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第三章
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しおりを挟む路地裏で男達と鉢合わせしてからビルに連れてこられたのは長いような、でもほんの一瞬の出来事だった。
ビル内の廊下は窓があるのに全部に遮光カーテンが付けられているのか隙間からの光だけしかなく薄暗い。それなのに男達はなれたものなのかずんずんと先へ進む。
抱き込まれた体はまったく言うことが聞かず、強張らせるだけしか出来なかった。知らない土地での知らない場所。始めは手でふさがれていた口も何かの布を押し込められ、乱暴なそれに時々えずいては涙目だった。
「ぼくちゃん、着いたよ。ようこそ~」
低くかすれた男の声。
後ろ向きで抱えられていたため、ガチャリとドアが開かれるのを耳だけで捕らえ、中へ連れて行かれる。
部屋に入っても薄暗い。真っ黒な部屋に小さな青い間接照明だけが壁にいくつかあるだけだ。
どこか信じられない気持ちがあった。つれてこられたたはいいがまだ夢かもしれないと、抱き込まれた腕は痛いが本当にこの感覚は現実のものなのかと。意識と体が別物になっている気がしていた。だいたい俺を捕まえてどうしようというのだ。こいつらは「ぼくちゃん」と俺を呼んだから男だと分かっているはずだ。かつあげだったら路地でもできたはずだし、買ったものも興味がないのか捕まえられたときにむしり取られてその場で捨てられた。
こんなところまで連れてきて一体なんだというのだ。
「よいしょー」
「……うっ!」
ぐるぐると思考を巡らせていると体を思い切り投げ飛ばされた。ぐっと眼をつぶって耐えたが、マットのようなものがあって痛みはなかった。マットがなかったら下手したらどこかケガをしていたに違いない力強さと勢いだった。男子高校生を軽く投げ飛ばす力があるって何者だよ。
マットは身じろぐのと同じくボヨボヨと動き、感じたことのないふわふわした感触はちょっと思考を停止させた。だから口を塞いでいた布を取り、ゆっくりと眼を開けて見た世界に驚いてヒュっと息を飲んだ。
そう長い距離でもなかったが、廊下を歩くときも男達はほとんど会話がなかった。そしてこの部屋に入ってきたときも静かだった。それなのに眼を開けるとそこには俺を見下ろしたり覗き込んだりする5人の男がいた。
驚きと得体の知れない恐怖で体が強張る。
「あ、怖がってるし」
「男だし俺はいらねー」
「俺も」
3人が興味なさそうに俺から去ってゆく。残ったのは路地から俺を連れてきた2人。
体を動かそうとするが、このマットは重心部分が沈むように出来ているのかバランスも取りづらい上に俺も体をうまく動かせなくてうまく出来ない。肘と足でなんとか後ずさりするが俺を「ぼくちゃん」と言ってはニヤけるスキンヘッドの男にあっさりと腕を捕らえられた。分かってはいたけど、力強いそれは俺の力じゃ振りほどくなんてことは出来なくて。
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