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第三章
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定期テストなんてクソ食らえだ。
1学期に免除されていた科目も追加となり全部で18教科とか、俺に仕事をさせない気なんだろうか。
それぞれの教科の範囲を書き出しただけでも時間が掛かってすでに勉強する気をなくしている。
まっさらなノートを開くはいいが、ここに書き込む気も起きない。ため息をついてテーブルに突っ伏した。
今年の生徒会主催のイベントは去年よりも参加人数が少なくなりそうだから、こじんまりとしたものにしようとなり、ベタに『宝探し』となった。
クリスマスパーティーや餅つきなど時期ものの案が多かったが、派手に何かするのが面倒くさいので多数決で宝探しとなった。
もちろん俺も一番簡単そうだったこの宝探しに手を上げた。
宝の内容を考えるのがまた面倒だけど、それさえクリアしてしまえば準備に手が掛からない。その分勉強に専念できる。
宝候補を真っ白なノートに3つ4つ書き出し、そのページを破った。
小さく折ってポケットにしまい込んだ。ついでにカードキーもポケットに。
勉強なんてもう止めだ。
生徒会室に行こう。
本当はテスト勉強しろと言われ、松浦からは俺だけ仕事を免除されているのだが手につかないのは仕方ない。
いくら中間テストが30位だったからって、俺だけ免除って恥ずかしすぎるわ。
確かに生徒会の奴らは5番以内、悪くて10番以内と頭のいい奴が多い。俺が特殊といえばそうだが……。
3棟校舎はいつでも静かだ。
時々風紀が忙しそうにバタバタと走っていることがあるが、一般の生徒の出入りはないしいたって平穏。
生徒会室のドアを開ける。
机に向かっていた皆が一斉に俺に注目した。
「どうしたんだ。期末が終わるまでは免除されているんだぞ」
「いや、うん」
不思議そうに見てくる松浦。
俺もさっさとこのメモ書きを渡せば良いのに、注目されているのが恥ずかしくてなんだかやっぱり来なければよかったかなと思い始めていた。
「バカ佐野。どうせ勉強が手につかないんだろ」
顎を上げ、ニヤニヤとしながら南が言うからむっとして睨んでやる。
「宝候補が浮かんだから持ってきただけだし」
「スマホから送ってこれるだろうに~」
「うるせー」
一番奥の席の松浦にポケットに入れていたメモ紙を渡す。
南から図星を指摘され、ますます居た堪れない。
吉岡はいつもどおり熱心に仕事をしている。
ふがない先輩ですまんな、ほんと。
PC画面に夢中の吉岡の肩をポンと叩き、少しかがんで顔を覗いた。
「すまん、俺の分までやっているだろ」
「大丈夫です。先輩方が教えてくれているんで」
「そっか、俺も聞かれれば教えられるから、いつでも連絡しろよ」
「はい。まぁ大丈夫なんで」
俺を気遣ってなのかもしれないが、ちょっとその返答は寂しいものがある。いや、頼りになるけど。
*****
あのケーキを食い損ねた日の次の日夜、吉岡は「新しく焼いたんで」と新しいシフォンケーキを持ってきてくれた。
それも恥ずかしいのか、少しだけ機嫌の悪そうに。
苛立っていた俺はすうっと何かが溶けていくのが分かった。と同時に暖かなものがふんわりと俺を包んで。
暖かなそれは甘い焼き菓子の匂いと似ている気がした。
俺もなんだか恥ずかしくて、くすぐったくて照れた笑みしか出来なくて。もじもじとしてしまい吉岡にとっては大変気持ちの悪いことだったと思う。
「ありがとう」
「いえ。別に」
「昨日悪かったな。いらないって言って」
素直に謝れた。
意地でも謝る気もなかったし、話題にも出したくなかったけど、吉岡が俺のために作ってきてくれたと思うと謝罪でもなんでも出来きる気がして。笑顔だって向けれちゃうよ。
「佐野さんて……」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
「途中でやめられると気になるんだけど」
「気にしないでください。たいしたことじゃないので」
せっかくのいい気分も台無しにしちゃう吉岡が憎たらしい。
でも俺の手にはケーキがあるし、見逃してやるよ。
ほんと、こんなお菓子も作れる吉岡はいろんな意味で憎たらしいわ。
1学期に免除されていた科目も追加となり全部で18教科とか、俺に仕事をさせない気なんだろうか。
それぞれの教科の範囲を書き出しただけでも時間が掛かってすでに勉強する気をなくしている。
まっさらなノートを開くはいいが、ここに書き込む気も起きない。ため息をついてテーブルに突っ伏した。
今年の生徒会主催のイベントは去年よりも参加人数が少なくなりそうだから、こじんまりとしたものにしようとなり、ベタに『宝探し』となった。
クリスマスパーティーや餅つきなど時期ものの案が多かったが、派手に何かするのが面倒くさいので多数決で宝探しとなった。
もちろん俺も一番簡単そうだったこの宝探しに手を上げた。
宝の内容を考えるのがまた面倒だけど、それさえクリアしてしまえば準備に手が掛からない。その分勉強に専念できる。
宝候補を真っ白なノートに3つ4つ書き出し、そのページを破った。
小さく折ってポケットにしまい込んだ。ついでにカードキーもポケットに。
勉強なんてもう止めだ。
生徒会室に行こう。
本当はテスト勉強しろと言われ、松浦からは俺だけ仕事を免除されているのだが手につかないのは仕方ない。
いくら中間テストが30位だったからって、俺だけ免除って恥ずかしすぎるわ。
確かに生徒会の奴らは5番以内、悪くて10番以内と頭のいい奴が多い。俺が特殊といえばそうだが……。
3棟校舎はいつでも静かだ。
時々風紀が忙しそうにバタバタと走っていることがあるが、一般の生徒の出入りはないしいたって平穏。
生徒会室のドアを開ける。
机に向かっていた皆が一斉に俺に注目した。
「どうしたんだ。期末が終わるまでは免除されているんだぞ」
「いや、うん」
不思議そうに見てくる松浦。
俺もさっさとこのメモ書きを渡せば良いのに、注目されているのが恥ずかしくてなんだかやっぱり来なければよかったかなと思い始めていた。
「バカ佐野。どうせ勉強が手につかないんだろ」
顎を上げ、ニヤニヤとしながら南が言うからむっとして睨んでやる。
「宝候補が浮かんだから持ってきただけだし」
「スマホから送ってこれるだろうに~」
「うるせー」
一番奥の席の松浦にポケットに入れていたメモ紙を渡す。
南から図星を指摘され、ますます居た堪れない。
吉岡はいつもどおり熱心に仕事をしている。
ふがない先輩ですまんな、ほんと。
PC画面に夢中の吉岡の肩をポンと叩き、少しかがんで顔を覗いた。
「すまん、俺の分までやっているだろ」
「大丈夫です。先輩方が教えてくれているんで」
「そっか、俺も聞かれれば教えられるから、いつでも連絡しろよ」
「はい。まぁ大丈夫なんで」
俺を気遣ってなのかもしれないが、ちょっとその返答は寂しいものがある。いや、頼りになるけど。
*****
あのケーキを食い損ねた日の次の日夜、吉岡は「新しく焼いたんで」と新しいシフォンケーキを持ってきてくれた。
それも恥ずかしいのか、少しだけ機嫌の悪そうに。
苛立っていた俺はすうっと何かが溶けていくのが分かった。と同時に暖かなものがふんわりと俺を包んで。
暖かなそれは甘い焼き菓子の匂いと似ている気がした。
俺もなんだか恥ずかしくて、くすぐったくて照れた笑みしか出来なくて。もじもじとしてしまい吉岡にとっては大変気持ちの悪いことだったと思う。
「ありがとう」
「いえ。別に」
「昨日悪かったな。いらないって言って」
素直に謝れた。
意地でも謝る気もなかったし、話題にも出したくなかったけど、吉岡が俺のために作ってきてくれたと思うと謝罪でもなんでも出来きる気がして。笑顔だって向けれちゃうよ。
「佐野さんて……」
「ん?」
「いえ、なんでもないです」
「途中でやめられると気になるんだけど」
「気にしないでください。たいしたことじゃないので」
せっかくのいい気分も台無しにしちゃう吉岡が憎たらしい。
でも俺の手にはケーキがあるし、見逃してやるよ。
ほんと、こんなお菓子も作れる吉岡はいろんな意味で憎たらしいわ。
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