顔に熱が集まってきていたからもしかしたら赤面しているかもしれないのが恥ずかしくて布団で顔を隠した。

妙だ。
なぜ吉岡にときめかなきゃならんのだ。ドキドキして煩い心臓は俺の体ごと揺らしているようでこれまた恥ずかしすぎる。だいたい吉岡に言いたいことはいっぱいあった。あんなクソみたいな集団の一員でいることに説教もしたかった。犯罪軍団の一員でいることの危険だって説いてやりたかった。
でも今はもう面と向かって何かを言える状態でなくなってしまった。

「でも、あのチームの一番の古株が、というよりも兄がその古株のために作ったチームなのでそいつが22になったらあのチームも終わりなんです。そういう契約らしいので。……あと半年くらいですかね」

だからなんだよ。どんな理由があるか分からないがあんなチームを受け入れたくせに、自分にまったく非がないとでも言うのか。

「……あと半年だから誰にも言うなって? 我慢して知らないフリをしていれって? もう話題には出すなって?」

布団の中で早口でまくし立てた。
心臓のドキドキはおさまらないし、声を出したら震えているし最悪だったが言わなきゃ俺の気がすまなかった。

背中側のマットが沈み、ギシリと小さくベッドが鳴った。近づく気配に身を固める。布団の上から抱きつかれ、まさかの吉岡の行動に驚いて大げさに体を揺らしてしまった。

「そうは言いませんけど……。なにに気を病んでいるのか分かりませんけど、もしアレを気にしているなら俺が上書きしましょうか?」

体から少しだけ重みが消え、ゆっくりと布団をめくられて光が入り込む。その先に視線を向けると真剣な眼差しで俺を見下ろす吉岡がいた。胸のドキドキは消えない。悟られる前に俺から離れて欲しかったがここで焦るのもなんか違う気がした。

「……上書きってなんだよ」
「上書きは上書きです。色々しちゃえばあの程度のことなんて忘れてしまいますよ」
「あの程度って……どの程度だよ」

吉岡の真っ黒い綺麗な瞳が近づき、それがゆっくりと閉ざされところでついうっかり、つられるように俺も目を閉じてしまった。
本当、うっかり閉じてしまったんだ。
いつもこうやって理由付けしている気がしたけどそれは置いておくことにした。
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