53 / 112
第三章
9
しおりを挟む苦手な商法や英語のテストも難なく終わり、無事、2年2学期の期末テストが終わった。やれるだけやったし、やっと勉強地獄から開放される喜びが湧き出る。
肩の力がすーっと抜けていくが、肩はガチガチだ。仕事をしていたほうが何倍もましだ。
力を出し切った俺はチャイムが鳴ってもボーっと教室の椅子に座って窓の外を眺めた。曇ってはいるが雨や雪が降るという空ではない。
寒いからすぐに帰ってこよう。
これから下界に行くのになんだか足が重かった。あんなに楽しみにしていたのに。
テストが終わってほっとしすぎているのか、それともこの中途半端な天気のせいなのか。気を抜いたときに風邪をひきやすいから暖かい格好で出かけよう。
「佐野、どうだった?」
いつの間にか、俺の横には松浦が立っていて俺を見下ろしていた。
呆けていた俺を不振に思ったのか、若干眉を寄せた。
「多分大丈夫」
「そうか」
「うん。過去最高になれそうな気がする」
ぼけっとしながらも思ったことを口に出すと松浦は嬉しいのかニィっと笑った。
「今日と明日は仕事も休みだ。ゆっくり羽を伸ばすといいさ」
「へーい」
俺のテストの様子だけが聞きたかったようで、松浦はすぐに帰っていった。入れ替わりで北村が教室にやってきた。俺を迎えに来たのだ。
北村にも同じようにテストの手ごたえを伝えながら寮へと戻っていった。
そこでお礼を言うが、松浦に言うのを忘れてしまっていた。御礼用に購入した洋菓子を持っていくときでもいいかと思い直す。
私服に着替えて北村と玄関で落ち合い、数分前に呼んだタクシーを待つ。
日は出ていないが気分は遠足だ。
初等部のころは遠足がなにより楽しみだったな。
歩いて行くのも、バスで行くのも、社会見学だといって電車で行くのもすべてが楽しかった。
「タクシーで行くってなんか味気ないかな」
「さあ、どうだろうな。バスも近くにあることはあるが」
「バスかー。懐かしい。中等部の時に乗ったっきりだな~」
「俺もだ。施設訪問したとき以来乗っていない。下界行くときはいつもタクシーだしな」
「今日はバスにしておけばよかったなー」
滅多に下界に行こうと思わないし、行きたいと思っても面倒で先延ばしにしてしまうから、なかなか遠足気分を味わうことが出来ない。
小さいボックスで揺られていくのも静かでいいが、やはりわくわく感がなかった。
窓の外の景色は少しずつ拓けてくる。山から平野、そして街へと。
北村も窓の外を見ながら、俺たちは会話もあまりなく目的地に向かった。
駅で降ろしてもらい、駅裏通りへ行く。
駅前と違ってそれほど栄えてはいないがそこにしかないショップが結構並んでいた。
駅裏メイン通りは明るくはあるが、一たび路地に入るとそこはすえた臭いのする古い街があった。
あまりガラのよくない地域とは聞いていたが、まだ時間は早いしメイン通りさえ歩いていれば大丈夫だ。
目当てのショップで北村にも見てもらいながら服を数点購入した。ネットでばかり買っているが、こうやって素材やサイズを確認しながら買うのはやっぱりいいよな。思っていたのと違うということがない。
「北村はどっか寄りたいとこないわけ?」
「いや、特に。ただちょっと小腹が空いたから何か食べたいな」
「だな。じゃー約束どおりジャンクなものにするか」
最近この駅裏通りに出来たというジャンクフード店へ向かう。ショップの紙袋がでかくて邪魔だ。ボコボコと歩くたび足に当たって痛いし。
こういったところがネットショッピングを止められない理由になったりするのだろう。荷物が邪魔すぎる。
店に入って注文をしようとするが、どうやらバンズから中身まですべて好きに注文できるらしい。
よく分からないので一番人気のオススメでと頼んだら、バイトのお姉さんはとびきりの笑顔で受けてくれた。
そうだ、これだよこれ。
普段の俺の生活に足りないものはこのお姉さんの笑顔。というか、女の子成分だよ。
何が悲しくてあんな男だらけの学園に3年も閉じ困らなきゃならんのだ。父親の出身校だと言って幼稚舎から通わされて何の疑問も持たずにココまで来てしまったが、さすがに高等部になれば共学のほうが楽しそうなことにも気づく。
女の子のような男はいても実際には女じゃない。
このふわふわした肌がいいんだよ。柔らかくて、いい匂いがしそうな感じがたまんない。
男のごつい骨組みと違うから肩だって華奢だし。手首だって骨が細いからちょっと力入れて掴んだら折れちゃいそうなくらいだ。男にはないものだ
11
お気に入りに追加
240
あなたにおすすめの小説



鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
Take On Me
マン太
BL
親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。
初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。
岳とも次第に打ち解ける様になり…。
軽いノリのお話しを目指しています。
※BLに分類していますが軽めです。
※他サイトへも掲載しています。

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる