生徒会書記長さん

梅鉢

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第三章

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――魔の金曜日。

それは南とのお勉強の日。いまだかつてこれほどまでに金曜日を嫌ったことがあるだろうか。小さい頃は休み前のこの日が一番待ち遠しかったというのに、今ではどうだ。金曜日という響きすら嫌いだ。

放課後、来週の木曜からテストが始まるため、これで最後の南とのお勉強だが、どうしても嫌で北村にお願いした。性活に忙しい南の手を煩わせることはない、俺が佐野に教えてやるよと言ってくれと。

「頼む! 一生のお願い!」
「佐野の一生のお願いはいったいいくつあるんだ」
「分からん! じゃー来世の分で!」
「なんだそれ。カナタとの勉強は今日で終わりじゃないか」
「そうそう、だからさ~」

鞄を持って生徒会室に向かおうとしている北村を阻止し、男子トイレに連れ込こんだ。

「南って頭いいから教えかたがおかしいんだよ。最後には問題も不思議と解けるんだけどそれまでの過程がおかしすぎて頭が混乱するときあるんだって」
「ああ、なんとなく想像つくかも」
「だから、お願い!」

手を合わせお願いするが、鞄を持ち直した北村は力なく笑うだけでうんとは言ってくれなかった。

「あれでもカナタは佐野との勉強も楽しいらしいからさ、すまんな」
「ええーそんなわけあるかー。俺を苛めて楽しんでるだけだろー」
「まぁ、そうとも言うな。俺はもう生徒会室行くから」
「くそうー。夜が来なければいいのにー」
「うまくやれよ。じゃあな」

嗚呼、最後の砦も行ってしまわれた。
俺に残るは南との勉強会。
北村が去ったドアを見つめて途方に暮れた。




夜なんて来なければいい。

しかし無情にも夜はやってくる。それこそ誰にでも平等に、だ。

夕方に南から20時すぎに行くと連絡があった。
ただいまの時刻は21時。
舐められているんだろうか。

正座をして待っていたが足もしびれて仕方ないのでソファにだらりと横になった。
ついでにテレビもつけた。
見慣れないドラマがやっていた。昔やっていたドラマの特別編とやらで、キャストが全員バブルの匂いがした。
それが珍しくて付けてみたがノリが合わない。
 
バラエティでもやっていないかなと番組表を出したところで部屋にコールが鳴り響く。
驚きにビクッと体を揺らしてしまい、急いでテレビを消した。
テレビをつけていたら何を言われるか分からない。
勉強の妨げになるようなものは一切禁止とまで言われていたから。

しかしこれだけ待たせておいていったいどういうつもりだと、一言小言は言うつもりでいた。

だからドアを開けたときにいるのが南じゃなくて吉岡だったときはまた驚いた。
小言も喉に詰まってしまって始めの言葉が出てこない。「どうしたんだ?」と。

「今大丈夫ですか?」
「え、あ、うん」
「副会長に頼まれたんですけど」
「え、何を?」
「佐野さんに聞けば分かるとしか聞いてないんですが」
「!?」

まさか?
まさか!?
吉岡に勉強を見てもらうんじゃないだろうな。

「お前、理由も分からずに頼まれごとを承諾したのか?」
「副会長に英語は得意かどうか聞かれたので、得意だと答えたら『じゃあお前に頼むわ』と一方的だったので」
「あのヤロー……」

不思議そうに俺を見ている吉岡になんていえばいいのか悩んでしまう。
腕を組んで悩む俺に吉岡が4つ折りにされた1枚の紙切れを寄越した。
受け取り、吉岡を見上げると“見てくれ”とでも言うように頷かれた。
紙切れを広げてみるとそこには大きさの統一性がまったくない、踊るような文字がごちゃごちゃと書かれていた。

この性格とまったく一緒の感じ、南の字だ。

“用事(内緒)が出来たので吉岡に代役を託すのでよろしく。
吉岡は中学の時に英検準1級とって、TOEICは800越えだからお前よりも頭いいから大丈夫。ちなみにブッチしたらどうなるか分かってんだろうな?俺が松浦にドヤされんだぞ。
マイラバー市也くんへ 愛しのカタナより”

脅しかよ……。
いや、突っ込みたいところはそこじゃないんだけど。
代役なら北村か松浦で……松浦は忙しいから北村でいいじゃないかと思うんだが。
なぜここで吉岡なのだ。いや、俺は英検準2級しかないし、TOEICなんて受けたこともないから俺よりは遥かに英語力があることだろう。

読み終えた紙切れをぐしゃぐしゃに丸めてゴミと化してやる。
この間、吉岡は黙って俺を見ていた。
細く息を吐き出す。

諦めよう。
諦めてしまえば簡単な話だ。

ただ、理由を話して吉岡が断るのならそれでいいことにしよう。俺だったら年上に勉強を教えるなんてことは申し訳なくて出来やしないから。
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